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「そっとエールを賞」を受賞しました——ちび創作大賞

天野雫さん、この度は「ちび創作大賞」にて「そっとエールを賞」に選んでいただき、本当にありがとうございます。

約500本もの作品が集まったお祭りの中で、拙作『風の目』を選んでくださったこと。そして「過去を消すことはできなくても、その先へ進むことはできる」というメッセージを受け取ってくださったこと。作り手として、これ以上の喜びはありません。

この作品の核に据えていたのは、まさにその一点でした。それを言葉にして返していただけて、迷いながら選んだ一つひとつの表現が、ちゃんと届いていたのだと救われる思いでした。

受賞のご報告を兼ねて、この場を借りて、物語の裏側にあった設定や、執筆中に何を考えていたのかを少しだけ綴らせてください。(既にキャラ崩壊してますが、今回は真面目に書きます。)本編のネタバレを含みますので、まだの方は先に本編をどうぞ。


すべては、ひとつの問いから

最初の種は、たったひとつの問いでした。「風をテーマにしたファンタジーを書くなら?」

いくつも案を出した中で、いちばん心を掴んだのが「千年止まない竜巻の、まんなかにある静かな国」というイメージでした。荒れ狂う嵐の中心に、時が止まった穏やかな国がある——この矛盾した美しさが、物語の背骨になりました。

嵐は動き続ける世界、つまり生。風の目は止まった世界、つまり静止であり生の放棄。この対比を、そのまま人の生き方の物語に重ねられると気づいたとき、骨格が定まりました。

あえて、説明しなかったこと

正直にお話しすると、この物語は中盤から結末にかけて、三回書き直しています。全く別の結末でした。そして伏線を仕込むのが好きなもので、本編ではあえて明かしていない設定がいくつもあります。

たとえば、風の目の国には「時が止まっているので誰も生まれない」というルールがあります。住人は全員、外から迷い込んだ漂流者。だからこそ、唯一の子どもであるレイニーの孤独が際立つ設計にしました。

そして「国を出ると、留まった年月の約三倍の時が一気に襲う」という数値ルール。ゼフの老いた姿も、母が朽ちてしまう運命も、すべてこのルールから生まれています。ただ本編では、あえて数字を明示しませんでした。読者が電卓で計算を始めると、物語の情感が壊れてしまうからです。ゼフの姿や、壁際の男の皺だらけの手で、体感してもらう設計にしました。

レイニーがなぜ記憶を失っているのか。その理由も、本編では一切説明していません。すべてを語らないことで、彼女を「主人公を導く装置」ではなく、「語られない物語を抱えたひとりの人間」にしたかったのです。

いちばん時間をかけた、母の物語

この作品の心臓は、母が「戻らなかった理由」でした。ここは何度も練り直しました。

村人は「母は嵐に呼ばれた」と言いますが、真相は逆で、母は自ら逃げたのです。壊れかけた心から、そして愛する息子を傷つけてしまう自分から。

母は数回、発作的に息子に手をあげてしまったことがある——この設定は、特に慎重に扱いました。常習的な虐待にしてしまうと、母がただの毒親に見え、最後の「愛ゆえの離別」が成立しなくなる。だから、打った直後に母のほうが泣き崩れる描写を必ずセットにしました。「加害者であると同時に、誰より苦しんでいる人」。この矛盾こそが、母という人間の真実だと思っています。

物語を動かした、本当のエンジン

執筆の後半で、物語の重心を大きく動かしました。当初、主人公ハルの動機は「母に会いたい」という外向きの探求でした。でも、それだけでは弱かった。

そこで「母がいなくなったのは、ぼくのせいだ」という十三年の呪縛を、物語を貫く縦軸に据えました。第四章で幻の母が「あなたさえいなければ」と囁くのは、ハルが13年、自分に囁き続けてきた言葉です。そして第五章、母の「違うの。逆なの。あなたのせいじゃない」が、その呪縛を解く一撃になる。

物語は「母は生きているか」の謎解きから、「ハルの呪縛が解けるか」の物語へと軸を移しました。この変更が、作品にいちばん体温を与えたと思っています。

この物語が、本当に書きたかったこと

三人の主要人物は、それぞれ違う形で「過去」と向き合います。過去を抱えたまま時を止めて留まる母。過去を手放して続きへ向かうレイニー。過去と向き合い、答えを得て外へ帰るハル。

「嵐から逃げず、その中心へ進んだ者だけが、本当の静けさを知る」——このテーマは、実は「自分の過去から逃げず、向き合った者だけが、前に進める」という意味でもありました。

天野さんが受け取ってくださった「過去を消すことはできなくても、その先へ進むことはできる」というメッセージ。それは、まさに俺がこの物語に込めたかったものの、いちばん芯の部分でした。隠した設定も、何度も直した箇所も、すべてはあの一点にたどり着くためのものだった。それがちゃんと届いていたのだと、天野さんの言葉が教えてくれました。

おわりに

一つの物語の裏には、書かれなかった無数の設定と、何度も塗り替えられた選択があります。『風の目』も、たくさんの「もし、こうだったら」を経て、今の形にたどり着きました。

そして今回、その物語に「そっとエールを賞」という温かな光を当てていただけたこと。作品に優しく寄り添いながら選んでくださった天野雫さん、企画・運営してくださった皆さま、審査員の皆さま、そして数ある作品の中からこの一作を読んでくださったすべての方に、心から感謝します。

ここまで読んでくださったあなたが、本編をもう一度読み返したとき、風の音が少しだけ違って聞こえたら——それが、この裏話を書いたいちばんの願いです。

いただいたエールを胸に、これからも書き続けていきます。 本当にありがとうございました。

宵月ユウ


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