脱皮:言葉の海で②
[Header Image Credit] by Daria Petrilli (via Pinterest)
はじめに Preface
前回記事の続きの積もりで書き始めました😺
七瀬ラテ様の『残響 | 散文詩』を読んだのとほぼ同じ時に読んだ五月美様の楽しめる以下の記事が、脱皮について調べてみようと思った切っ掛けです:
同作家の別の記事ですが、⬇️もとても楽しめます:
題名の「海馬テーマパーク」に示されるように五月美様の記事は題名に登場する言葉がとても魅力的且つ刺激的です😸
先入観 Prejudice
五月美様の記事を読んだ時に記憶から蘇ったのがメキシコの外交官・小説家 Carlos Fuentes の作品『脱皮』(西語の原題は "Cambio de piel")です。この題名を日本語に直訳すると「皮膚の交換」又は「皮膚の変化」であり、一方で西語では脱皮は la muda と言います。
英語では脱皮は molting 或いは明らかに希語由来の専門用語 ecdysis です。
「西語の la muda 或いは英語の molting と ecdysis が比喩的に用いられることは先ずない」と考えていたのですが、全く誤った先入観でした。
そして「小説の題名を恣意的に翻訳することはマーケティング上当たり前であり、原題の意味を上書きするような題名を選択していて面白い」と考えていたのですが、"Cambio de piel" を『脱皮』と翻訳することは意味の上書きでも何でもないことが判りました…またしても私の先入観😰
脱皮 ecdysis、抜け殻 exuviae
念の為、ecdysis【希語由来】は単数形、exuviae【羅語由来】は複数形で、通常それぞれの複数形と単数形は使わないように思われます。
それは、脱皮がある一回の過程を表すことに対して、抜け殻は残された物理的な物が複数あることから説明出来ます。
脱皮が比喩的に使われるのと同様に抜け殻も比喩的に使われます。
以下の通り否定的なニュアンスも逆のニュアンスもあります:
Empty Shells
• Loss of life or substance: Representing something that is now hollow, empty, or without its core spirit.
• Fragility: Highlighting how easily things break once the living force is gone.
• Detachment: Showing a physical body or structure left behind after the true self has moved on or died.
➡️生命或いは実体を喪失した状態、或いは生きる力を失った脆弱な状態
Exuviae (Cast-Off Skins)
• Transformation: Showing a visible proof of a past stage of life that is now finished.
• Renewal: Marking a clean break from old habits, old identities, or a difficult past.
• Resilience: Proving that growth requires shedding what no longer fits to survive and grow larger.
➡️過去・古い習慣等からの脱却を明示すること(形質転換・刷新)、或いは更に大きく成長するためにもはや自分に合わなくなったものを手放したことを示すこと(復元力)
Franz Kafka の "The Metamorphosis"『変身』の最後では抜け殻という言葉は使われていませんが、淡々とした記述は脱皮とは異なるものの且つて人間であった Gregor の抜け殻を想起させます。そして小説冒頭の日本語で毒虫と翻訳される monstrous verminous bug (【独】ungeheueres Ungeziefer) のイメージは軽減しています。
'Dead?' said Mrs. Samsa and looked questioningly at the cleaning woman, although she could check everything on her own and even understand without a check. 'I should say so,' said the cleaning woman and, by way of proof, poked Gregor's body with the broom a considerable distance more to the side.
…
In fact, Gregor's body was completely flat and dry.

世界線、分岐
言語が新しい言葉を作り続ける一方で言葉の意味が時代と共に変化することは言語が活きている証でもあり、それを批判しても仕方ありません。
英語の silly は非常に良く知られた例です:
Old English: Meant "happy," "fortunate," or "blessed."
Middle English: Shifted to mean "innocent," "harmless," or "pious."
16th Century: Evolved to mean "weak," "helpless," or "feeble in mind" because people associated innocence with vulnerability.
Modern English: Came to mean "lacking in judgment," "ridiculous," or playfully "goofy."
譬え言語が或る程度連続していたとしても「危険地帯」を意味していた言葉が数万年後に「聖地」と理解されることには何の不思議もありません。以下の記事で触れた Onkalo がまさにそれを念頭においています。
この「世界線」が Minkowski spacetime の World line であることは数学或いは物理学を勉強した人であれば直ぐに判り、更にその線が分岐しないことを理解していますが、最近の「世界線」という言葉を聞く限り、僅か四半世紀の間に同一の言葉が全く異なる概念を指す状況が作り出されています😎
五月美様はこの元々の定義をご存知で以下の記事を書かれています⬇️
因みに「分岐」を英語に訳すと数学の世界に限っても
Bifurcation
Branching
Ramification
があり、全てニュアンスが異なります。

Bifurcation diagram in Logistic Map(Wikimedia Commons)

"The Geometry of Schemes" (David Eisenbud, Joe Harris)
偶然というか、前回の「残響」の際にも引用させて頂いた Dee.H 様の音楽をまた引用させて頂きます。私の音楽の趣味は非常に偏っているので、日常的に聴く音楽とはかなり異なりますが、この「分岐点」は気になりました:
自動翻訳
no+e コミュニティにおいては記事の自動翻訳を歓迎しているようですが、私個人は一切使っていません。理由は以下の二点です:
以下のような私の記事(特に不真面目な語呂合わせや数学に関する話)が複数言語を用いることで自動翻訳に支障を来す
専門用語の自動翻訳は未だに完成度が低い(例: integral function を積分関数と訳し、検証しない人達はそれをそのまま流用する…)
一番例として相応しいのは James Joyce の "Finnegans Wake" ですが、卑近な例を以下に示します:
✳️翻訳以前に日本語ですら意味不明な雑文⬇️
✳️著しく節度を欠いたカタカナ語濫用による風刺⬇️
✳️「ちょけた」語呂合わせ⬇️
✳️「辻斬り」が美しい日本語に選ばれている🙃件に関する論評⬇️
✳️専門用語の翻訳がそれ程簡単ではないことの例示⬇️
技術系の翻訳は文学の翻訳と違って「目を瞑っても出来るレベル」のはず、と言いたいところですが、そこ迄易しくはありません😎
刺激
私はつい翻訳によって意味が通じなくなるのでは等と考える癖があるので、豊かな言葉を楽しい語り口で表現する五月美様の記事はいつも新鮮です✨
そして構造的な視点ばかりからものを見る癖がある中で、Dee.H様のこの曲にあるような刺激はとても助かります🙏
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