レジェンドの戯曲を読む ――デジタルコレクションでできること
先日、雑誌に掲載された戯曲を探す方法について書いた。主に国立国会図書館サーチを使って、掲載誌を特定する方法を紹介したところ、コメントにて国立国会図書館デジタルコレクションを使う方法についてご助言いただいた。
また同じころ、デジタルコレクションを使って唐十郎の戯曲を探している記事も拝見した。自分も以前、つかこうへいの戯曲をデジコレで探し、予習して観劇に行ったことなどを思い出していた。
文系学問では重宝するデジコレ。演劇・戯曲もまた然り。デジコレを使って戯曲を探す方法について記しておこうと思う。
国立国会図書館デジタルコレクションとは
デジタルコレクション(以下、デジコレ)とは、国立国会図書館が所蔵する資料をデジタル化して公開しているサイト。近年、大幅リニューアルを経てより便利になっている。収録点数が増え、全文検索が可能になり、自宅で見られるものも増えた。かつて使ったことがある人も改めて使ってみると新たな発見があるかもしれない。
デジタル化資料の公開範囲は3段階あり、閲覧方法が異なる。
ログインなしで閲覧可能(誰でもネット上で閲覧できる)
送信サービスで閲覧可能(利用登録をすればネット上で閲覧できる/図書館送信サービス参加館で閲覧できる)
国立国会図書館内限定
利用登録をすれば「3. 館内限定」以外は自宅からでも閲覧可能となる。ただし、ここで見られるのは基本的に、著作権の保護期間が満了しているか、絶版等で入手が難しい本に限られているので、近年出版のものは少ない。最近の劇作家たち――以前紹介したマキノノゾミや東京サンシャインボーイズ(三谷幸喜)など――の戯曲はあまりないので、その点はご注意を。一方で、前述の唐十郎やつかこうへいの他、寺山修司や別役実といった小劇場のレジェンドみたいな劇作家たちの戯曲はいろいろと読むことができる。新劇、歌舞伎、浄瑠璃なんかも探せるだろう。私は歌舞伎の予習・復習に『名作歌舞伎全集』(リンクは第1巻)を愛読している。
デジコレで戯曲を探す
タイトルから探す(例題:唐十郎「愛の乞食」)
冒頭に紹介した記事でも取り上げられていた唐十郎の「愛の乞食」。6月14日から開幕する新宿梁山泊の最新公演の戯曲だ。詳細検索から《タイトル》に〈愛の乞食〉と入れて検索してみる(図1)。

すると2件ヒット(図2:検索結果)。いずれも書名は「愛の乞食」ではないが、ここに収録された個別タイトルがヒットしたと考えられる。このうち、唐十郎全作品集 第2巻 (戯曲 2)が送信サービスで閲覧可能なので、ログインしていればそのまま見ることができる。中を確認すると、「愛の乞食」がちゃんと収録されている。

劇作家から探す(例題:唐十郎)
《著者名》で〈唐十郎〉と検索すると多数ヒットする(検索結果)。戯曲でないものも混ざっているから、左側の列にある絞り込みを実行してみる。図3のように、NDC分類の【9 文学】を開く。【912 戯曲】とあるので、これにチェックを入れると絞り込みができる。先ほどの『唐十郎全作品集』のような場合もあるので【918 作品集】もチェック。

台詞から探す(例題:つかこうへい「熱海殺人事件」)
《キーワード》は本文の全文検索含めなんでも検索できるので、台詞から検索することも可能だ。台詞から探すなんて、そんな需要はないかもしれないが、やってみるとちょっと面白かった。
つかこうへいの「熱海殺人事件」に出てくる有名なこの台詞。
アイ子は、海が見たいと言ったんだ。
涙こらえて言ったのさ。
肩を震わせ泣いたのさ。
一人で見るのが恐いから、一緒に見ようって泣いたんだ。
この台詞の一部〈海が見たいと言ったんだ〉を《キーワード》に入れて検索すると、複数の「熱海殺人事件」がヒットした(図4:検索結果)。雑誌『新劇』掲載されたもの(館内限定も検索は可能)、定本として出版された本、映画版シナリオ……。『つかこうへい戯曲シナリオ作品集』の1巻と4巻がヒットしているのは、バージョン違いの「熱海殺人事件」が収録されているから。前後の台詞の変化を見るのも面白い。

デジコレにある戯曲を網羅的に探す
とりあえず何でもいいからデジコレで読める戯曲を探したい場合は、《NDC分類》を使うと網羅的に探すことができる。日本の劇作家の戯曲なら《NDC分類》に「912.6」を入力して検索するとデジコレに収録された戯曲がずらっと並ぶ。また、《件名》に「戯曲」と入れて検索してみるのもいいだろう。

