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#業務設計者論|翻訳者はしくみの言葉を編む

導入したはずのシステムが、いつの間にか使われなくなっている。
あるいは、高価なツールを入れたのに、現場では相変わらずExcelが飛び交い、そのツールはただの「データの保管庫」として静かに佇んでいる。

そんな光景を、これまでに何度も見てきました。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が日常に溶け込む一方で、現場の実感としては「何かが上滑りしている」という違和感が拭えない。そんなことはないでしょうか。

システムは導入して終わりではなく、現場の日常に馴染み、血肉となって初めて意味を持ちます。
今日は、その「定着」という壁を乗り越えるために必要な、「翻訳」という機能について考えてみたいと思います。

断絶された二つの言語

なぜ、システムは定着しないのでしょうか。
その原因の多くは、機能の不足ではなく、言語の不一致にあります。

企業のシステム導入現場には、大きく分けて二つの異なる言語が存在しています。

一つは、現場が話す「文脈の言葉」。
「ここの判断は、あの人の顔色を見て決めている」「繁忙期のこの処理だけは、どうしても手作業じゃないと不安だ」といった、数値化しにくい暗黙知や、身体的な納得感に基づく言葉です。

もう一つは、IT部門やベンダーが話す「論理の言葉」。
「仕様」「データ構造」「正規化」といった、0か1かで割り切れる、整合性を最優先する言葉です。

この二つは、どちらも正しい。
けれど、水と油のように混じり合いません。

現場の「痛み」をそのままITに投げれば「要件が曖昧です」と返され、ITの「正しさ」を現場に持ち込めば「使いにくい」と拒絶される。
この断絶の狭間に立ち、両者の言葉を編み直してつなぐ役割。それが、私が考える「業務設計者」の仕事です。

「翻訳」とは、構造を設計すること

私が実務の中で行っている「翻訳」は、単に言葉を言い換えることではありません。
現場の混沌とした感情や文脈を解きほぐし、システムが理解できる「構造」へと変換する作業です。

たとえば、現場が「使いにくい」と言うとき、それはボタンの配置の問題ではないことが多々あります。
本当の原因は、「現場が大切にしている承認の儀式(納得感の醸成)が、システムによってスキップされてしまったこと」にあるかもしれません。

業務設計者は、その行間を読み取ります。
「なぜ、彼らはここでExcelに戻ってしまうのか?」
「この非効率な手作業に残されている『意味』は何なのか?」

そうして拾い上げた意味を、システムの仕様という「形」に落とし込む。
あるいは逆に、システムの制約を、「なぜ今の業務を変える必要があるのか」という現場へのメッセージとして翻訳し直す。

一方的な押し付けではなく、現場が「これなら自分たちの仕事だ」と思える納得感と、システムが矛盾なく稼働する論理的整合性。
その両方が重なるわずかな接点(スキマ)を見つけ出し、そこに橋を架けるのです。

理想と現場の「ちょうどいい距離感」を測る

設計において最も難しいのは、ルールの「硬さ」の調整です。

システムは本質的に標準化を求めます。例外のない、硬いルールの方が管理は楽だからです。
しかし、現場は常に揺らいでいます。例外もあれば、急な変更もある。
ガチガチに固められた理想のフローは、現場の呼吸を止め、やがて「使われないシステム」として風化してしまいます。

だからこそ、業務設計者は「あえて緩める」場所を作ります。
「ここはシステムで縛るけれど、ここの運用は現場の裁量(自由)に残そう」
「ここは完璧なデータ入力よりも、スピードを優先して『その他』を選べるようにしよう」

それは、理想(To-Be)と現実(As-Is)の間に、人間が息をするための「余白」を設計する行為でもあります。

しくみの言葉を編む

DXの定着とは、ツールがPCにインストールされることではありません。
新しい業務のあり方が、現場の文化として根付くことです。

そのためには、ITの言葉だけでも、現場の言葉だけでも足りません。
二つの言葉を編み合わせ、組織にとっての「新しい共通言語」を作り出す翻訳者が必要です。

もし、あなたの組織でシステムと人がすれ違っているように感じるなら。
それは機能の問題ではなく、その間をつなぐ「翻訳」が不足している合図かもしれません。

次回は、もう少し具体的に、実際の現場でどうやってこの「翻訳」を行っているのか、事例を交えてお話しできればと思います。

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