「文車妖妃のメソッド」第6話:消えた審査員
居酒屋『それから』で2時間ほど過ごし、加藤はやっとの思いで気になっていることを聞いた。五十嵐文子だ。この話題に早くもっていきたかったが、タイミングが悪く、会話が重くなる予感がしてなかなか切り出せなかった。加藤の予想が正しければ、五十嵐文子は、既に。
「志村さん、五十嵐さんってどうしたんですか? どこに行っちゃったんですか? 何かあったんですか?」
コミュニケーション下手な会話のお手本のように、質問を矢継ぎ早にしてしまった。それを気にせず志村はもじゃもじゃ頭をかきながら答える。
「あっちゃー。ふうこんだろ、五十嵐のことを教えたのは。ほんと口が軽いねぇ。嫌だねぇ。全然ええやんじゃないねぇ。
まぁ、気になるわな。えっとな、五十嵐は文章大賞の生みの親。つまり企画者だな。第1回2回は俺と五十嵐ともう1人の3人で審査をしていた。ああ、もう1人は結婚して辞めたよ。で、3回目の今大会前に、詳しくは第2回大会後に、五十嵐は消えたんだ」
「消えた? どうしてですか?」
「んー。詳しくは俺も知らないんだけどな。五十嵐は社長に直談判して審査員から降りたらしいわ」
「え? そのあと五十嵐さんはどこへ?」
「……知らない」
嘘だ。志村さんは知っている。根拠はないがなんとなくそう思う。だって、彼女はオフィスに居るんだから。誰にも見えない五十嵐(仮)さんが、ずっと居るんだから。間違いなくこの世にいないはずだ。ということは第2回文章大賞後に何かあったのだ。表沙汰にできないなんらかの事件があったはずだ。会社はそれを隠している。なんだか不穏な気配がしてきた。なにこれ、ミステリーの世界? いや、幽霊だからホラーか。
「よっしゃ。この話題はおしまい。まぁ、五十嵐が審査マニュアルを残してくれてるし、期待の加藤くんもいるしな。文章大賞は俺らの試練でもある。素晴らしい作品なのに知名度がないってだけのライターや作家を見つけるんだ。
明日からハードだぞお。あ、そうそう。とりあえずエッセイ部門な。あそこは数が多くてねぇ。書きやすいから応募数が多いんだわ。お、悪い。仕事の話は仕事の時にやろう。嫌だねぇ。仕事人間って思われたくないねぇ」
「そんなことないですよ。志村さんが作るチームの雰囲気は好きですよ。志村さんの言葉のセンスも素敵です」
「加藤くんな、お会計の時だけ俺を褒めるのやめてくんない?」
もちろん奢ってもらった。
第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f
いいなと思ったら応援しよう!
最後まで読んで頂きありがとうございます!
また是非おこしください。
「スキ」を押していただけるとめちゃくちゃ感激します
感想をツイートして頂ければもっと感激です
ありがとうございます!感謝のシャワーをあなたに