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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第十一話 嘘のあと、本当のこと


「今日は猫のしっぽの日よ」

エラに向かって言った。

「……」

私の突然の言葉に、エラは固まった。



エラとヨル 第十一話
【嘘のあと、本当のこと】



私たちがリンブガルドから離れて、数日が経った。

お互いに言葉は少ない。

——言葉にすると、壊れそうだったから。

街道を避けてきたため、野営をしながらの移動はかなりこたえた。

これまでの旅の雰囲気とは違う。

距離感や会話。
必要最低限の関係が、重い空気をより濃くしていた。

私から話しかけても、エラの反応は鈍い。
まるで何かを恐れるような態度が、逆に私の言葉を遮っていた。

そのとき、ふと思い出した。

ーー『猫のしっぽの日』

「エラ。今日は猫のしっぽの日。知ってるでしょ?」

「知らない……」

エラは短く返す。

「えっ? 知らないの?」

「今日は特別な日」

「一年で一日だけ、嘘を言っても怒られない日」

私はわざと明るく話した。
慣れないせいで、声が上ずる。

「猫のしっぽの日って、みんな知ってるかと思った」

エラは黙って歩く。

「いいわ、教えてあげる」

「今日、話したことは、嘘をついてもお互いに怒らない」

「ただし……」

「嘘をついたら、次に言うことは本当のことしか言っちゃダメなの」

「……」

エラの反応はない。

「……じゃあ、やってみるね」

「私、よく喋るエラのこと嫌い!」

エラの足が止まった。

「嘘。
嫌いじゃないわ。賑やかな旅も悪くないもの」

エラは黙ったまま歩き出す。

「次ね」

「エラがケチなのに、食事にだけはお金を気にしないところ、嫌い!」

エラの肩が揺れる。
そのあと、ほんの少しだけ歩幅が変わった。

「嘘。
私も無駄遣いしたいけど、心配になるから、エラを言い訳にして使っちゃう」

「次は……」

「ヨルひどい」

私が続けようとするのを、エラが遮った。

「あれ? 聞いてたの?」

私は少し意地悪に声をかける。

「それ、嘘じゃなくて悪口じゃん」

エラは小さく呟く。

「猫のしっぽの日。ちゃんとルール守ってるよ」

私が返す。

「エラも言えば?」

「ただし、嘘の後は本当の話をしてね」

「……」

沈黙。

私に背を向け、エラは歩き出す。

「じゃあ、また私の番ね!」

そう言うと、私は続けた。

「エラの大雑把なところ嫌い!」

「嘘。
私が細かいところばかり気にするのが馬鹿らしくなるから。そういうところ、見習いたい」

エラがまた止まる。
こちらを振り返り、私を見つめる。

「エラのズレてるところ嫌い!」

「嘘。
私だってズレてる。エラはズレたまま、立っていられる人よ」

言葉が溢れた。

「エラの我儘なところが嫌い!」

「嘘。
エラは人と関わるのが怖いから、わざと距離をとろうとしてるだけって、わかってる」

唇が震える。

「エラが私の方を見ないのが嫌い!」

「嘘。
いつも気にしてくれる。歩く早さも、足元も、ちゃんと私が歩けるようにしてる」

私の声が震える。
涙が頬を伝う。

「エラのーー」

「もういい!」

エラが遮った。

「ヨルの泣き虫なところ嫌い!」

「嘘。
私のことをこんなにも見てくれている」

私は顔を上げる。

「ヨルの口が悪いところ嫌い!」

「嘘。
ちゃんと叱ってくれる。ちゃんと向き合おうとしてくれる」

エラの目から、大粒の涙が溢れる。

「エラだって、泣き虫じゃない……」

気づけば、私はエラに近づいていた。

「ヨルのこと嫌い……」

「私もエラのこと嫌い……」

お互い涙が溢れる。
なのに、お互い笑っていた。

「嘘つき!」

私が言う。

「ヨルだって!」

そう言うと、笑いが止まらない。

ーー涙が出るのに笑ってる。

ひとしきり笑ったあと、エラが言う。

「猫のしっぽの日。変な日があるんだね?」

エラは呆れたように言う。

「嘘。そんな日はないわ」

私はさらっと答える。

「えっ……」

エラが固まる。

「本当。でも今日じゃない」

私は舌を出してエラをからかった。

「どっち??」

エラは困惑した表情を浮かべる。

気づくと、二人で並んで歩き始めていた。
ただ、お互いの距離は近くなっていた。

ーー猫のしっぽの日。あなたはあると思う?


🔙第十話   第十二話🔜



▶️ ズレた二人の物語はこちら

note創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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