イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第十四話 夜の番、色の番
「私が起きてます」
そのひと言で、山小屋の空気が少し変わった。
吹雪に閉じ込められた夜。
たまたま避難した山小屋で、私たちは一晩を過ごすことになった。

エラとヨル 第十四話
【夜の番、色の番】
私とエラ。
偶然居合わせたオト。
そして、二人組の旅人、ディアとシーズ。
外では、風がガタガタと窓を揺らしている。
視界を奪う雪は止まず、日も少しずつ落ちていく。
今日は、このままここで泊まるしかなさそうだった。
避難用に建てられたのだろう。
小屋の中には薪が十分に蓄えられている。
ただ、泊まるにしても暖炉の火を絶やすわけにはいかない。
誰かが起きて、見ていなければならない。
それだけなら、まだよかった。
問題は――
この小屋にいる全員が、初対面同然だったことだ。
「雪、止まないね?」
エラが外の様子を見ながら呟いた。
「今日は泊まるしかなさそうですね」
オトが静かに答える。
「薪はたくさんあるから、暖炉の火さえ消さなければなんとかなるわ」
私はみんなに聞こえるように言った。
薪をくべながら、ディアが頷く。
シーズは、パチパチと音を立てる暖炉を黙って見つめていた。
「順番で起きていれば大丈夫ですね!」
オトが明るい声を上げた。
「二人は起きていた方がいいです」
私が続ける。
一人では、どうしても眠気に負けるかもしれない。
けれど、隣に声をかける相手がいれば少しは違う。
「そうですね。ここには幸い五人いるし、順番に休めば負担は少ないです」
オトも賛成した。
「……いや、私たちが寝ずに番をする」
ディアが低い声で言う。
「いいの?」
エラが、ラッキーと言わんばかりに声を上げた。
「ダメよ」
私は遮った。
少し言いづらかったけれど、ここは曖昧にするべきではないと思った。
「私たちは、初めて会ったばかりよ」
小屋の中が少し静かになる。
「初対面の相手に背を向けて眠るのは危ないわ」
誰に向けたというより、全員に向けて言った。
「だから、ペアはバラバラにするの」
私は続ける。
「そうすれば、お互いに気も抜けないし、寝てしまう可能性も減る」
少しだけ空気が張る。
「お互いに監視し合う……ということか?」
ディアがこちらに視線を向けた。
「否定はしません」
私は少し硬い声で答えた。
その空気を切るように、エラが笑って言う。
「じゃあ、私とオトでペアだね」
オトはゆっくり首を振った。
「エラさん。私とあなたがペアになったら、終わるわ」
「何が?」
「私が歌ったら」
「歌う!」
「私が寝たら」
「寝る!」
オトが深いため息を吐く。
「みんな、安心して眠れないわね」
――間違いない。
私は黙って頷いた。
「じゃあ、どうする?」
エラは肩をすくめて言った。
私は一人づつ順番に見ながら答えた。
「最初は、私とシーズさん」
「次は、エラとディアさん」
「最後に、私とオトさん」
オトと私なら、エラ以外の誰と組んでも問題はない。
問題はディアさんだった。
力で来られたら、私やオトでは止められない。
抑えられるのは、エラだけだ。
「それだと、ヨルさんがあまり休めないんじゃない?」
オトが心配そうに言う。
私は首を振った。
「私は昔から夜に強いんです」
そう言いながら、部屋の中にふわりと浮く黒い色を見つめる。
黒色のミニアが、はっきりと見えていた。
「もしかして……色が見えるの?」
オトが恐る恐る聞いた。
「……」
私は答えない。
けれど、それだけで一同には十分だったらしい。
小さく納得したような空気が流れる。
「ヨルは夜の女です!」
エラがなぜか自慢げに言う。
「黒色か……」
ディアが小さく囁いた。
「すごい! 黒色が見えるの?」
「実は私も見えるの。白色」
オトの声が弾む。
「私は土の色が見えるよ」
エラが胸を張って言う。
――この二人は本当に似てる。
黒色が嫌われている色だと、知らないわけがないのに。
そう思いながらも、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「青色……」
突然、シーズが言う。
一瞬、沈黙が落ちた。
「えっ? えっ? シーズさんも見えるの?」
オトが目を輝かせる。
頷くシーズ。
その姿を見て、息を吐きながらディアが言った。
「私は赤。そしてシーズは青が見える」
驚いた。
ミニアの色が見える人は多くない。
それなのに、この小さな山小屋に集まった五人は、全員が違う色を見ていた。
「それと……」
そう言いながら、ディアが目深に被っていたフードを外した。
――えっ?
私は言葉に詰まる。
低い声とフードに隠されていた顔を見て、思考が止まった。
――女性?
男性だと思っていたディアは、女性だった。
目つきは鋭いままだったけれど、赤い髪を後ろで結んだその顔立ちは、はっきりと女性のものだった。
その隣にいたシーズも、静かにフードを外す。
――えっ? えっ?
今度は逆だった。
フードの下から現れたのは、男性の顔。
水色の髪に、同じ色の瞳。
一見すると女性のようにも見える整った顔立ちだったけれど、喉元や輪郭がそれを否定していた。
さっきまでの認識が、一気にひっくり返る。
「ディア、女の子だったの?」
エラが笑いながら言う。
「じゃあシーズは男の子?」
シーズは黙って頷いた。
私はまだ言葉が出ない。
その様子を眺めながら、オトがぽつりと言う。
「素敵♬ いい歌詞が浮かんだ」
〜〜♬
オトはメロディを口ずさみながら、取り出した手帳に何かを書き始めた。
エラは「何それ、気になる!」と身を乗り出し、ディアは呆れたように息を吐く。
シーズは相変わらず黙ったままだった。
少しだけ、空気が緩む。
けれど――
私は、暖炉の火の向こうに揺れる青い色から目を離せなかった。
音なのか、色なのか。
何かひとつだけ、まだ違っている気がした。
外では、吹雪がまだ窓を叩いている。
この夜は、まだ終わらない。

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