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スリランカ仏教のおすすめ参考書一覧~文化や歴史の名著も合わせてご紹介


はじめに

スリランカは近年観光国として世界中から注目を浴びている島国です。スリランカはインド南端のまさに目と鼻の先にあり、古くからインドと深い関係がありました。

「仏教を学ぶのにインドの文化や歴史を学ぶならまだしも、さすがにスリランカまでは厳しいよ」と思われる方も多いかもしれませんが、実は、このスリランカについて知ることでそれこそインドの仏教の見え方が180度変わってきます。

私はスリランカの仏教を学び、衝撃を受けっぱなしでした。まさかと思うことがどんどん出てきます。私の仏教観を根底から覆したと言ってもよいでしょう。そして同時に、「自分にとっての仏教」とは何なのかということを深く考えるきっかけともなりました。自分とは異なる他者の存在を知ることで、より自分たちの信じるものを深く知るきっかけとなったように思います。

スリランカは面白い!私はまさにこの国の仏教やその歴史、文化にすっかり夢中になってしまいました。

私は2023年の11月に実際にスリランカを訪れたのですが、ここで紹介する本達を読んでいたおかげで非常に濃厚な時間を過ごすことができました。本を読んだからこそ見えてくる世界が必ずあります。

リンク先ではそれぞれのより詳しい内容をご紹介していますので興味のある本がありましたらぜひ覗いて頂ければと思います。

では、早速始めていきましょう。

スリランカ仏教を知るためのおすすめ解説書

『東南アジア上座部仏教への招待』

【日本と異なる東南アジアの仏教を知るのにおすすめ!】

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この本は東南アジアの国々の仏教の姿を知れるおすすめの参考書です。東南アジアには私達日本の仏教とは全く違う仏教が根付いています。その違いを知ることは「日本仏教」を知ることだけにとどまらず、「日本人とは何か」を考えるきっかけにもなります。

この本では東南アジア各国の仏教の教義を細かく見ていくというよりは、その国の仏教徒の生活や信仰の実践がどのようなものなのかを見ていく形を取ります。

もちろん、本書の第一章で上座部仏教とはそもそも何なのかをわかりやすく解説してくれるので、専門知識のない方にも優しい作りになっています。日本では「大乗仏教」と呼ばれる仏教が伝わり今に続いていますが、東南アジアの仏教は全く違った系統の仏教が信仰されています。両者の違いをわかりやすく解説してくれるこの作品は非常に貴重です。しかも入門者でも親しみやすく読めるような語り口で説かれるので、仏教だけでなく文化そのものを学びたいという方にも非常におすすめです。

上座部仏教とは何か、そしてそこに生きる人々の生活レベルでの仏教を知れるこの本はとても刺激的でした。日本仏教との違いや共通点を考えながら読むのはとても興味深かったです。


杉本良男『スリランカで運命論者になる 仏教とカーストが生きる島』

【上座部仏教の葬儀や現地の宗教と生活を知るのにおすすめ!】

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この本はスリランカの宗教と現地の人々の実生活を知れる貴重な作品です。

スリランカの宗教は上座部仏教という、日本に伝わった大乗仏教とは異なる仏教です。上座部仏教そのものについてはここではお話しできませんが、インドで生まれた原始仏教の教えに近い形で信仰されているのが上座部仏教の特徴としてよく挙げられます。

そんな上座部仏教のいわゆる聖地的な存在として見られることも多いスリランカですが、現地では実際にどのようにその仏教が実践されているのか、そして現地の人々はどのように仏教教団と付き合っているのかということがこの本で語られます。

スリランカでも仏教は「生と死」の問題と深く繋がっているということをフィールドワークという視点から見れたこの本はとても興味深かったです。

また、単に宗教的な側面だけでなく、政治経済面からもスリランカの宗教と実生活を知れるのもこの本のありがたい点です。「スリランカ=敬虔な仏教国」とだけ見てしまうと見誤るものが多々あります。実際にはかなり複雑な背景がそこにはあります。そうした社会の複雑さを知れるのも本書の魅力です。

これはいい本と出会いました。スリランカにもっともっと興味が湧いてきました。実際にスリランカを訪れる方にとってもこの本は非常に大きな刺激になると思います。


『新アジア仏教史04 スリランカ・東南アジア 静と動の仏教』

【スリランカの聖地訪問に役立つ情報ありの参考書】

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この本ではかなり幅広く東南アジアの仏教を見ていきます。これだけの地域の仏教を見ていくとなればひとつひとつを深く見ていくということはできませんが、それぞれの国々との関係性を考えながら読んでいくのはとても刺激的です。

