戯曲『熱海殺人事件』は何冊あるのか ――戯曲の探し方まとめ
前回に引き続き、戯曲を探す話だ。戯曲の話題ばかりで申し訳ないが、基礎的な部分は他のジャンルの本にも当てはまるので、適当に読み替えてもらえればと思う。
前回は中島かずきの『髑髏城の七人』を例に挙げた。様々なバージョン違いが出版されているので、それをきちんと調べるとどうなるか――というような話だった。
今回の題材はつかこうへいの『熱海殺人事件』。劇団☆新感線をはじめ、たくさんの演劇人に影響を与えた劇作家の名作だ。『熱海殺人事件』も上演回数が多い上に、多数のバージョン違いが存在する。また、雑誌掲載もあれば、本として出版されたものもある。例題としてはうってつけなので、これまでの戯曲の探し方の応用編とか総集編とでも言おうか、様々なツールを駆使して、今、我々が読むことができる『熱海殺人事件』の様々なバージョンを探してみようと思う。
初出・初演時の戯曲を探す
初演は文学座だった。その後、つか自身の演出で上演されるようになるが、文学座の初演時と、最初につかが演出した時とでは、すでに大きく違う。さらに後年、「ザ・ロンゲスト・スプリング」とか「モンテカルロ・イリュージョン」とか「売春捜査官」とか、様々なバージョン違いを発表することになる。が、まずは初演時の戯曲を探してみよう。
軽くググってみると、初演の文学座アトリエ公演が1973年11月だったことが分かる。文学座アトリエ公演と時期を同じくして1973年12月号の『新劇』で発表されていて、これが初出とされている。
上記はWikipediaの「熱海殺人事件」からの情報。ひとつの戯曲(というか小説や映画含めたこの作品)で立項されているのは珍しい。とりあえずのガイドとしてはWikipediaも役に立つし、特に芸能系・サブカル系は(ピンキリだが)ものすごく充実している記事もあるので、思いがけない情報に出会えることがある。もっと確かな情報をと思えば、その後でWikipediaの出典や書籍をあたり直す。
しかるべき研究がされている作家なら何か本があるだろうし、その人の自伝や劇団の周年記念本に作品リストや上演記録があったりもする。つかこうへいともなると、彼について書いた本もたくさんあって、そのうちの1つ、『つかこうへい正伝』(*1)の巻末にある年譜によれば、「熱海殺人事件」は1973年11月に初演、1973年12月号の『新劇』に戯曲が掲載されたことが分かる。
雑誌掲載の戯曲を探す:国立国会図書館サーチ
国立国会図書館サーチ(以下、NDLサーチ)で検索することで、初出かどうかを実際に確かめることができる。NDLサーチは国内で出版されたすべての出版物が検索できる(ことになっている)ので、「熱海殺人事件」と検索してヒットした中で、最も古い出版物が初出と考えられる。
【タイトル】に〈熱海殺人事件〉と入力し、【資料種別】は〈本〉〈雑誌記事〉にチェックを入れる(図1参照)。そうすることで、最初に発表したのが雑誌でも、本の刊行でも、どちらもヒットするはずだ。

古い順に並べ替えてみると、1974年3月号の『新劇』が最初に登場する。ところが、肝心の1973年12月号がない。
そこで、【タイトル】ではなく【キーワード】に〈熱海殺人事件〉、【資料種別】を〈雑誌〉に変更して再度検索してみる(図2)。

すると、1973年12月号の『新劇』が無事ヒットした。先ほどヒットしなかった原因は、この号に掲載された「熱海殺人事件」が記事タイトルとして採録されていないためだろうと思われる。ページ数からしても戯曲と思われる。
雑誌掲載の戯曲を入手する
この2つ、何が違うのか。実際に手に取って確かめたくなるのが、オタクの性。では、この2冊の『新劇』をいかに手に入れるか。
まずは、近くの図書館にその雑誌があるか確かめてみる。各図書館のホームページで蔵書検索ができるはずだ。私の場合は、地元の都道府県立図書館に所蔵があることを確認したので、実際に行って見てみた(というか借りて帰った)。
1973年12月号は「文学座アトリエ公演の上演台本」として掲載されている。一方、1974年3月号は、岸田戯曲賞受賞の発表とともに掲載されたものだ。内容はほとんど同じなのだが、ところどころに加筆がある。特に、クライマックスの犯人大山の台詞に重要な変更が見られる。この違いは面白い。
