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モストマスキュラー!12「仲間」【#創作大賞2025 #恋愛小説部門】


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 その扉は、いつかのように轟音ごうおんを立てて開いた。

「お、大会組全員揃ってんじゃん」
「ういっす。あ、アヤハさんだ」

 上下黒のスウェットに身を包んだタカシくんに、ポロシャツにハーフパンツ姿のアキラくんが揃って入室してくる。

「ちょうどいいじゃん、言ってやれよ」
「ん」

 そこでアキラくんが、皆に宣言した。

「明日はチーティングな」
「ちーてぃんぐ?」

 またしても知らない単語が出てきて、私の頭の中の基盤がショートしかける。そんな私の様子を見てか、秀ちゃんが説明をしてくれる。

「筋トレの場合のチーティングはすごく説明がややこしいんだけど、俺たち部員がチーティングって呼ぶのは『何でも好きなものを食べていいこと』なのね。その日をチートデイって言うんだけど、何故かこっちで定着しちゃって」
「暴論だぞ、ヘタレ」

 丁寧に説明してくれた秀ちゃんに向かって、アキラくんが物凄く呆れたような突っ込みを入れた。ヘタレ、ってあのダメなイメージのヘタレ?

「え、秀ちゃんのニックネームはヘタレなんだ」
「それで呼ぶなよ~、皇帝」
「皇帝はアキラくんだったの!?」

 なるほど、と納得してしまう。この部活におけるエンペラー感は肌で感じ取っていたから、尚更。アキラくんは「お前も皇帝って呼ぶな」とニックネームを気に入っていなさそうな口振りで答えていた。

 そのアキラくんが、話題を変えたいとばかりに私へ説明をしてくれる。

「好きなもの、って言っても計算して食べないとリバウンドが襲いますけどね」
「ヒィ!! リバウンド怖い!!」

 その言葉に、私は顔面蒼白になる。
 女性にとってダイエットの敵、リバウンド。
 私も何度かダイエットをしたことがあるけれど、しっかりリバウンドして体重計の上で絶望的な気持ちになったことがある。

 この部活の子たちにとっても例外ではないようで、チーティング時に何を食べようか、などと秀ちゃんとタナカくんで相談しあっている。綿密な計画のもと、このチーティングは行われているようだ。

 すると、アキラくんがスチール製の棚に置いてあった白いボトルを取り出した。

「ま、そんな日以外は減量食の他にこんなものを飲んでますけどね」
「三百六十五日飲んでるだろうが」

 タカシくんがすかさず突っ込む。

「これ、何?」
「BCAAです」
「びーしーえーえー? ビタミン?」
「アミノ酸のサプリですよ」

 アキラくんがボトルの蓋を開けて、中を見せてくれる。粉末と呼ぶには大きめで、パラパラとした半透明の粒が光を反射させキラキラと光っている。

「なんか見た目がプラスチックっぽいね……」
「確かに。飲みづらいんだよな」

 秀ちゃんがさも苦手そうな顔をする。

「これって何もやってない人間が飲んじゃだめなやつ?」
「そんなことはないよ。飲む?」
「いや、飲むのは無理かも……ただ、舐めてみたい、かも……」

 その言葉に顔を赤らめるタナカくんに秀ちゃん。心なしか背を向けているアケチくんの色白なうなじも紅潮しているような。タカシくんはニヤニヤと笑い、アキラくんに至っては口元を手で押さえてる。

「何か変なこと言ったかな」

 秀ちゃんに尋ねると、明らかに視線を逸らしながら「い、いや。あとこれ……う、美味いものじゃないよ? 特に俺たちが飲んでるやつは」と答えた。
「うん、覚悟して舐める」

 蓋からごく少量のBCAAを掌で受け取って、指先ですくって舐めてみる。

 ──こ、これは……!! 苦い! 飲みづらい!

「ゲホッ!」

 思わずむせてしまう。恐らく私の顔は真っ赤になっていただろう。顔が熱くなってきた。

「わー、綾羽! 水、水飲みな!!」
「アヤハさん大丈夫っすか!?」

 アキラくんも秀ちゃんも慌てている。無言でアケチくんが持っていたミネラルウォーターを私に渡してくれたので、お礼もろくに言えず、ゴクゴクゴクと清涼飲料水のCMの如く流し込んだ。

「まずーっ!!」
「だから言ったじゃん!!」

 秀ちゃんの呆れ声に、返事ができなかった。
 流し込もうとしたら、粉が喉の奥にまとわりついてむせる。しかも鼻から逆噴射しそうになるのを、涙を浮かべて耐えた。
 この子たち、あの逞しい身体になるために、こんなのまで飲んでるの!? と信じられない気持ちになる。

「本当はこれ、五グラム飲むんだけど」
「無理!! 絶対無理!!」

 ほんのちょっとでこんなことになるのに、五グラムも飲めって鬼だ。この部活には鬼が棲んでいる。間違いない。
 更に身体が拒絶反応を起こしているのか、音にならないゲップを連発してしまった。

「減量って、本当に大変なんだね……」
「でもね」

 そこで秀ちゃんが、アキラくんの方を見て言う。

「本当に大変なのは、減量って孤独な戦いってこと。仲間がいないと出来ない」

 アキラくんも同意とばかりに頷いている。

 ──仲間。
 その言葉が、私の心に温かく響く。
 たった一人で夢を追い、時に挫折し、孤独に苛まれてきた私にとって、それは何よりも尊く、渇望していた言葉だった。

「アヤハさんも、仲間になりませんか?」

 まるで私の心を見透かしたかのように、唐突にアキラくんが口にした言葉に、私は驚きに目を見開く。

「アヤハさんみたいにBCAA飲んだ女の子、初めてなんすよ。俺たちのやっていることを知りたいって思ってくれてるその気持ち、マネージャー向きです」
「そ、そうなのかな……興味本位だけど」
「興味本位が大事なんすよ。俺たち部員少ないし、全国大会に行った人間なんて一人もいない弱小部活ですけど、アヤハさんが居てくれたら励みになります」
「でも、私マネージャー経験なんてないんだけど」
「叱咤激励だけで充分です。別に毎日来て何かをする必要性なんてないんです。ただ、仲間が一人増えるだけで、俺たちは頑張れます」

 仲間が一人増えるだけで──。その言葉が私の心を優しく掴む。

 気がつけば、静かに頷いている私がいた。

「何だか納得いかない」

 膨れっ面の秀ちゃんが、私の目の前まで来て、突然私の手を握った。握った……!?

「俺が最初にマネージャーになってくれって頼んだんだぞ! アキラ! 美味しいところ持っていくなよ!」
「なんだそりゃ、別に何もお前から奪ってねーじゃん!」

 秀ちゃんとアキラくんの賑やかなじゃれ合い。見ていて微笑ましい。
 微笑ましいんだけれど──何故か秀ちゃんは私の手を握りっぱなし。
 鼓動は早くなり、どうしていいのか分からず、ただ秀ちゃんの手の温もりを感じるだけだった。


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