特に私にとってはスリランカの仏教の歴史や現地事情を知れたのがありがたかったです。また、スリランカの仏教聖地についても語られていますので、実際にスリランカを訪れる方にとっても便利な一冊となっています。


青木保編著『聖地スリランカ—生きた仏教の儀礼と実践』

【現地での実際の宗教実践を詳しく知れるおすすめ作品】

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今作はスリランカの宗教の実際の儀礼の現場をフィールドワークによって明らかにしていく作品です。

「仏教を理解するには書物や説教だけでは無理というものである」

これは非常に重要な指摘です。宗教、いや人間そのものを考える際にも忘れてはいけない視点であると思います。


リチャード・F・ゴンブリッチ『インド・スリランカ上座仏教史―テーラワーダの社会』

【「ブッダの教えは誰が聴いたのか」社会と仏教のつながりを考えさせられる名著】

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この本はスリランカの仏教の大枠を学ぶのに非常におすすめな作品です。

スリランカといえば本書タイトルにありますように日本の大乗仏教とは異なる「上座部(テーラワーダ)仏教」が根付く国です。そのスリランカにおける仏教の歴史をインドにおける仏教誕生から遡って考えていくのが本書の大きな流れとなります。


ゴンブリッチ、オベーセーカラ『スリランカの仏教』

【スリランカ仏教は新しい?衝撃の名著!】

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スリランカの仏教といえば厳密な戒律を守る上座部仏教というイメージがあるかもしれませんが、実は現代スリランカの仏教自体は最近構築されたものでした。スリランカ仏教は最も原始教団に近い仏教と言われることもありますが、それも実はここ数世紀で作り上げられたイメージだったのです。この本を読めば確実に驚くと思います。スリランカの仏教に対しての印象ががらっと変わると思います。

本書の帯では「発祥の地、インドで滅びた仏教が、なぜスリランカでは生き続けているのか」と書かれていますがまさに本書では現代スリランカ仏教の実態を詳しく見ていくことになります。

スリランカは1815年にイギリスの植民地になって以来、それまでの伝統的な村社会が衰退し、コロンボでは急激な都市化が進んでいきました。さらに英語を使えるエリートたちが積極的にイギリス文化を吸収。特にイギリスのプロテスタント的な宗教観をスリランカ仏教の世界に持ち込むことになりました。これが現代スリランカの仏教に決定的な影響を与えることになります。

また、スリランカ南部のカタラガマという聖地における仏教側の動きも見逃せません。ここは元々ヒンドゥー教の神スカンダ(日本では韋駄天として親しまれている神)の聖地でした。そこにスリランカ仏教徒たちが今大挙して押し寄せているのです。原始仏教に忠実であることを謳うスリランカ上座部の教えからいうとこれは矛盾です。ですがこれは明らかに大きな流れとなっています。この背景にはスリランカの政治や経済の問題も大きく絡んでいたのでありました。

本書では単にスリランカ仏教を思想面から見ていくのではなく、現地でのフィールドワークで得た知見が生かされています。現地で実際に見てきたからこそ見えてくるスリランカ仏教の実態。これは非常に興味深いです。私も大興奮でこの本を一気に読み切ってしまいました。ものすごく面白いです。


馬場紀寿『仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立』

【スリランカ仏教とインドとの関係、歴史を知れる刺激的な一冊!】

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仏教を学んでいると「サンスクリット語原典」、「パーリ語原典」という言葉によく出くわします。サンスクリット語は聖なる言葉であると同時に古代インド思想界における共通言語でもありました。また、パーリ語も同じようにスリランカ仏教における古典言語です。普通はこれら両言語においてはこれくらいの理解で十分なのですが、このサンスクリット語とパーリ語の違いについて、実はとてつもない事実が潜んでいたのでありました。それを本書ではじっくりと見ていくことになります。

そもそもサンスクリット語とパーリ語、どちらが古いのか、その由来は何だったのか。なぜスリランカはサンスクリット語ではなくパーリ語を使用したのか。

ここにインドとスリランカの歴史的な背景が関わってくるのでありました。ここには単に仏教思想の問題だけでなく、国、王権レベルの政治的な問題も絡んでいたのです。

しかも、スリランカといえば「原始仏教に最も近い教えを継承している上座部仏教の国」というイメージがどうしても浮かんでしまいますが、実は上座部仏教と大乗仏教が同居しており、かつては東南アジアにおける大乗仏教の一大拠点ですらあったというのです。これにも政治的な問題が絡んできます。

