「文車妖妃のメソッド」第11話:来訪
「よーし、今日も読んで読んで読みまくって審査するぞ。締め切り間もなくだぞ。そんで加藤くん、業務報告を読んだけど、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「いやいやいや、加藤くん、審査通過66作品って。何作品を読んだの?」
「6500くらいですね」
「いやいやいや、俺言ったよね? 半分を落とすつもりでって。計算できるよな? 6500なら3000ちょいは通さないと。そりゃ落としすぎだぜ」
「タイトルと書き出しが、弱いんです。志村さんも言ってたじゃないですか。賞をとった作品は本にするんですよね。しかもベストセラーを狙うんですよね。memo発ベストセラーでしょ? その視点で読むと、それくらいの作品しか残りません。これでも多すぎるぐらいです。あと作品内に筆者のエピソードがなさすぎです」
「……言うじゃねぇか。おい、タイトルと書き出し最優先って言ったよな。エピソードだと? 加藤、素人のお前が、いつからそんなおもしろいことを言うようになったんだ?」
「嵐文メソッドの申し子なんで」
「……かぁ! まいった。まいりましたよ。新人は怖いね。まぁいいや、もうちょい緩めに審査してくれよ」
志村は変な汗が流れているのに気づいていた。そのせいで加藤に強く言ってしまって後悔がすぐにやってきている。なんとか冗談っぽい流れにしたが、口調が厳しくなってしまった。エピソードだと? しかもタイトルと書き出しだけで9割を落とすだと?
それは、志村の嵐文メソッドではない。五十嵐文子の審査だ。
(いいぞ、加藤。よくぞ言った。それでこそ私が認めた最強読者だ)
「加藤くん、すごいね。志村さんとやり合うなんて、ええやんええやん」
「こら、ふうこん、よくねえだろ」
加藤は五十嵐(仮)にずっと教えを受けていた。最近では加藤が選んだ作品を(いい視点だな)と褒められるくらいになっていたのだ。それに加え、歴代のベストセラーと呼ばれる作品の書き出しを図書館で調べていた。休日は本屋に行き、本のタイトルを研究していた。memoで人気の記事も空き時間に読んでいた。加藤も文章漬けな日々を送っていたのだ。
「あいかわらず、声がでかいね。志村くんは」
オフィスの入り口で声がした。そこに立ってたのは、黒いスーツに黒眼鏡、黒い長髪を後ろでまとめオールバックにした女性だった。顔は違うが、話に聞く五十嵐文子、その人であった。五十嵐(仮)は顔を伏せ肩でひくひく笑っている。
あれは、誰だ。
なぜここに実物が現れるんだ。
理解が追いつかない。やっと納得した現実が再び崩壊する。
加藤はあの時のように、トイレに駆け込んだ。
第1話:https://note.com/u_yasushi/n/n50fe762ef006
第2話:https://note.com/u_yasushi/n/n2aefa79ddb17
第3話:https://note.com/u_yasushi/n/n7766d2efafdd
第4話:https://note.com/u_yasushi/n/n14db0d504832
第5話:https://note.com/u_yasushi/n/ne3df7df82afc
第6話:https://note.com/u_yasushi/n/nce363b3a3b6d
第7話:https://note.com/u_yasushi/n/n988d2fbbea88
第8話:https://note.com/u_yasushi/n/nc7891dfdb586
第9話:https://note.com/u_yasushi/n/nf24d6f4b8133
第10話:https://note.com/u_yasushi/n/n7df18307a437
第11話:https://note.com/u_yasushi/n/n3729eec39423
第12話:https://note.com/u_yasushi/n/n986740e6ffa6
第13話:https://note.com/u_yasushi/n/ne4d645a75975
第14話:https://note.com/u_yasushi/n/na38f84e5a63f
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