モストマスキュラー!1「告白」【#創作大賞2025 #恋愛小説部門】
あらすじ
舞台女優を夢見て上京し、レッスンとアルバイトに打ち込む24歳の綾羽。
ある日、地域スポーツサークルで知り合った男の子に連れられて、大学のボディビル部に迷い込む。
そこで出会ったのは、筋肉と減量に青春を懸ける“真剣な野郎ども”。
最初は偏見だらけだった彼らの姿が、やがて綾羽の心を動かしていく。
悔しさ、努力、友情、そしてちょっぴり? の恋心。誰かを応援することで、自分の夢にも真剣になっていく彼女と、全力で挑む筋肉たちの物語。
舞台の上も下も関係ない、全力で“魅せる”人たちの青春とは。
偏見なんてクソくらえ――これは夢を追い続ける、すべての人へのエール小説。
「ワンポーズ!」
──五月の深い夜。
この辺りは都会から少し離れているので、星が瞬いているし、虫の音も響く。
窓を全開にしていると、風に乗って新緑特有の匂いが鼻をかすめる。多少違えども、その空気は生まれ育った故郷にちょっと似ていると思う。
この季節の夜風は心地よくて、運動後の汗で湿っている私の髪を優しく乾かしてくれる。
ここ三ヶ月、毎週金曜日の夜は決まって同じ時間を過ごしていた。まるで色濃くなる田園風景みたいな色の車に乗り込めば、静かに私の住処へ運んでくれる。
少し硬めのリクライニングシートを元の位置に起こすと、それが合図とばかりにエンジン音は緩くなり、止まる。
「ありがとう。ここで大丈夫」
「うん」
運転手の彼が軽く頷く。
「今日も楽しかった。おやすみなさ」
「あのさ」
私の声をさえぎる、彼の強い声。
「ん?」
ドアのロックを外そうとしていた私の動きが、止まる。
「話したいことが、あるんだけど」
ハンドルを握ったまま俯いているので表情は伺えないけれど、何かを覚悟したかのような、でも少しだけ震えている彼の声に、私は少し身構えた。
「……何? どうしたの?」
恐る恐る尋ねると、ようやく彼が顔を上げる。彼の黒くて丸い大きな瞳が少し潤んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。
「前から言おうと思ってた、ことがあって……」
ゆっくりと言葉を選んで話す彼の真剣な眼差しが、私をまっすぐ捉えた。
──そんな表情、今まで見たことない。こんな彼を、私は知らない。
全身に走る緊張で乾いたのだろうか、唾を飲み込んだ音が妙に大きく響いた気がする。
これって。まさか。
まさかの告白、キタ!?
どうしよう、心の準備ができていなかった! 確かに今は彼氏いないし、ってナニ私『付き合っちゃってもいいんじゃない?』みたいなノリになってんの! 待て待て、まだ早いんじゃないかなー? もうちょっとお互いを知ってからの方がいいんじゃないかなー? でも三ヶ月ってちょうどいい頃合いかー。三がつく期間って恋愛において重要な数字だったとか雑誌に書いてなかったっけ。っていうか告白されるとか何年ぶりだろう。大学二回生の夏以来だっけ、うひゃー四年ぶりか! 四年ぶり!? 久しぶりすぎて泣ける!! 非リア充脱出か、脱出できるんですかね!? 待て落ち着け私、まだ慌てるような時間じゃないぜ。一旦深呼吸してみようか?
──などと、頭の中がお花畑モードになって目が泳ぎかけた私へ、彼が静かに呟いた。
「俺、ボディビル部なんだ」
「……へ?」
ぼでぃ、びる?
随分と濁点の多い告白だな……ぁ?
彼が念を押すように、ゆっくりと繰り返す。
「ボディビル、やってんだ」
「へ?」
私の情けない声が、小さな車内に響いた。
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