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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第六十八話 音のない再会


炎が消えたあと、世界から音が消えた。

手に残った血の感触だけが、私をそこに繋ぎ止めていた。

そして、聞こえないはずの名前が、目の前にいた。


エラとヨル 第六十八話
【音のない再会】


「エラ!!」

私の声にも反応しないエラ。

瓦礫の山の上で、眠るように横たわっている。
ドラゴンのような翼も、長い爪も消えていた。

最初から、無かったかのように。

近づいて肩を揺らすと、僅かにエラの眉が動く。

よかった。

生きている。

私はひと息吐き、周囲を見渡した。

焼けこげた匂いが漂っている。
火事の跡のような瓦礫の山が、辺り一面に広がっていた。

――フールは?

姿を探したが、どこにも見当たらない。

「ヨル」

サンが駆け寄ってくる。

エラが息をしているのを見て、サンも安心したように息を吐いた。

だが、すぐに周りを見渡す。

「フールは?」

膝にエラの頭を乗せたまま、私は短く首を振った。

「燃え尽きたんですかね?」

サンはそう言いながら、周囲へ目線を送る。

その時だった。

サンの視線が、ぴたりと止まった。
何かに気づいた私も、同じ方向を見る。

大きな瓦礫の中で、壁のようなものが一枚だけ、不自然に残っている。

黒煙が薄れていく中で、次第にその形がはっきりと浮かんだ。

――盾? まさか!

ボロボロになった黒色の巨大な盾が、床に突き立てられている。

そうだ。

あれは、タワーの盾。

嫌な予感が走る。

その直後だった。

「ウッ……」

隣にいたサンが、肩を押さえて膝から崩れた。

肩から流れ落ちる血。
鋭い氷の矢のようなものが、深く刺さっている。

「サン!!」

私が叫ぶのと同時に、無数の氷の矢が一斉に迫った。

――間に合わない。

私はエラの頭を抱えるように、その上へ覆いかぶさった。

「……!?」

目を開ける。

何も起きていない。

違う。

氷の矢は、私たちに届く前に飛散していた。

私の前には、燃える剣を抜いたディアの姿があった。

「なんでだよー」

情けない声が響いた。

その声の先には、右半身が焼けこげたフールの姿が見えた。

「なんで、みんな邪魔するんだよ」

駄々をこねるように、フールは叫んだ。

「僕は間違っていない。僕が管理すれば、争いも飢えもない世界が生まれるのに」

フールの周りの空気が歪む。

大きな氷の槍が生まれた。

「みんな、邪魔だぁ! 消えてしまえ!」

そう叫ぶと、氷の槍が一直線にこちらへ向かう。

ボッ。

炎を纏ったディアの剣が、その槍を砕いた。

「竜の意思を穢す者。殲滅します」

ディアの剣先が、激しく炎を纏う。

赤く。

黒く。

轟音を上げ、火花を散らした。

一足で間合いを詰めると、ディアは剣を振るう。

ディアが振るった一撃を、黒い大剣が受け止めた。

ガン、ガン、ガンと、鈍い衝突音が響く。

――タワー!?

――生きてたんだ。

鎧のほとんどが崩れ、体の一部が見えている。
それでも、まだ動いている。

ディアは防がれた剣を構え直し、タワーと向き合った。

その影から、フールの姿が見える。
片手で顔を押さえ、何かを呟いていた。

「ヨルさんは、エラを運んでください」

振り返ると、オトが駆けつけていた。

オトはサンの傷口を見ると、すぐさま布を巻く。
そして肩を抱え、サンを運び始めた。

私もエラの脇を抱え、瓦礫の上を引きずるようにして運んだ。

崩れた壁の陰までエラたちを運ぶと、ニコたちが合流する。

サンの怪我に動揺したニコを、オトが落ち着かせていた。

私は集まったみんなの顔を見つめる。

サンは傷から血を流しながら、壁に寄りかかっていた。

ハーミットも息が荒く、顔色が悪い。

エラの意識も戻らない。

私は短く息を吐くと、シルベを抜いた。

「ヨル……行くの?」

フォーチュンが、私を見て呟く。

「もう、終わらせなきゃ」

短く答えた。

フォーチュンが頷き、剣を抜く。

「指示、聞いて……ね」

私はくすりと笑う。

「どうかしら?」

そう返すと、フォーチュンも笑う。

轟音が響いた。
視線を向ける。

そこには、全身を炎に包まれたタワーの姿が浮かぶ。

「エラをお願い」

そう言うと、オトが頷いた。

私はフォーチュンと一緒に駆け出す。
走る先に、無数の氷が飛び交っている。

「右。来る」

フォーチュンが短く告げた。

その声に合わせてシルベを振るうと、氷の矢が砕ける。

フォーチュンも、向かってくる氷の矢を砕きながら前へ進む。

ようやく、フールとディアが向かい合う場所まで辿り着いた。

ディアはこちらに目線を送る。
だが、剣先はフールに向けたままだった。

私たちがフールを見据えた時、フールの奇声にも似た声が響く。

「あった!」

フールの手には、竜石が握られていた。

ディアが目を細める。

「それは人の手には余る。正しい場所へ戻す」

ディアの言葉を無視するように、フールは笑う。

「死んじゃえよ。僕の言うことを聞かない奴なんて、みんな死んじゃえよ」

そう言うと、竜石が淡く光り始めた。

足が瓦礫を蹴る。
考えるより先に、体が前へ出ていた。

「ダメ!」

私は叫んで飛び出した。

フールの手の中で、竜石の光が強くなる。

――間に合って!

シルベの熱が全身を巡るのを感じる。
フールの姿が、ぶれて見える。

全てが、ゆっくりと動いているように感じた。

フールの手が、僅かに上がる。
竜石の光が、さらに強くなる。

その光に押し潰されるように、石の表面へ亀裂が走る。

間に合え!

シルベから声が聞こえてくる。

前へ。

その直後、物陰から一本のナイフが投げられた。
竜石を握ったフールの手に、ナイフが刺さる。

手から離れる竜石。

直後に、シルベがフールの胸を貫いた。

「なんで……だよ……」

その場に崩れ落ちるフールの姿を見て、私はシルベを抜く。

音が聞こえない。

自分の息を吐く音も、高鳴る鼓動も聞こえない。

手先に残る血の感触だけが、私の意識を繋いでいた。

転がった竜石の向こうに、青い髪の青年が立っていた。

シーズだった。


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