『カウンセリングとは何か 変化するということ』著者は「書き手」としても一流だった
『カウンセリングとは何か 変化するということ』
東畑開人先生の書かれた本書。
『カウンセリングとは何か 変化するということ』
昨今、新書にはこういった「○○とは何か」系の本は多く、
内容がタイトルに負けしてしまっているような物も散見される。
「○○とは何か」という問いが、そもそも大きすぎて扱いが難しいのである。
(だからこそ、タイトルが魅力的に映るのだけれど、)
こういった、「大きい問い」に回答しようとするとき、
切り口が著者の主観だけになっては、
なんだか偉い人の自慢話でも聞いているみたいな気分になって、
(「ソースは?」と聞きたくなる。)
あまりにアカデミックな切り口では、学術的な記述の羅列に本を閉じてしまう。
やはり、「○○とは何か」系の本は簡単ではない。
この本も、タイトルは100点!面白そう!
と購入したはいいものの、
その答え合わせが怖くて、なかなか開けなかったのである。
しかし意を決して、読んでみて、そんな考えは一転。
私なんぞのしょうもない不安は杞憂に終わった。傑作である。
バランス感覚が絶妙
先ほども述べたように、
「カウンセリングとは何か」というような大きなテーマを語る際のバランス感覚が本書は絶妙である。
序盤でカウンセリングの
・学術的な背景
・社会での位置付け
・カウンセリングの枠組み
をサラッと解説し、
終盤は著者の経験やカウンセリングのケースを参照しながら、
時系列でカウンセリングの流れを追っていくのが本書の基本的な構成である。
そのおかげで、
退屈にならず、記述への信頼感も持ち続けたまま読み進めることができる
読み物としても面白く、科学的な信頼感を損なうことのない
バランス感覚が絶妙なのだ。
なぜ、著者は絶妙なバランス感覚を維持できたのか?
今回、僕が話したいのはここである。
なぜ、本書は絶妙なバランス感覚で書き終えることができたのか。
本書の内容は本当に素晴らしいので、ぜひ読んでほしい。
僕が要約をしても、
この本の本当の良さは全く伝わらないと思うので今回は要約メインではない。
こういった本は、自分で読んでこそなのである。
文章から感じるエピソードの手触り、質感があってこその本なので、
ぜひ読んでみてほしい。
①ケアを提供する人間としてのバランス感覚
さぁ、問いに戻ろう。
なぜ、著者はバランス感覚を保つことができたのか。
それは本書にも繰り返し、現れる表現であるが、
「カウンセリングが世間から(部分的に)信用されていない」からであろう。
「某メンタリストのようにこころが読める」
「話を聞くだけなら誰だってできる」
「カウンセラーはなんかあやしい。胡散臭い」
そんなイメージがなんとなく付きまとっていて
著者もそれに幾度となく苦しめられてきたのだろう。
そのため、かなり意識的に、
「ここまではカウンセラーの役割」
「ここはほかの分野にゆだねることができる(または、ゆだねるべき)」
とかなり明快な役割の区分を持っていることがわかる。
例えば、医療を頼るべきなのか
社会的な補助を受けるべきなのか。
あるいは、カウンセリングにしか癒せない部分があるのか。
ということである。
カウンセリングを受けるべき人に受けるべきケアを提供する。
決して我々にも押し売りをせずに、
それでいてカウンセリングの存在意義をはっきりと示してくれるのである。
カウンセリングという技法を極めた人であれば
「どんな問題でもカウンセリングで何とかなる」と妄信したり、
自分の手で助けられる人ならば
「自分なりにケアしてあげたくなったり」しそうであるが、
著者はそうはならないように、
ケアを提供する人間として、冷静に最善の選択肢を判断しようとしていると感じた。
普段から意識的でなければ、
こういったバランス感覚を保つのはなかなか難しいだろう。
②観察者としてのバランス感覚
カウンセリングには大きく2つの方針があると、本書には示されている。
ざっくりというと
①生活のためのカウンセリング
②冒険としてのカウンセリング
この二つである。
①は依頼者が生活に支障をきたしているときなどに行われるカウンセリング。
ここでは、生活を破局させないためや社会復帰などの方法を話し合う。
読んでいて、こちらについてはかなり方法論が整備させているというか
著者の書きぶりがシステマチックに感じた。
一方、②のカウンセリングは少し趣が異なる。
自分の人生を見つめ直し、生きる意味のよ「実存的な問い」を探しにいく営みだ。こちらの記述は、どこか文学を読んでいるようだった。
僕には、
①は生活を立て直すためのカウンセリング
②は人生をより豊かに生きるためのカウンセリング
のように映った。
同じ「カウンセリング」という言葉でも、その目的や役割は同じではない。
だからこそ、
依頼者が今どちらを必要としているのかを見極める観察者としての視点が重要になるのだろう。
この整理のおかげで、僕の中で「カウンセリングとは何か」の解像度はぐっと上がった。
③執筆家としてのバランス感覚
最後になるが、
ここまで読んできて一番印象に残ったのは、
東畑開人先生は優れたカウンセラーであるだけでなく、
優れた書き手でもあるということだ。
導入でも書いたように、
「○○とは何か」系の本は難しい。
専門性だけでは論文のようになり、
読みやすさだけを追えば、根拠の薄いエッセイになってしまう。
本書は、そのどちらにも傾かない。
専門家としての客観性と、物語として読ませる筆力。
その二つが高水準なのだ。
本書に登場するカウンセリングのエピソードを読んでいると、
不思議とこちらまで心が少し軽くなるような感覚がある。
まるで、僕自身もそのエピソードの中にいるかのようである。
心という曖昧なものを文学的な感性で描きながら、
職業人としての冷静さも決して失わない。
その絶妙なバランス感覚こそ、本書最大の魅力なのだ。
カウンセリングという仕事に興味がある人はもちろん、
「人はどう変わるのか」という問いに惹かれる人にも、
ぜひ手に取ってほしい一冊である。
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