【ショートショート】女かタイ風
「どっちでもいい。どちらを選ぶかは、お前次第だ」
そう言った男は、煙草の煙を心底うまそうに吐き出した。
「女か、ヌアットだ」
壁紙の剥がれた無機質な灰色の壁に囲まれた部屋の中、電灯が明滅する。部屋の隅に打ち付けられた古びた鎖が、嫌な予感を後押ししていた。右も左もわからない異国の地だ。選択には人生が懸かっている。
「他に、選択肢はないのか?」
「ないな。お前もわかってるだろ? ここまでのことをしたんだ。覚悟はできてるんだろ? 女か、ヌアット……だ」
パイプ椅子がおれの動きに合わせて抗議のように金属音を鳴らす。
「女……いや、ヌアットだ」
振り絞った声の震えを抑えるのがやっとだった。
「ヌアットで、いいんだな?」
男は煙草を無造作に投げ捨てると、無表情に言った。煙草の火が床に当たり、パッと最後の火花を散らせる。それは、おれが選ばなかったものの、最後の煌めきのように見えた。
「ひとつだけ、聞かせてくれ。ヌアットって、なんなんだ?」
男はにやりと笑うと親指を立てた。
「タイ風マッサージだ」
おれは選択を間違えた。数時間前、車に轢かれそうになったこの男を助けた。お礼にと連れてこられたこの地下室。怪しげな雰囲気に胸が張り裂けそうだった。
「それは……グレーか?」
「いや、ホワイトだ」
おれは奥歯を噛み締めて、裸電球を見上げた。
終
このお題ムズい。。
たらはかにさまの毎週ショートショート【女かタイ風】に参加させて頂きました。
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