近くに所蔵している館がなければ、NDLサーチを通じて国立国会図書館からコピーを取り寄せることができる。利用登録し、NDLサーチにログインすると、詳細ページのコピー依頼のボタンから申し込むことができる。
出版された熱海殺人事件は何冊あるか
初演の時点ですでに2バージョンが確認できた。ここから、さらに増えていくバリエーションを追っていこう。Wikipediaにも書誌情報の一覧が載っているから、これも参考にしつつ調べていくことにする。
国立国会図書館サーチで戯曲本を絞り込む
最初の検索条件(【タイトル】に〈熱海殺人事件〉、【資料種別】を〈本〉〈雑誌記事〉で検索)では、58件がヒットしている。この中には戯曲でないもの(小説、エッセイ、第三者の論考など)も含まれており、一つ一つ確認するのは大変。そこで、このノイズを減らすためにさらに絞り込みをする(図3)。

とりあえず、【著者】に〈つかこうへい〉を追加する。これで、他人が書いた「熱海殺人事件」についての記事や論考を除外できるはずだ。
続いて、「全国の図書館」のチェックを外し、国立国会図書館の所蔵だけを検索する。全国の図書館の所蔵情報を一緒に検索すると、まったく同じ本なのに何件もヒットすることがある。これを避けるためだ。国立国会図書館にはすべての出版物があるはずなので、それを信用することにする。
このような検索条件で検索してみると15件がヒット。本が13件、雑誌記事が2件。ここまでくれば、一つ一つ確かめてもそう手間にはならないだろうが、もう一つ絞り込む方法がある。
「本」として出版されたものの中には、戯曲ではなく小説や映画版シナリオや、場合によってはエッセイなんかも混ざっている。そこで戯曲のみを絞り込むために、NDC(日本十進分類法)を検索条件に追加する。デフォルトの詳細検索ではNDCの項目はないので、「⊕追加項目」から「分類」の中にある「NDC」にチェックを入れ、NDCの入力フォームを出現させる。そうして新たに追加された【NDC】に〈912.6〉を入力(図4)。912.6がNDCにおいては「日本の戯曲」の分類番号であり、これによって小説などの他の本と区別できるというわけだ。

すると、今まで「雑誌記事」としてヒットしていたものが消えてしまうのだが、これはあとで調べなおすとして、本のみを見ると戯曲だけがヒットしているはずだ。この検索結果を見ていくと、例えば『戦争で死ねなかったお父さんのために』や『つかこうへい戯曲シナリオ作品集 1』といった、本のタイトルに「熱海殺人事件」を含まないものもヒットしている。よく見ると、この本の中に「熱海殺人事件」が収録されているのだ。
このように検証していくと、本としての出版はこの9冊と思われる。Wikipediaに書いてあることとほぼ同じだ。
戯曲本を読む:図書館を使う
これらの戯曲本は絶版になっているものが多い。実際に読む場合には、古本を探すか、図書館を使う。まずは、近くの図書館で所蔵しているか確認。なければ他の図書館からの取り寄せを依頼することで、手に取ることができる。
先ほどNDLサーチで検索したときにあえて外した「全国の図書館」のチェックを入れて検索すると、全国の都道府県立図書館の所蔵も一緒に検索できる。そのままだと検索結果がまた膨大になるので、【出版者】【出版年】の項目を使って特定の本に絞って検索するのも手だ。
さらに身近な市町村立図書館などで所蔵している図書館を探す場合には、カーリルローカルを使う。都道府県ごとに、市町村立や大学図書館も含めて一度に検索できる。
戯曲本を読む:デジタルコレクション
つかこうへいの戯曲は、デジタルコレクション(以下、デジコレ)にも収録されている。デジコレとは、国立国会図書館が所蔵する資料をデジタル化して公開しているサイトで、自宅で閲覧可能なものもある。
【タイトル】に〈熱海殺人事件〉、【著者】に〈つかこうへい〉、【NDC】に〈912.6〉と入れて検索すると9件ヒット。NDLサーチの検索結果と同じと思われる。一覧の右側に「送信サービスで 閲覧可能」とあるものは、利用登録をすれば自宅で読むことができる。
