見えない仕事の本質#1|見えない仕事は、なぜ評価されないのか
成果は出ているはずなのに、なぜか評価されない仕事があります。
全体の数字は改善している。
以前よりトラブルやクレームは明らかに減っている。
現場の動きも、以前のようなギスギスした摩擦がなくなり、明らかに軽くなっている。
それなのに、評価の季節になると、「で、あなた個人の成果は何ですか?」と問われてしまう。
「誰の成果なのか」は、どこにも記録として残らない。
こうした仕事は、意外と多くの組織に、そして真面目に組織を支えようとする人の手元に、静かに存在しています。
評価されないのは、価値がないからではありません
まず、一番最初に整理しておきたい大切なことがあります。
それは、「評価されない仕事=価値がない仕事」では決してない、という点です。
多くの場合、起きているのはもっと構造的で単純なことです。
それは、今の組織の「評価の仕組み」が、その仕事を測るという前提で作られていない。
ただ、それだけの話だったりします。
自分が無能だから評価されないのではないか。
そう自分を責める前に、評価というシステムがどのような構造で作られているのかを、一緒に覗き込んでみましょう。
評価は「機能」にひもづいて設計されている
一般的な組織の評価制度は、ほとんどが「機能」という縦割りの単位で設計されています。
営業部門なら、売上や受注件数。
開発部門なら、実装した機能の数や品質、工数。
管理部門なら、処理件数やミスのなさ。
それぞれの役割に対して明確なKPI(重要業績評価指標)が割り当てられ、成果は「自分の機能(部署)の枠の中」で完結するという前提で評価軸は作られています。
この構造自体は、責任の所在をはっきりさせ、組織を効率的に動かすためにとても合理的です。
決して間違っているわけではありません。
ただし、組織が大きくなり、業務が複雑になればなるほど、「境界に立つ仕事」は、この合理的な枠組みからこぼれ落ちていきます。
境界の仕事は、事例としてどう現れるか
少し具体例を挙げてみましょう。
たとえば、営業が顧客から聞いてきた「ふんわりとした要望」があるとします。
これをそのまま開発部門に投げれば、後で必ず「そんな仕様だとは思わなかった」という認識のズレが生じ、プロジェクトは大炎上します。
そこで、現場の状況をよく知る誰かが間に入ります。
営業の言葉の奥にある意図を汲み取り、開発が実装できる現実的な仕様へと「翻訳」し、事前に両者の合意をとっておく。
この人がいたおかげで、他部署との情報の詰まりが解消されます。
別のチームの判断が速くなります。
そして何より、現場の大きな手戻りや炎上が未然に防がれます。
しかし、この素晴らしい働きは、評価シートのどこに書けばいいのでしょうか。
成果は、「営業が受注できた」「開発が予定通りに納品できた」という形で、他機能側に現れます。
結果として起きるのは、こんな状態です。
全体の数字は良くなっている。
でも、自分のKPI(機能としての目標)は動いていない。
結果、自分が何をした人なのか、非常に説明しづらい。
仕事は確かに存在し、膨大なカロリーを消費しているのに、成果だけが宙に浮いてしまうのです。
見えないのは、仕事が曖昧だからではない
この手の仕事をして疲弊していると、「あなたの役割が曖昧だから評価されないんですよ。
もっと自分の仕事に集中しなさい」と言われがちです。
ですが、実態は違います。
曖昧なのはあなたの仕事ではなく、組織が持っている評価の軸のほうなのです。
機能と機能のスキマ。
明確な責任の線が引かれていない、グレーな領域。
どちらの部署のKPIにも載らないけれど、組織全体が前に進むためには絶対に必要な改善。
そこでは、仕事が起きていないのではなく、システムに「記録されていない」だけなのです。
価値は、静かに発生している
私たち業務設計者が関わるような、境界の仕事には、派手な成果を生みにくい側面があります。
事前の翻訳と調整のおかげで、問題が起きなくなる。
マニュアルや動線を整えたことで、問い合わせが減る。
各部署が自律的に動けるようになり、無駄な調整会議が必要なくなる。
「何も起きない平穏な状態」が、この仕事における最も良い結果として現れます。
しかし、何も起きない(マイナスがゼロになった)ことは、非常に報告しづらいものです。
そして、上層部からも評価しづらい。
ですが、確実に誰かの仕事はやりやすくなり、組織は救われています。
自分が成果を出すのではなく、構造を整えること
このシリーズで扱う「価値」とは、「自分がプレイヤーとして目覚ましい成果を出すこと」ではありません。
扱うのは、成果が出るようになる“構造”そのものを整えることです。
その結果として、誰かの仕事がうまくいく。
その価値は、見えにくく、測りにくく、評価シートには書きづらいものですが、組織を動かすためには確かに存在しています。
次回は、その価値が「どこで生まれているのか」をもう少し掘り下げてみます。
機能と機能のスキマ。
境界に生まれるズレ。
そこに、見えない仕事の本質があります。
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