デジコレで見られない場合の対処法
デジコレを使うメリットとしては、個人送信サービスも含めると自宅のPC等ですぐに読めるものが多い点がなんといっても魅力的。しかし、様々な事情で利用登録ができない・したくない・間に合わないという場合もあるだろう(例えば18歳未満は国立国会図書館の利用登録ができない)。
個人送信サービスの資料群に限って言えば、図書館向け送信サービスという手がある。個人送信サービスが始まる以前からあったサービスで、国立国会図書館まで行かなくても、近くの図書館で閲覧できるというもの。参加館になっている図書館内で閲覧したりプリントアウトしたりできる。
それでもまだ、館内限定の資料群は国立国会図書館に足を運ばなければ見ることができない。だが、ここで諦めてしまうのはもったいない。その本は本当に国立国会図書館にしかないのか。ごく一般的な本であれば、そのようなことはない。案外、最寄りの図書館にもあったりするのだ。デジコレを使って目当ての戯曲・本が見つかったら、その本自体が、近くの図書館にないか探す。実はこれが国立国会図書館の便利かつ簡単な使い方である。
近くの図書館にある可能性を探る
「愛の乞食」の場合、デジコレを使って『唐十郎全作品集』第2巻に収録されていることが分かったので、『唐十郎全作品集』が近くの図書館にあれば本そのものを手に取ることが可能だ。
デジコレの『唐十郎全作品集』第2巻のページ内に《国立国会図書館サーチの書誌へ》というリンクがある。国立国会図書館(以下、NDLサーチ)では、【全国の図書館の所蔵】を確認することができる。

そして、できればNDLサーチで再度検索しておきたい。《タイトル》に「唐十郎全作品集 第2巻」と入れて検索すると、同じタイトルが2件出てくる(図7:検索結果)。1件目は先ほどのものだが、2件目をみると全国の所蔵館が一挙に増えた。同じタイトルでも、このように2つに分離してしまっていることがあるので、再検索してみるといい。

NDLサーチで所蔵館が確認できるのは都道府県立図書館が中心となる。市町村立図書館など、さらに身近な図書館まで含めて検索するには、カーリルローカルを使う。都道府県単位で、市町村立や大学図書館も含めて一度に検索できる。
書誌を確定→所蔵を探すという順序
ちなみに、雑誌掲載の戯曲を探した時でもNDLサーチを使って調べた後に近くの図書館の所蔵状況を調べるという手順をとった。今回も同様で、まずデジコレを使って「愛の乞食」が『唐十郎全作品集』第2巻に収録されていること(書誌)を突き止めた後、近くに所蔵館があるかを探す、というこの順序が大事。なぜなら、いきなり「愛の乞食」というキーワードで地域の図書館を探しても、たどりつけない場合があるからだ。
「愛の乞食」は『唐十郎全作品集』第2巻の中に含まれる個別タイトルであり、各図書館の所蔵データにこういった個別タイトルや目次が含まれているか(検索できるようになっているか)は、一概には言えない。例えば、A市立図書館の蔵書検索で「愛の乞食」を検索してもヒットしない。しかし、『唐十郎全作品集』を検索すると第2巻がヒットするということがある。これは『唐十郎全作品集』の本のデータに、「愛の乞食」という個別タイトルが含まれていないからだ。特に、こういった昔の本となると、なおさらデータが不十分なことは多い。
でも、本のタイトルさえが分かれば、本当は所蔵していたことが分かるのだ。だから、全文検索などの検索機能が充実しているデジコレや、データがしっかりと整備されているNDLサーチを使って、まずは本のタイトルを明らかにする。このひと手間が大事なのだ。
もしくは、はじめから図書館の司書に聞いてみるというのも手だ。上記に書いたようなことは大抵の場合、調べてくれるだろう。
おわりに
先日、『リプリー、あいにくの宇宙ね』という芝居を観た。宇宙SFもので、テレパシーを使う宇宙人が登場する。地球人もかつてはテレパシーを使っていたが、文字という伝達手段が発達したためにやがて使えなくなったという。別の手段が生まれると、もとの手段が使えなくなる。便利なツールが次々と生まれると、本来の探し方が忘れ去られてしまう。検索しても「ネットで見られない=使えない」「見つけられない=存在しない」と判断してしまう。もったいない。きちんとした手順を踏めば案外簡単に見つかるのに。
そうはいっても便利なもの良い。学生時代、デジコレにはずいぶんお世話になったが、もはや当時とは比べ物にならないほど格段にパワーアップしている。利用登録すれば自宅で読めるというのは、当時の自分からしてみれば夢のような出来事だし、全文検索ができるなんて感動的だ。デジコレの今後の進化も楽しみにしつつ、基本的な調査手法も忘れずにいたい。
