テニス上達メモ501.「音の世界」、その可能性に賭けてみる(副題:考えるな、聴け!)
▶「音の世界」で「2人きり」の練習
ミスタープロ野球こと長嶋茂雄さんの追悼番組、ご覧になった方もたくさんいらっしゃると思います。
そのなかで明かされたいくつかのエピソード。
4球団競合の末に、巨人に入団した松井秀喜さんを4番に育てるために、マンツーマンで指導したそうです。
場所は野球場ではなく、長嶋邸の地下室。
部屋を真っ暗にする「音の世界」で、例の感覚(センス)を引き出す「2人きりの練習」をしたそうです(関連記事「頭で考えるな、感じろ! 『チューっ』」)。
松井さんの素振りを聴く長嶋さんは、「音が割れている」などと言う。
「速くバーッと振ると、ろくな音がしないよ」「静かにサッ、サッと。音がパッパッパッと、あとでついてくるからね」などと指導したそうです。
松井さんは当時を振り返って苦笑し、「分からないですよ。本当に(監督は)分かってるの?」などと、おどけるふりをしたけれど、「分からなくていい」んです。
いえ、「分からないからいい」という話はこちら。
分からないから、できるのです。
▶「分かる」というより、「つかむ」
その後2~3年かかって「分かるようになってくるんですよ」と松井さんが伝えた真意は、理屈ではなく「この感じで振ったら、その音が出るんだと自分の体でも耳でも少しずつ分かってくる」というフィーリングなのでした。
それは「分かる」というより、感覚を「つかむ」という表現がふさわしい。
「では詳しく説明してください」などと松井さんに意地悪く問えば、論理的な言葉は、出てこないはずなのですから。
「音の世界」に取り組んだ結果、ホームラン38本、打率3割超え、 シーズンMVPを獲得し、年俸は1億円を超えたそうです。
これが、知識を凌駕する智慧による格差なのでしたね(関連記事「学校じゃ教えない。『知識』と『智慧』で稼ぎ方に超格差」)。
▶型にハメないハマらない「スーパースタ列伝」
打ち方やフォームの理屈ではなく、音を耳で捉える感覚の世界。
イチローは中学の野球部入部にあたって「フォームはいじらない」条件を父親・宣之さんが監督と交渉し、チーム加入に至りました(関連記事「伊藤あおい、錦織圭、そしてイチロー」)。
一軍打撃コーチはイチローがファームにいた頃にもイチローの父親へ打撃改造を相談して断られている(鈴木宣之著『イチローとわが家ほんとうの話』)
スカウトに、「あんなフォームじゃとらへん」と酷評されてなお、自分の投げ方を変えなかったのは、野茂英雄でした。
そして長嶋さんは周囲のコーチ陣に、高橋由伸には打撃指導しないようにと、伝えていたそうです(関連記事「『由伸を指導してはならない』高橋由伸氏へミスターから愛の素振り伝説」)。
型にハメる・ハマる危険性を示唆する「スーパースター列伝」なのでした。
▶誰もがフィーリングでプレーする天才
イチローは、長嶋さんを送る言葉に「理屈ではなくフィーリングでプレーする方」と言ったのはそのとおりなのだけれど、より厳密に言えば、誰もがフィーリングでプレーします。
ただ、「理屈が邪魔をする」だけなのです。
テニスで言えば、多くの愛好家は理屈でプレーしようとする「人工さん」だから、こちらで述べた天賦の才能を活かせないだけなのです。
辞書を紐解くと「天然」とは、人為が加わっていないこと、自然のままであること。生まれつきの性質、本質をいう「ありのまま」なのに対し、「人工」とは、人間が自然に手を加えること、または人間が作り出した、文字どおり「加工」なのだと引けます。
▶「音のない世界」「光のない世界」のプレー
逆に言えば、「音のない世界」「光のない世界」で行うプレーが、いかに難しいかに思いを馳せる。
せっかくの与えられたセンス(感覚)。
とはいえ、「自ら目隠し・耳栓する人たち」が後を絶ちません。
理屈(思考)が介入すると、感覚(センス)が閉ざされる。
それは、せっかくの天から授かった才能をスポイルする冒涜とは、言えまいか。
▶「感覚」を通じて成長するのは人もカバも同じ
「音の世界」などと言われても、理論、理屈が常識化した指導情報が先に入ると、どうしても怪しまれがちかもしれません(関連記事「アヒルの赤ちゃんは『初めて見たものを親と思う』から」)。
スイングが風を切る音ばかりではありません。
耳を澄ませば聴こえてくる。
インパクト音を自分の耳で聴くフィードバックを通じて、面の真ん中で当てられるようになったり、スピンをかけられるようになったり、飛距離をコントロールできるようになったりもしてきます。
それは、理屈ではなく、感覚の世界です。
そういう「感覚」を通じて進化成長する「自然上達の能力」が、動物には備わっているのです(関連記事「カバの母さん賢い母さん、教えずに泳がせる」)。
▶才能は生まれながらに授かっている
人為を加えない生まれ持った「感覚」でプレーすると、その人の才能は真っ直ぐに引き出されます。
加工するから、歪みます(関連記事「『本物の素直』と『偽物の素直』。テニス上達のためにどちらを選ぶ?」)。
改めまして、見えるのも、聴けるのも、味わえるのも、嗅げるのも、感じることができるのも、自分の努力で獲得したというより“授かりもの”。
そしてそれら授かった「感覚」こそ、能力を引き出す「センス」です。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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テニスゼロ代表
吉田無型(よしだ・むけい)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero