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本にならない戯曲を探す ――雑誌掲載の戯曲を入手する方法

戯曲とは演劇の上演台本のこと。近年は上演されることが前提で戯曲が書かれるが、昔は読むためだけの戯曲もたくさん書かれた。小説なんかと同じで、戯曲は劇作家のひとつの作品として成り立っているから、本として出版されるもする。客はそれを読んで芝居をもう一度味わうことができるし、演劇を作る人にとっては自分たちが上演するための戯曲として利用できる。

では、戯曲を入手するにはどうしたら良いのか。

戯曲が公表される方法は様々あるが、今回は、雑誌に掲載された戯曲を入手する方法について探っていきたい。演劇を見る人にとっては好きな劇作家の戯曲や推しの出演作の戯曲を見つける方法として、これから演劇を作る人(特に始めたばかりの人)にとっては上演作品を探すために、知っておいて損はないはずだ。


戯曲が公表される方法は4つ

なぜ、雑誌に掲載された戯曲について取り上げるのか。それは、この方法が案外見落とされているように思うからだ。

戯曲を入手する前提として、まずは戯曲が公表されなければならない。戯曲が公表される方法は主に4つあり、入手方法もそれぞれ異なる。

① 本として出版
② 雑誌に掲載 ←今回取り上げるテーマ
③ 物販で販売
④ インターネット公開

① 本として出版〉はオーソドックスな方法、〈② 雑誌に掲載〉も昔からある戯曲公開の手段だ。新しいものなら書店で購入できるし、絶版となっても図書館や古書市場で入手が可能だ。〈③ 物販で販売〉は、公演グッズとして「上演台本」が販売されているような場合のこと。一般の書籍流通にのらず、図書館などに残りにくいので、販売が終わると入手困難になりがちだ。〈④ インターネット公開〉は、以前から劇作家自らが個人ブログやホームページで公開することもあったが、近年ではアーカイブとして体系的に公開されることも増えた。戯曲デジタルアーカイブは、EPAD(舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業)のひとつとして、様々な戯曲をPDFデータで公開している。

これらの方法のうち、公演会場でも販売される①や③、近年注目を集める④に比べて、②はなかなか目につきにくい。「あの戯曲、読みたいけど本になっていないなあ」とあきらめていたら、実は雑誌に載っていたということもある。これを見落としてはあまりにもったいない。戯曲デジタルアーカイブも便利で今後主流になっていくのかもしれないが、現状では掲載されていない戯曲もまだまだたくさんある。

そんなわけで、良い戯曲を見逃さないために、雑誌掲載の戯曲を探す方法、そして入手する方法を探っていく。

NDLサーチで掲載誌を特定する

【例題1】横濱短篇ホテル

では例題として、マキノノゾミ『横濱短篇ホテル』を探してみる。これは本として出版されていないし、戯曲デジタルアーカイブにも公開されていない。そこで、雑誌に掲載された可能性を探ってみるのだ。

雑誌に掲載されたかどうか調べるには、雑誌記事が検索できるツールを使う。戯曲も雑誌に載れば「記事」のひとつになるからだ。ツールはいろいろあるが、その後の「入手する」という段階を考慮して、今回は国立国会図書館サーチ(以下、NDLサーチ)を使う。

NDLサーチとは、国立国会図書館の所蔵資料を検索できるサイトだ。国立国会図書館には、国内で出版されたものすべてが納められることになっているので、ここにあるかどうかを調べれることは、国内で出版されたかどうかを調べているのと同じこと。雑誌の記事タイトルで検索できる機能もあるので、まずはこれを使うのが近道。

【キーワード】に〈横濱短篇ホテル〉と入力し、【資料種別】のチェックをすべて外して、〈雑誌記事〉にチェックを入れて検索してみる(図1参照)。

NDLサーチの詳細検索画面のスクリーンショット。キーワードの欄に「横濱短篇ホテル」と入力している。
図1:NDLサーチ〈横濱短編ホテル〉入力画面

すると、検索結果2件と出る(図2参照)。1件目に表示された『悲劇喜劇』2013年5月号の「劇団青年座 横濱短編ホテル」という記事が探していた戯曲だ。2件目には劇評がヒットしている。このように劇評や論文など他の記事もヒットするので慎重に吟味しながら戯曲を見極めていく。

