初めての手術と、ベッドの上の2週間
手術を控えている方が、もしこれを読んでいたら——これは、初めての手術とベッドの上で過ごした日々の、私の記録です。
がんと言われた日のこと、そのあと調べたり決めたりしたことは、前に書きました。今回は入院してからの話です。
前の晩は、それなりに眠れた
入院して翌日にはもう手術でした。前日は担当の先生と麻酔科の先生から説明を受けて、いくつもの文書にサインをして、シャワーを浴びて、食事をして、あとは寝るだけです。
意外に思われるかもしれませんが、前の晩はそれなりに眠れました。このときはまだ「ステージ1くらい」の見立てで、先生からも大手術ではない雰囲気を感じていましたので。
手術室の前で
当日は起きるとすぐ点滴用の血管確保がありました。そこから看護師さんと一緒に歩いて手術室へ向かいます。妻が心配そうな顔でついてきてくれました。
手術室の前で、いったんのお別れです。万が一のことがあればこのまま最後になるかも……と思ってしまいましたが、笑顔で「心配しなくていいよ。大丈夫」と言葉を交わしました。
「あ、ドラマとかで見るやつだ」
手術室に入って最初に思ったのは「あ、ドラマとかで見るやつだ……」でした。先生たちが手を洗って、手袋をはめて、両手を上げる。初めて見るのに、なぜか既視感があるんです。
いま思うと、そんな光景をそういう目で見ながら自分を落ち着かせようとしていたのかもしれません。おかげで緊張しすぎずに済みました。
麻酔の説明を受けて、横になって、マスクが当てられます。ガスが流れてきても意識はまだしっかりしていました。麻酔科の先生の合図で、確保していた血管から薬が入って——そこから数秒で、意識が消えました。
当然のことではありますが、術中の痛みも、記憶も、まったくありません。
目が覚めて、最初に見たもの
気が付くと手術は終わっていました。喉に当たっていたマウスピースが少し痛かったくらいで、ベッドのまま部屋へ運ばれる間も意識はもうろうとしていました。
そんな中で、ずっと待ってくれていた妻の顔を見たときはホッとしました。万が一、が無くてよかったなと。
つらかったのは、痛みではなかった
術後の2〜3日は、血液や体液を外に出すチューブを付けたまま過ごします。トイレは点滴台を転がしながら自力で。シャワーはチューブが抜けてからです。
痛みはどうだったかというと、激痛というのは無かったんです。痛み止めも効いていました。
つらかったのは痛みではなく……体から外に出ているチューブの感覚が気持ち悪くて。私は普段から注射されるところを見ていられずに横を向くような性格です。なのでチューブがずっと体に入っているのは、精神的にちょっとつらいものがありました。寝返りを打つのにも神経を使います。
だから数日してチューブを抜いてもらったときは、本当にほっとしました。これでやっと思い通りに動けると。
もくろみどおりの、映画三昧
入院が決まったとき、いちばん真剣に考えたのはベッドの上の時間をどう過ごすかでした。最低2週間と言われていた入院です。その時間をできるだけリアルに想像して準備をしました。思い切って、それまで我慢していたiPadも買いました。
もくろみは「仕事を忘れて映画鑑賞三昧、読書三昧」。状況としては深刻だったのですが、少しでも明るく前向きに、というのが私のモットーなんです。
結果は大正解でした。ずっと観たかったのに仕事が忙しすぎて観られなかった映画をかたっぱしから観て、ため込んでいた漫画も電子書籍で読みました。ベッドの上でこれだけのエンタメが楽しめるのは時代のおかげだなぁとしみじみ思いました。
ベッドの柱に取り付けると、手で持たなくてもタブレットが目の前に来てくれるアームも用意していました。様子を見に来た看護師さんに「うらやましいです」と笑われたくらいです。
一日の流れは、起きて、検温、食事、診察。そこからは自由時間です。これまで全力で走り続けてきましたので、このくらいは許されるだろうと割り切りました。
会わない、という気づかい
家族とは毎日電話やLINEでやり取りしていました。ただ、面会はあえて減らしてもらっていたんです。
着替えの交換はレンタルのサービスに頼んでいたので「無理して毎日来なくていいよ」と伝えました。妻も働いていますし、無理はさせたくありません。それに特に最初のうちは、体からチューブが出ていて必要以上に重篤な状態に見えますから、心配させないためでもありました。
上司や仕事仲間からはお見舞いの申し出もいただき大変ありがたかったのですが、丁重にお断りしました。あまり心配をかけるのもなんですし——それにみんな忙しくしているはずなのに自分はベッドでのんびり映画を観ているわけです。正直に言うと、その姿を見られるのは申し訳ないというかバツが悪かったというのもあります。
気が付けば、夢中になっていた
映画の合間にネットニュースやYouTubeを眺めていると、生成AIの話題が目に入ってくるようになりました。以前から気にはなっていたのですが、そんな時間はなく横目でちらっと見ていた程度だったんです。
退院後に何か役に立つかも、と思いつつ、ほとんどは興味本位で読み始めました。すると、これが面白い。想像していたより簡単に始められそうなんです。
気が付けば夢中になって、映画を観る時間よりAI関連の情報を見る時間のほうが増えていました。
この出会いがそのあとどうつながったかは、前に別の記事に書いています。
退院の日
入院は、最初に言われていたとおり2週間で終わりました。退院の日は妻も病院に呼ばれて、主治医の先生から病理結果の説明を受けました。切り取った部分の断面図を見せられます。そういうものが苦手な私は目を背けそうになりましたが、大事なことなのでしっかり聞きました。
結果は、想像していたよりがんの部分が大きく、「ステージ2に入りかけた感じ」とのことでした。とはいえ切り取った断面にがん細胞は認められず、周辺は大丈夫だろう、と。
ただひとつだけ。切り取った患部の中のリンパ管に、少しだけがん細胞が見つかっていました。リンパ管は、切り取らずに残したリンパ節へとつながっています。手術の前は「リンパ節を取り除くまでは必要ないでしょう」と言われていましたが、退院後も慎重に観察して、腫れる兆候があればリンパ節まで取るのが良いという方針に変わりました。
家に帰ると、久しぶりの我が家にホッとしました。病院の食事は思ったよりおいしかったのですが、やっぱり妻の料理がいちばんです。家族みんなで食卓を囲めたのが、何よりうれしかった。
それから
もしリンパ節に転移すれば、その時点でステージ4です。
退院できると喜んでいたのに、急に不安になりました。
そしてその不安は、2ヶ月後には現実のものとなってしまいます。
その話は、別の記事に書きました。
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