見出し画像

第六章「迷走を脱出する方法」Act.3「自分は、自分」 学園小説relationship

← 前回の話:Act.2「心揺れる時」 
初めての方へ 目次へ 各話ダイジェスト 
キャラ紹介 Side Story目次

Act.3「自分は、自分」

十日ほど経ったある日。 冬の高く青い空へと、生徒たちの歓声が響き渡っていた。この日は校内球技大会。男子はサッカー、女子はバレー。

「決勝に残るのは体育科ばかりだな」 西谷武久はシャッターを切り終えると、苦笑いしてカメラを下げた。隣では、ブレザー姿の亮哉が腕を組んで頷いている。 「いいじゃないか。この日は体育科に花を持たせる日だと割り切ればいい」 西谷は亮哉の横顔を盗み見た。亮哉は先の体育の時間も見学していた。風邪でもなさそうだが、どこか悪いのか。だが、深入りを嫌う西谷はそれ以上考えず、再びカメラを構えた。

一方、グラウンドの隅では綾香、美樹、律子の三人が体育座りで観戦していた。 ……いや、「観戦」とは言い難い。綾香と美樹は試合に目もくれず、昨日見たアニメの話に花を咲かせている。大人しい律子は、そんな綾香の様子に小さく溜息をつき、フィールドへと目を向けた。

そこには、サッカーの試合で躍動する稔之の姿があった。全国から選手が集まる体育科同士の決勝は、もはや校内大会のレベルを超えている。その中で稔之は、正確なパスを繰り出し、卓越したスポーツセンスを見せつけていた。

(……何だか、みなちゃんは、関谷君に対して冷たいよね……)

律子は、以前から感じていた違和感を心の中で呟いた。 綾香は、意図的に稔之へ無関心を装っているのではないか。ぶっきらぼうだが綾香を大切に思っている稔之に対し、必要以上に距離を置く綾香。それは亮哉が現れる前からのことだ。

『関谷君に、声援を送ってみたら?』

……言えない。綾香は稔之に関して、友人にも言えない秘密を抱えている気がするのだ。

試合終了のホイッスル。 稔之のクラスが0-1で勝利を収めた。歓喜の輪から外れた稔之は、泥を払いながら綾香の元へ歩み寄ってきた。 「全く、おめーは興味ねーことには、とことん無関心なんだな」 「だって体育科が勝つの当たり前じゃん。普通科は暇だよ。ハンデとして十キロの重りつけるべきだよ」 綾香の的外れな提案を無視し、稔之は律子に向き直った。少しだけ表情が和らぐ。 「……中津さん……かな? 今度の土曜日、俺と綾香、あと俺の友達の四人でスケートに行かないか?」 「えーっ、勝手に決めないでよ!」 反発する綾香を「お前は黙ってろ」と一蹴する稔之。男子慣れしていない律子を気遣った綾香だったが、律子の反応は予想外だった。 「……私は……別に構いませんよ……」 消え入りそうな声で、しかし律子はしっかりと承諾した。

土曜日。市街地最南部のスケート場。 稔之はリンクに降り立つなり、人波を縫うように颯爽と滑り始めた。抜群の運動神経に、女子大生グループからも歓声が上がる。 一方、初心者の綾香は手摺りを掴んで離さない。腰の引けた無様な格好だ。 「仕様がねーな。ほら、来いよ」 稔之が手を差し伸べるが、綾香は引きつった顔で拒絶する。 「……貴様の助けなどいらぬわ……自力で滑ってやる……」 呆れ顔の稔之は、仕方なくその場で滑り方のアドバイスを始めた。

リンクの外では、中田と律子が自販機前の椅子に並んで座っていた。 「ごめんね、中津さん。無理な頼みを聞いてもらって」 中田が笑って頭を下げると、緊張で硬直した様子の律子が首を振った。 「ううん、いいの……。だけど、みなちゃんは多分、彩賀君の方が……」 友人の恋心を代弁するような律子の言葉に、中田は苦笑した。 「わかってる。最後には水瀬さんが決めることだよ」

律子は中田の横顔を盗み見た。裏表のない、人当たりの良い印象。
(……もしかしたら、この人は知っているのかもしれない。みなちゃんと関谷君の間に何があったか……)
視線に気づいた中田がこちらを向くと、律子は赤面して俯いた。中田もまた、律子の思惑に気づき、表情を引き締めた。 「まあ、あの二人には時間が必要だろうな」

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 中田伸道(短く刈り上げた髪・親しみやすい顔立ち) 中津律子(黒髪ショート・控えめな表情) スケート場 ベンチ 自販機 冬服 同一性の死守 [cite: 20, 2026-02-02]
スケート場のベンチ。
温かい缶飲料を手に、リンクの二人を見守りながら
語り合う中田伸道中津律子
(二人の後日談はSideStory⑬前編へ)

リンク内では、稔之の怒号が響いていた。 「おい! 綾香、よそ見してんじゃねーよ」 中田と律子が気になって仕方ない綾香は、手摺りを離さず首だけを外に向けている。 「いや、あんたの友達が律っちゃんに迷惑かけてないかと思って……」 「中田は、お前より人間出来ているよ!」 その瞬間、綾香の手が滑った。バランスを崩し、数歩つんのめるように氷の上を歩く綾香。 慌てて稔之が駆け寄ろうとするが、綾香は器用に氷の上をカクカクと歩き始めた。 「あ、滑れるようになったー」

「……滑っている内に入らねーよ、それ……」 稔之は肩を落としたが、綾香の笑顔を見ているうちに自然と口元が綻んだ。 亮哉の存在が今後どう影響しようとも、自分はこうして綾香と日常を積み重ねてきたのだ。 遠くでガッツポーズを作る中田の姿が見えた。 (……もっと自分を信じよう) 中田に手をかざし、稔之は再び、笑いながら綾香に滑り方を教え始めた。

学園小説 relationship 佐藤真弓 決定ビジュアル アニメ調 100%再現 関谷稔之(明るい色の髪・漆黒の瞳・精悍な体格) 水瀬綾香(紫の瞳・ストレートヘア) スケート場 氷上 冬服 同一性の死守 [cite: 20, 2026-02-02]
スケートリンクの上。
おぼつかない足取りで氷上を歩く水瀬綾香と、
それを見守り指導する関谷稔之
(後日談はSideStory⑬(中編)へ)

第六章「迷走を脱出する方法」完

次の章へ↓

初めての方へ 目次へ 各話ダイジェスト 
キャラ紹介 Side Story目次


いいなと思ったら応援しよう!