NDLサーチの検索結果画面のスクリーンショット。検索結果2件がリスト表示されている。
図2:NDLサーチ〈横濱短編ホテル〉検索結果(2025.5.10時点)

【例題2】ショウ・マスト・ゴー・オン

もうひとつ例題として、東京サンシャインボーイズ「ショウ・マスト・ゴー・オン」を探してみる。

先ほどと同様に、【キーワード】に〈ショウ・マスト・ゴー・オン〉と入力し、【資料種別】は〈雑誌記事〉にチェックを入れて検索してみる。検索結果は1件。『テアトロ』掲載の記事がヒットしたが、これは劇評。探している戯曲ではない。

ここで載っていないとあきらめる前にもうひと手間。【資料種別】の〈雑誌記事〉のチェックを外し、今度は〈雑誌〉にチェックを入れて再度検索してみる(図3参照)。

NDLサーチの詳細検索画面のスクリーンショット。キーワードの欄に「ショウ・マスト・ゴー・オン」と入力している。
図3:NDLサーチ〈ショウ・マスト・ゴー・オン〉入力画面

検索結果3件のうち、『テアトロ』は先ほどの劇評が載っていた号で、新たに『悲劇喜劇』と『しんげき』がヒット(図4参照)。『しんげき』の38(9)(463)(※38巻9号で通号463号の意)をクリックすると詳細が見られる。おそらく1991年9月号だろう。目次の中には「東京サンシャインボーイズ『ショウ マスト ゴー オン』p155~243」とある。このページ数の多さ、劇評にしては長すぎるので戯曲と判断できる。ちなみに2件目の『悲劇喜劇』も詳細を確認すると劇評だと分かる。

NDLサーチの検索結果画面のスクリーンショット。検索結果3件がリスト表示されている。
図4:NDLサーチ〈ショウ・マスト・ゴー・オン〉検索結果(2025.5.10時点)

このように、【資料種別】の〈雑誌記事〉だけでは検索できなかったものが、〈雑誌〉にチェックを入れることでヒットする場合もある。〈雑誌記事〉は記事が検索対象、〈雑誌〉は雑誌の巻号が検索対象であり、記事としてデータが作られていなくても雑誌の目次データに載っていてヒットするという……まあ細かい仕組みは構わない。とりあえず、両方試してみて、ヒットがあればいい。

雑誌掲載の戯曲を見る・入手する

雑誌に載っていることが分かり、どの雑誌か特定できたら、いよいよ入手手段を考える。新品・古本で売っていれば買うのも手だが、そう簡単には見つからない。そこで使うのが図書館だ。

国立国会図書館の遠隔複写サービス

はじめにNDLサーチで調べた理由がこれ。国立国会図書館の遠隔複写サービスを使って、雑誌記事のコピーを取り寄せることができるからだ。

図書館の所蔵資料は、著作権法が定める条件下でコピーが可能だ。条件については、著作権に関わる注意事項 を参照。今回の場合は雑誌記事の扱いとして問題なく利用できるのではないかと思う。ただし、あくまで自分が読むための場合であって、実際に上演する場合には著作権者の許諾を得る必要がある。

国立国会図書館にはオンラインでコピー依頼ができる(個人の利用登録と、複写料金等の負担が必要)。利用登録し、NDLサーチにログインすると、詳細ページのコピー依頼のボタンから申し込むことができる。もちろん出向いて閲覧・コピーをすることも可能だ。

