見出し画像

言葉の海で

[Header Image Credit] by Daria Petrilli (via Pinterest)


余白、なぎ

以下⬇️の七瀬ラテ様の素敵な散文詩が本記事の切っ掛けです。
とても好きな散文詩で、別離の記憶が心に残ります。
丁度私自身が同様の体験をしたことも理由の一つでしょう。

この記事を書こうと思った当初は余白、なぎ、揺らぎ、残響、脱皮、輪郭と言った響きの良い日本語に関して比較をしてみようと考えておりました。

これ迄に「余白」と「なぎ」に関しては以下の記事を書きました。
といっても表面的な話であり、踏み込んだ内容ではありません:

そして「揺らぎ」。
響きはとても素敵なのですが、古来から使われて来た「揺らぐ」が物理学の影響を受けて、曖昧性を更に助長して濫用されているように思えていたのがとても気になっておりました。
揺らぎに関しては後で戻ることにして「残響」に進みます。

残響

残響を普通に英語に訳すと reverberation かと思います。物理的な音響に関する文脈で使われるだけでなく、神経生理学的現象に関しても使われ、更に精神的・霊的な比喩としても使われます。
以下の言葉も残響に近い意味を持ちます:

  • Echo

  • Resonance

  • Afterglow / Lingering sound

尚、調べてみると「残響」と「反響」は区別されていて、反射音と直接音を区別できるのが反響です。反響も山びこという物理現象からの比喩ですが、「死語化した比喩」として定着し、元のイメージが消失しているのは面白い点です。理由としては

  • 「反響が大きい」「反響を呼ぶ」という形での使用頻度が多すぎること➡️日常化

  • 「声が響き渡る」物理的光景を思い出す必要がなくなったこと➡️抽象化

他にも、頭が固い、目配りする、釘を刺す、等の例がありますが、英語でも以下のような既に比喩ではなくなった言葉があります:

  • Break the ice(緊張をほぐす)

  • The ball is in your court(あなたの番だ)

  • Deadline(締め切り)

このような比喩を frozen metaphor 或いは lexicalized metaphor と呼ぶのだそうですが、専門外の領域に足を踏み入れるので、ここで引き返します😎

は面白い漢字で、残滓、残骸、残党、残兵等はかなり否定的な意味の言葉ですが、一方、残照、残響、残像には否定的なニュアンスはありません。
更に sayo kagura様から教えて頂いた言葉:残雪・残光・残香…💜
「残弾ゼロ」はゲーム感覚…残金・残高は急に現実に引き戻す即効性のある言葉です😰

七瀬ラテ様の散文詩『残響』に戻ると、この比喩は非常に印象的です。

やがて残響は消え去り
...
隣り合ったものと奏でた時間は
静かな記憶として刻まれてゆく

一方で七瀬ラテ様の以下の記事を読んで、大いに反省する点がありました:

この記事は「柳井市の金魚ちょうちん」が切っ掛けですが、私の別の記事 "Ubuntu" に触れています:

Screenshot taken on 2026/07/27
https://note.com/roshanak/n/n796d487d3a16

本記事執筆中、七瀬ラテ様の「ありがとうございます…」の記事に書かれていた『スペクトラム』に触れて、代数的構造を軸にして異なる分野を繋げる記憶のスタイルが影響しているような私の比較方法が甚だ機械的で且つ稚拙であることと痛感した次第です💫🙏

勿論『残響』が素敵な作品であるという認識は全く揺らぎません😎


揺らぎ

私のその狭い視点からの「揺らぎ」に関する観察です。

好意的な解釈では、「揺らぎ」は曖昧さ・多義性を肯定的に、「不確実性」を柔らかく表現した言葉 の一種ですが、
 専門用語 ➡️ 比喩語 ➡️ 汎用語
という典型的な意味拡散の道を歩み、Web 記事での万能比喩語になったように見えます(私見)。
日本語の「1/f ゆらぎ」の元の英語は 1/f noise 或いは Flicker noiseですが、noise はその語源から判る通り、「不快な音」を意味します:

From Middle English noyse, noise, from Old French noise ("a dispute, wrangle, strife, noise"), of uncertain origin. According to some, from Latin nausia, nausea ("disgust, nausea")

https://en.wiktionary.org/wiki/noise

従って多くの人が noise という言葉を否定的に捉えているのは当然ですが、この日本語化された言葉を英語、或いは仏語の Bruit de scintillation に戻す際に「揺らぎ」が獲得した科学的な aura により重層化された曖昧性が支障となります。そして日本語で流布する文書に使われる「揺らぎ」の曖昧性は自動翻訳の精度に影響します。

「場」「気」「間」「余白」「揺らぎ」等、境界が曖昧な概念語が好まれるのが倭国文化の特徴の一つではないか、と感じています。責任の所在を曖昧にするこれらの言葉が多用される一方で多様性が理解されず、それを受容しないと集団から ostracize されることに繋がるのは面白い現象です😱
意味を厳密に定義・理解せずとも、周囲と同じ言葉を使用することから来る安堵感、ということもあるのかもしれません。

似たような言葉に「ブレる」がありますが、先ず間違いなく否定的な意味で使われます。不思議なのは以下のような或る種の double standard:

  • 方針がブレる➡️非難囂々、責任問題、炎上必至🔥

  • 決意が揺らぐ➡️人間らしい弱さが感じられて許容される🤔

そして日本語で「揺らぎ」と簡単に表現されてしまう状況を英語に訳す際には分野によって異なる語を選ぶ必要があります:
① 物理学・数学・天文学
fluctuation / noise / perturbation / instability / scintillation

② 心理・感情
mood swings / emotional fluctuation / wavering

③ 思想・文化
ambiguity / indeterminacy / fluidity / instability

④ 芸術・文学
shimmering / oscillation /shifting meaning / play of meanings

⑤ ビジネス
volatility / uncertainty / instability

つまり「揺らぎ」という表現を文脈が曖昧なままで英語に自動翻訳すると、誤訳ではなくても、作者の意図しない文章が出来上がる可能性があります。


七瀬散文

言語文化が普遍的であるはずもなく、自動翻訳の視点で比較をする私の見方が如何に狭隘であるか、七瀬ラテ様の「ありがとうございます…」の記事が気付かせてくれたのだと思います🩵
こちらこそありがとうございます🙏

そして絶妙なタイミングで投稿された Dee.H 様の以下の 記事✨🙏


次々回は「脱皮」について触れる積もりです(『世界の車窓から』風)。

尚、記事の題名に用いた『言葉の海』は以下の本から採りました:

हिंदी शब्दसागर Hindi Shabd Sagar, the largest and first standard comprehensive dictionary of the Hindi language, created by the Nagari Pracharini Sabha in Varanasi.

英語に直訳すると "Ocean of Hindi Words"💫
従って日本語に直訳すると『言葉の海』。
Hindi語の शब्दकोश (shabdkosh) は辞書を意味します💡
🟪

いいなと思ったら応援しよう!