見えない仕事の本質#2|価値は「ズレ」が解消される瞬間に生まれる
組織の中で起きる不具合や非効率は、誰かの能力不足や怠慢から生まれるとは限りません。
むしろ、私たちの日常で起きている問題の多くは、「全員が自分の役割を正しく果たしているのに、なぜか全体がうまく回らない」という、静かな摩擦から生まれています。
どこにも属さない問題が、現場を止める
少し立ち止まって、日々の業務で「引っかかる」場面を思い返してみてください。
問題が起きている場所には、ある共通点があります。
たとえば、 営業が顧客からヒアリングした内容が、開発に渡る段階で重要な前提が抜け落ちている。
開発が設計したシステムの仕様が、現場の運用ルールと噛み合っていない。
管理部門が作った全社ルールが、特定の現場の実態にそぐわず、結果として形骸化している。
これらはすべて、「誰の責任か?」と問われると、誰もが少し答えに窮するものです。
営業は、顧客の要望を正しく伝えたつもりです。
開発は、渡された要件通りに設計したつもりです。
管理部門も、会社を守るためのルールを正しく策定しました。
全員が「自分の仕事」の枠組みの中では、正しいことをしています。
それでも、仕事はどこかで止まり、誰かがそのリカバリーに走ることになります。
境界があるということは、空白が生まれるということ
私たちが組織で仕事をする以上、「営業」「開発」「管理」といったように、役割を分けることは不可避です。
そして、役割を分けるということは、同時にその間に「境界線」を引くということでもあります。
しかし、仕事というものは、図面のように綺麗に線を引けるものではありません。
Aの領域とBの領域の間に境界線を引いたとき、そこには必ず「AでもBでもない、どちらにも属さないグレーな領域(空白)」が生まれます。
それは仕様の話なのか、運用の話なのか。
判断すべきことなのか、単なる調整事項なのか。
想定内のルールで処理できるのか、例外として扱うべきなのか。
この「空白」は、誰かが意図して悪意で作ったものではありません。
機能と機能を分けた瞬間に、構造上、必然的に生まれてしまうものなのです。
ズレは、静かに広がる
この空白に落ちたボールは、いきなり大爆発を起こすわけではありません。
最初は、 「あれ、この情報、少し足りないな」という、小さな確認不足。
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどな」という、微かな認識違い。
「これ、もう一度やり直さないといけないのか」という、ちょっとした手戻り。
ほんの小さな、日常的な違和感として現れます。
ですが、この空白は「誰の責任領域でもない」ため、根本的な修正(なぜそのズレが起きたのかの分析と構造の改善)が行われません。
その結果、同じような確認、同じような手戻り、同じような調整の会議が、何度も何度も繰り返されるようになります。
組織の時間は、この「見えないズレの修正」に、静かに奪われていくのです。
業務設計者は「どちらかに寄せる」役割ではない
ここで、私たち「業務設計者」の出番となります。
といっても、私たちがやるべきは、強い権限を持って「どちらかの機能(論理)に無理やり合わせる」ことではありません。
営業の論理(顧客第一)ですべてを統一する。
あるいは、開発の都合(効率・仕様の美しさ)に現場を合わせさせる。
そうやって、どちらか一方の強い重力に「寄せる」ような動きをしてしまうと、一時的に解決したように見えても、反対側に必ず新たな、そしてもっと大きな「ズレ」が生まれます。
業務設計者の役割は、寄せることではなく、その空白の領域に立ち、「縫い付ける」ことです。
縫い付ける、という仕事
「縫い付ける」とは、具体的に何をするのでしょうか。
それは、魔法のような解決策ではありません。
営業が持っている情報の「粒度」を、開発が設計できる「粒度」に揃えるためのフォーマットを作る。
A部門とB部門が、バラバラに行っていた「判断のタイミング」を同期させる仕組みを作る。
暗黙の了解になっていた「前提条件」を、言語化して明示する。
とても地味で、目立たない作業です。
人を力で動かすのではなく、情報とプロセスの「配置(構造)」を少しだけ整え直す。
その結果として、自然とズレが起きない状態を作る。
それが、業務設計という職能の核心です。
価値が生まれるのは、「何も起きなくなった瞬間」
この仕事の成果は、売上の急増や、劇的なコスト削減といった、わかりやすい形では現れません。
今まで頻発していた、隣の部署からの問い合わせが、ふと来なくなる。
上司に何度も確認していた手間が減る。
毎週のように開かれていた、関係部署間の「調整会議」が不要になる。
現場の人たちが、「最近、なんか仕事がスムーズですね」「特に問題ないですね」と、コーヒーを飲みながらつぶやく。
それが、私たちの仕事の最大の成果です。
「問題が起きない状態」を、構造によって創り出したのです。
だから、価値は見えにくい
しかし、この「問題が起きない平穏な状態」は、評価の対象になりにくいという宿命を抱えています。
なぜなら、人は「マイナスがゼロになった状態」よりも、「ゼロからプラスになった(売上が上がった)状態」や、「マイナスに陥った後に、汗をかいて火消しをした(トラブル対応をした)状態」のほうを、分かりやすい「頑張り」として評価しやすいからです。
しかし、その静かな状態こそが、組織のエネルギーを奪っていた「ズレ」が、しくみの力によって解消された確かな証拠なのです。
次回は、この「見えにくく、評価されにくい価値」と、私たちがどう付き合っていけばいいのかを考えます。
評価されない仕事を無理に可視化(アピール)しようとすると、組織にどんな歪みが生まれるのか。
最終話では、業務設計者という曖昧な立場を、私たち自身がどう設計し、引き受けていくべきなのかを考えていきましょう。
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