近くの図書館で見る

遠隔複写は便利だが時間と金と手間がかかる。自分が出向いていける図書館にその雑誌があれば、それを使うほうが経済的だ。各図書館のホームページには大抵、OPAC(蔵書を検索できるページ)があるので、その雑誌が所蔵されているか検索してみる。所蔵していることが分かれば、直接出向いて借りるなりコピーをとるなりできる。

ただし、巻号の確認はややこしいのでご注意を。「近年の号はあるが20年前のバックナンバーは所蔵されていない」などということもある。

確実なのは、その図書館の司書に直接問い合わせてしまう方法だ。レファレンスサービスといって、訊けば調べてくれるサービスだ。電話やホームページなどから受け付けていることが多い。「この雑誌の●年●月号はあるか」「この戯曲は載っているか」と尋ね、雑誌のタイトル、号数、掲載ページ、見たい戯曲のタイトルなどの情報を伝えておけば、その雑誌があるか、その戯曲が見られるか調べてくれるだろう。仮にその図書館になくても、他館から入手する方法があるかもしれないので、いろいろ尋ねてみるとよい。

戯曲が掲載される雑誌一例

どういう雑誌に戯曲が掲載されるかを頭に入れておくと、調べるときのヒントになる。

『テアトロ』カモミール社

1934年創刊。老舗の演劇雑誌。現在も刊行中(月刊)だ。NDLサーチで戯曲を検索すると〈雑誌記事〉でヒットする場合が多い。

『悲劇喜劇』早川書房

1947年創刊。こちらも長く続く演劇雑誌。現在は隔月刊で刊行中翻訳戯曲も掲載されるところがありがたい。NDLサーチで戯曲を検索すると〈雑誌記事〉でヒットする場合が多い。

『新劇』『しんげき』『Les Specs』白水社

1954年創刊の月刊誌(現在は刊行終了)岸田戯曲賞の白水社だ。『新劇』(~1990年3月)から『しんげき』(1990年4月~1992年3月)、『Les Specs』(1992年4月~1992年11月)と誌名を変えた末に終刊。観光は終了しているが、かつての小劇場の戯曲が豊富なので、昔の戯曲を探すには大変重宝する。NDLサーチで戯曲を検索すると、〈雑誌記事〉ではヒットしないが〈雑誌〉の目次でヒットする場合がある。

『せりふの時代』小学館

1996年創刊の季刊誌。日本劇作家協会の責任編集。2010年に刊行終了したが、2021年に『せりふの時代2021』として特別版が出て話題に。NDLサーチで戯曲検索を試みたが、私の試した限り〈雑誌記事〉〈雑誌〉ともヒットしない(所蔵してはいる)。

その他の雑誌・参考サイト

NDLサーチで戯曲が検索できないときは、架空畳の公式サイトに雑誌掲載戯曲一覧があり、私はこれを便利に使わせてもらっている。『テアトロ』『悲劇喜劇』『新劇』『せりふの時代』に掲載された戯曲がまとめられていている(ただし2021年1月20日の更新が最後)。

『せりふの時代』については、ウィキペディアにも掲載戯曲の項目がある。> せりふの時代|ウィキペディア

また、『新潮』『すばる』『文学界』といった一般的な文芸誌にも戯曲が掲載されることがある。京都府立図書館が文芸誌の中の戯曲(2001-2023)をまとめているので参考になる。例えば、野田秀樹は(本も出版されるが)『新潮』で発表していることが多い。

おわりに

先日、倉持裕の作・演出「鎌塚氏、震えあがる」を観劇した。2025年5月号の『悲劇喜劇』にも戯曲が載った最新作は、シリーズ第7弾。ふと、過去作の戯曲もどこかにあるかしらと思い、NDLサーチで調べてみた。すると2012年10月号の『悲劇喜劇』にシリーズ2作目の「鎌塚氏、すくい上げる」と思しきものがあるじゃないか。しかも、これはDVD化されていないはず――。見逃してしまった作品、映像も手に入らないような作品も、戯曲が公表されていることによって、その一端を知ることができる。これはありがたいことだと思う。近々、図書館に出向いてみようと決めた。

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