見出し画像

「文車妖妃のメソッド」第3話:五十嵐文子の審査メソッド

第2話:幽霊女

「五十嵐さんは志村さんの同期でね。memo文章大賞の創設者なんだよ。私が入社した時は雲の上の存在でね。あ、昨年まで私は営業部なの。でね、五十嵐さんはビシっとした黒いスーツをいっつも着てて、まっくろな長い髪をオールバックにしてね、黒縁眼鏡が似合ってて、お姉さまって感じのキャリアウーマンなんだよー! 憧れの存在だったなー」

……え? 視界に入る、黒スーツ黒長髪で黒眼鏡の幽霊女(仮称)が、顔を伏せ肩を震わし笑っているように見えた。

「どしたの? 加藤くんは五十嵐さんを知ってるの?」

「え、いや、新井さんが言う五十嵐さんの見た目が、知り合いにそっくりだったので」

さっき知り合ったばかりの幽霊だけど、と加藤は心で補足する。

「そうなんだ。ええやん! でも五十嵐さんは今回の文章大賞の前に“いなく”なっちゃったんだよ。詳しくは私も知らないけど。志村さんだけかな、事情を知ってるのは。五十嵐さんと一緒に仕事をしたかったなー」

加藤の推理が正しければ、推理というか状況だけ見れば、五十嵐文子は、この世にいない。だって、誰にも見えておらず、そこに居るのだから。

「脱線脱線。で、応募作品を審査をするためのマニュアルがこの『嵐文メソッド』だよ。ここに書いてある10の法則通りに審査していくんだ」

「お、ふうこん、ありがとね。加藤くんに『嵐文メソッド』まで説明してくれたんだね」

もじゃもじゃ頭の志村がホットコーヒーを入れた紙コップを片手にオフィスに戻ってきた。新井から紙を受け取り、新井に代わり志村が説明を引き継いだ。

「これが創作大賞の審査の肝だよ。メソッドを満たしていない作品は、一次審査に残れない。だから加藤くん。この内容は口外禁止ね。社外持出も禁止。もちろんSNSにもアップしちゃダメ。審査基準ってことは、きちんと満たして書いてやると、審査に通りやすいって意味だからさ」

さきほどのA4紙を、新井は加藤が読める向きに渡す。なんだかとんでも無い代物な気がして、加藤は卒業証書のように恭しく両手で紙を受け取った。横書きの文字は、どこかの社訓のようでもあった。

嵐文メソッド「エッセイ編」

1.タイトルは凝っているか
2.書き出しは先を読み進めたくなるか
3.メッセージはあるか
4.プラスになるものがあるか
5.読みやすいか
6.わかりやすいか
7.エピソードが入っているか
8.助詞を的確に使っているか
9.言葉の重複はないか
10.誤字脱字はないか

幽霊女(仮称)改め五十嵐(仮)が、加藤の背後にまわって、紙をのぞいていた。怖さはいくらかマシになったものの、自分だけが見えている人間というのが落ち着かない。というか怖い。

「じゃあ、加藤くん。ちょっとこのあと俺に付き合ってー。今日はもう上がりでいいから」

「あー! 志村さん、加藤くんと飲みに行くんでしょ?」

「そだよー。ふうこんとちよさんはまた今度ね。んじゃロビーに10分後ね、加藤くん」

「……私は誘われても行きませんけど」

「はぁ、嫌だねぇ。ちよさんは冷たいねぇ。加藤くんはそんなこと言わないよね? あ、アルハラになるの、これ?」

「大丈夫です。片付けたらすぐに向かいます」

オフィスを出ようとすると、五十嵐(仮)の冷たい視線がまだ加藤を刺していた。

(また次の機会に話そうか)

加藤がオフィスを出る時に五十嵐(仮)は声をかけた。

第4話:新井ふうこと高木ちよ

第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

ヤスシ◆放課後ライティング倶楽部 最後まで読んで頂きありがとうございます! また是非おこしください。 「スキ」を押していただけるとめちゃくちゃ感激します 感想をツイートして頂ければもっと感激です ありがとうございます!感謝のシャワーをあなたに