【ショートショート】急性カーテンコール中毒
ここには役者の躍動する衣擦れも舞台監督の厳しいダメ出しも、ましてや観客たちの万雷の拍手も、ありはしない。
あるのは機械が奏でる呼吸音。私の生命線。白いカーテンの向こうは目を輝かせた観客ではなく、私と同じように死神の来訪を待つばかりの年寄りばかり。
役者を引退して長いこと時が過ぎた。私はもう一度だけ、あの空気を埋め尽くすほどの拍手を聞きたい。
しかし、私が舞台に帰ることはもはや叶わない。私の命は風が吹けば消えてしまいそうなほど。ああ、あの音をもっと浴びればよかった。何度でも舞台袖から顔を出せばよかった。彼らの一人一人と目を合わせ、その目に称えた光を見ればよかった。
命が終わる。光が消える。こんな思いを抱いて私は逝くのか。
医師が近寄ってくる。私の脈を測る。誰かに向かって頷くと、ベッドを取り囲むカーテンを閉めた。
すると、聞こえた。カーテンの向こうから、パラパラと、それは徐々に数を増やし、部屋中を埋め尽くすほどの拍手が鳴り響く。親族や医師、看護師や病室の患者だけでは足りないだろう。昔のファンの顔が浮かぶ。ああ、みんな、来てくれたのか。
白いカーテンが緞帳に変わる。青白い蛍光灯がスポットライトに変わった。カーテンコールが鳴り響く中、私は空への階段に足をかける。すでに逝った仲間たちと手を取り合うと、最後のお辞儀をする。
「ありがとうございました」
その死に顔は、やせ細った老人のそれではなく、往年の舞台俳優のものだった。
終
うーん、ちょっとお題に沿っていない気がしますが😓
たらはかにさまの毎週ショートショート【急性カーテンコール中毒】に参加させて頂きました。
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