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テニス上達メモ199.「いっぱいこけてもいいんだよ」――浅田舞さんの言葉が示す「上達の仕組み」

「いっぱいこけてもいいんだよ。そうしたら上手になるから」。
浅田舞さんが初めてスケートに挑戦する少女へかけた言葉。
ミスを怖れず挑戦すると伸びる「仕組み」は、フィギュアだけでなくテニスの上達にも通じます。


▶ミスの数だけ、体は「正解」を覚える


4歳のときの脳出血が原因で、右半身が不自由になった11歳の少女がスケートに初挑戦。

練習でリンクに立ったとき、元フィギュアスケーターの浅田舞さんが開口一番、少女に語りかけた言葉がこれ。

「いっぱいこけてもいいんだよ。そうしたら上手になるから」

後述しますが、初めてコートに立ったとき、「いっぱいミスしていい」と言うテニスコーチは、多くはいません。

▶いつからミスは「悪」になった?


私たちは一般に、「ミスをするな」と言われます。

そして、ミスが悪いものだという価値観を身につけていきます。

だから、ミスをすると罪悪感を覚える。

しかし、ミスの経験を重ねなければ、ミスしない方法は身につきません

こけなければ、自転車に乗る技術は身につかないのです。

生まれたてのころは、ミスが悪いなんて、思ってはいなかったのです。

▶ミスを忌避すると、負のループに入る


「ミスをしてはいけない」という価値観が備わると、「ミスする」→「罪悪感を覚える」→「萎縮する」→「さらにミスする」というループに陥りがちです。

一方、現実はどうでしょうか。

「いっぱいこけてもいいんだよ。そうしたら上手になるから」

自転車も、最初は何度も転びます。

しかし何度も試すうちに、乗れるようになる。

その、乗れるようになるときの変化は一瞬です。

そして一度身についた技術は、もう失われません。

そういう一瞬の変化を身につけるために――。

▶脳は試行錯誤から学ぶ


テニスの上達も同じです。

初心者の段階では動きの選択肢が多く、どのタイミングで、どのように体を動かせばいいのかの脳神経回路が整理されていません。

だから同じような場面でも、上手くいったり、ミスをしたりを繰り返します。

一方、上級者は試行錯誤の体験によって、必要な動きが整理されています

ボールに対する適切な反応が、無意識で出てきます。

このような技術を身につけるには、どうすればよいでしょうか

▶脳にとってミスは、効率的な動きの「材料」


技術習得の背景には、小脳による運動学習があります。

小脳は、経験してきたさまざまな試行錯誤の中から、より適切な動きを選び取り、取捨選択していく役割を担います。

つまりミスは単なる失敗ではなく、より良い動きを身につけるための「材料」

こうした脳の可塑性は、大人になっても失われません(関連記事:脳は「あとから変われる」ようにできている)。

ですからレイトビギナーでも、後述する「理論」に則れば、突然乗れるようになる一瞬の変化を体験できます(関連記事:大人が「ジュニア選手」のように上手くなるには?)。

▶脳内迷路が「最短ルート」に変わるまで


私はこの過程を、親しみやすく覚えていただけるよう「あみだくじ理論」と呼んでいます。

何それ?

どういうこと???

最初のあみだくじは、横棒がたくさんあり、どこへたどり着くのか分かりません。

間違えも多くなります。

これがテニス初心者の脳内回路です。

しかし、試行錯誤を繰り返す中で、不要な横棒が取り払われ、目的地までの効率的な道筋が見えてくる。

当たりくじまで一直線というわけです(関連記事:「4+4+4+4+4+4+4+4」vs.「シワ32!」)。

▶脳に「けもの道」を走らせよう


テニスをはじめとする運動の上達は、この仕組みに則ります。

ミスを経験することで、「この動作やバランス、タイミングは不適切」という情報が蓄積され、よりシンプルで安定した道筋に脳神経回路が整理されます。

そして、その動作やバランス、タイミングを繰り返すことで、回路はより強固になっていきます。

これは、無意識で起こる変化です。

▶ミスを繰り返してもテニスが上達しない人


ところがわざとミスしても、運動神経は伸びないのでしたね。

動きやバランス、タイミングが、意識的になるからです(関連記事:意識すると「わざとらしい」)。

「でも、私はわざとじゃなく、たくさんミスもするけど、上手くなりません……」

そういう人は、わざとミスしているわけではないけど、ミスに「反応」してしまっています。

「うわっ」「しまった」となるから、罪悪感を強めて、例のループにはまり込むのです(関連記事:「反応しない練習」が上達を加速する)。

▶「落ち込まない」とは、感情の抑圧ではない


「ミスをしても落ち込まないメンタリティ」と表現することもできますが、落ち込む感情そのものを否定するわけではありません

落ち込みたい気分で落ち込める状況のときには、落ち込むのが「ありのまま」(関連記事:本当の「タフネス」はやさしい)。

ただ、ミスをして落ち込むのは「ミスは悪いもの」「してはいけないもの」と思っているからであり、実際には「いっぱいこけてもいいんだよ。そうしたら上手になるから」――。

そうであるならば、無理に気持ちを押し殺そうとしなくても、自然と落ち込まなくなります。

▶指導者がミスを怒ると、生徒のプレーは「無難」になる


私たちはややもすれば、ミスしない方法ばかりを求めがちです。

未だに指導の現場においては、ミスする生徒がいたら怒る、咎める風潮(関連記事:怒らないから勝てる──広陵高校の途中辞退と益子直美さんが示す「新しい指導の力」)。

怒られないために「いい子ちゃん」になってしまうのです。

そうしてどんどんプレーが萎縮し、消極的になっていきます。

▶こうすれば、速く高く上達する人になれる


そうではなくて、ミスしなくなるためにはミスを受け入れる。

一見、あっけらかんとしている「天然さん」のほうが、速く高く上達することがあるのは、この理由によります(関連記事:錦織圭の器用さの正体は「意識のベクトル」だった──伊藤竜馬の言葉)。

同じ練習をしても伸びる人と伸びない人の差は、才能やセンスではありません。

ミスの受け止め方。

幼少のころから、ミスが悪いだなんて、植えつけられてこなかったのでしょう。

「うわっ」「しまった」などと反応しなければ、ボールに集中し続けられます。

ボールに集中しているから、「うわっ」「しまった」などと反応しないとも言えます。

そういうプレーヤーが、大胆で、積極的なプレーを身につけていくのです。

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テニスゼロ代表 吉田無型(よしだ・むけい)


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