さらに、デジコレでは全文検索も可能だ。だから、台詞で検索するという遊びもできる。
デジコレの全文検索で台詞から検索できると思い立ち、つかこうへい『熱海殺人事件』から「海が見たいと言ったんだ」を検索してみた。初出、定本、映画シナリオ……。
— 調部(しらべ) (@shirabeshi400) June 7, 2025
台詞から検索する必要にかられることはそうないと思うが、面白いから良しとする。#国立国会図書館#デジタルコレクション pic.twitter.com/lWhMdjhIjv
『新劇』がヒットしたから初出かと早とちり。1980年8月号なので熱海殺人事件の初出であるわけがない。
— 調部(しらべ) (@shirabeshi400) July 16, 2025
正しくは1973年12月号が初出だが、それはヒットしていない。なぜか。
「海が見たいと言ったんだ」ではなく「海を見たいと言ったんだ」だったのだ。「が」と「を」の差……https://t.co/uiAIMkDSx9 https://t.co/x2vDYsvQOc
でも新劇2冊(12月号と岸田戯曲賞を受賞作として掲載の翌3月号)しかヒットしないのもヘンだと思って、検索し直し→https://t.co/dNktEwcszz
— 調部(しらべ) (@shirabeshi400) July 21, 2025
すると「海を見たいと言ったのさ」もある。「言ったんだ」ではなく「言ったのさ」か。続く「涙こらえて言ったのさ。肩をふるわせ泣いたのさ」と揃うわけだ。
ちなみに、『新劇』1980年8月号がなぜヒットしたかと言うと、これは「熱海殺人事件 必勝法 2」という記事の中に台詞(というか戯曲の一部)が載っているからだ。
ここで少し時を戻すと、先ほどNDLサーチで検索した際に、雑誌記事2件を絞り込んだ。1つは最初に確認した『新劇』1974年3月号で、もうひとつが、実は『新劇』1980年7月号の「『熱海殺人事件』必勝法-1-」なのだ。どうやら6回ほどにわたって、この「熱海殺人事件 必勝法」というものが掲載されていたようだ(見たところ、戯曲の間に時々コメントが挟まれている形で書かれている。『定本 熱海殺人事件』の基になったのだろうか)。
そのほかのデジタルアーカイブで探す
戯曲デジタルアーカイブは、真っ先に確認したいところだが、残念ながら『熱海殺人事件』は収録されていなかった。
このほかに「つかこうへい演劇館」というサイトに戯曲が公開されているが、これは公式的なコンテンツなのだろうか。かつて、つかこうへい事務所の公式サイトで上演台本の公開をしていたようなので(*2)、そのあたりの関連かと推察するが、いまひとつ確証が得られない。何かご存じの方がいたらぜひ教えていただきたい。
おわりに
これまで度々記事にしてきた「戯曲の探し方」を応用して、『熱海殺人事件』について探してみた。今回調べたところでは、雑誌掲載が初演時と岸田戯曲賞受賞時の2回(「熱海殺人事件 必勝法」をカウントするなら3回)、その後出版された本が9冊。これらが、我々が読める戯曲として出版されている。もちろん漏れもあるかもしれないし、すべての本文に目を通したわけではないので、中には全く同じ戯曲もあるかもしれない。きちんと確かめていけば、このバージョンとこのバージョンは同じだとか違うだとかが分かって、きっと楽しいはずだ。
いや、すでに誰かが調べて発表していそうなものである。はじめに述べたように、つかこうへいともなると研究書とまでいかずとも、彼について書かれた本はたくさんある。そこから先にヒントを得るのも、効果的な調べ方の1つ。今回はあえて自分で調べる手法をとったわけで、これが誰かの調査のヒントになれば幸いだ。
参考文献
*1 長谷川康夫『つかこうへい正伝 1968-1982』新潮社, 2015.
*2 「つかこうへい」台本をウェブ公開 異例の「無料宣言」に賞賛の声
2007.09.07, J-CAST ニュース(2025.8.21閲覧)
・『KAWADE夢ムック つかこうへい』河出書房新社, 2011.