スリランカの仏教は王権との関係性によって紡がれてきました。単に宗教、思想というレベルだけではくくれない大きな枠組みで仏教は動いてきたのです。もちろん、こうした宗教と歴史の問題はスリランカに限ったことではありません。ですがインドの周縁としてのスリランカが自らのアイデンティティ、正当性を主張するためにはやはり確固たる何かが必要です。それがスリランカにおいてはパーリ語であり、「ブッダの教えを最も忠実に受け継いだ仏教」であったのでした。こうなってくると「ブッダの教えを最も忠実に受け継いだ」というのは客観的な事実ではなく「スリランカがそう主張する」ものであるということも見えてきます。この辺りの事情も詳しく見ていくのが本書です。

正直、ものすごく面白いです。インド、スリランカの仏教を国際政治、内政の視点から見ていくというのはありそうであまりなかったのではないでしょうか。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。


前田惠學編『現代スリランカの上座仏教』

【現代スリランカ仏教を体系的に学べる大著!】

日本仏教が様々な宗派に別れていてそれぞれ教義や作法が全く異なるように、スリランカ仏教と一言で言ってもそこにはさまざまな違いがあります。

本書ではそんな現代スリランカのそれぞれの宗派やその成り立ちなどを体系的にわかりやすく学ぶことができます。頭が混乱していた私にとってこれは実にありがたい作品でした。


鈴木正崇『スリランカの宗教と社会』

【文化人類学の視点から見たスリランカ仏教を学べる大著!】

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本書の特徴ですが何と言ってもこの本が文化人類学者によって書かれたという点にあります。

この本ではスリランカの宗教を仏教の専門家ではない文化人類学者の目で見ていきます。仏教の専門家ではないからこその視点で仏教を見ていけるのは私にとっても非常に興味深いものがありました。

上で紹介した本もそうですが、スリランカ仏教の専門書は分厚い本が多いです。下の写真を見て頂ければそれが伝わると思います。

これらはかなり分厚い作品ではありますが、読んでみるとびっくりするほどすらすら読めてしまいます。著者の語り口はとても親しみやすいです。

仏教書としてのスリランカ仏教ではなく、文化人類学の書としてのスリランカ仏教を知れる興味深い名著です。


森祖道『スリランカの大乗仏教』

【上座部仏教で有名なスリランカに大乗が根付いていた!観音菩薩像の変遷も】

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スリランカといえば大乗仏教とは全く異なる上座部仏教のイメージがあるかもしれませんが、実はそのスリランカにもかつて大乗仏教が根付いていたのでありました。

本書ではそんなスリランカの大乗仏教を仏像や碑文、文献から考察していきます。


及川真介訳『蜜の味をもたらすもの 古代インド・スリランカの仏教説話集』

【スリランカの民衆仏教を知るためにおすすめ】

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本書は、今なおスリランカをはじめとした上座部仏教圏で親しまれている仏教説話だそうです。

仏教説話といえばブッダの前世物語であるジャータカが有名ですが本書ではそれとは一味違った物語を目の当たりにすることになります。


藪内聡子『古代中世スリランカの王権と佛教』

【宗教は宗教だけにあらず。国の歴史と歩んだスリランカ仏教の変遷を学ぶ】

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スリランカ仏教や文化についての本は数多くあれど、王権という切り口から仏教をこれだけ包括的に述べていく本書は非常に貴重です。

王は仏教を保護し、仏教は王の正統性を保証する。

こうした相互関係がスリランカでは特に強く見られたことを本書では順を追って見ていくことになります。

この本を読んでいるとまさに宗教は宗教にだけにあらずということを考えさせられます。宗教も時代時代においてその時の政治状況と無縁ではいられません。単に思想や教義だけを追っていても見えないものがあります。そうしたことを丁寧に学んでいける本書は非常に貴重です。


中村尚司『スリランカ水利研究序説』

【灌漑農業から見るスリランカ。古代に栄えた高度な治水の歴史とは】

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本書はそのタイトル通り、スリランカの灌漑農業の歴史について学べる作品です。

スリランカはおよそ2000年ほど前から高度な治水技術を持っており、その灌漑農業は国家運営の肝とでも言うべき重要性を持っていました。

「技術ある所に王権あり。王権あるところに宗教あり」ということで、高度な技術とそれを運営する国家は不可分の関係であり、さらにはその権威の正統性を担保する宗教も絡んできます。

これまで私は宗教や政治の観点からスリランカを見てきましたが、この本では灌漑農業という切り口からスリランカを見ていくことになります。いつもとは違った視点からスリランカを見ていける本書はとても刺激的でした。


上田紀行『スリランカの悪魔祓い』

【悪魔祓いは非科学的な迷信か。人間と宗教のつながりを問い直す名著!】

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本作は文化人類学者上田紀行氏がスリランカでのフィールドワークを通して書き上げた「悪魔祓い」についての作品です。

科学的、合理的思考に染まっている私達にとって「悪魔祓い」は迷信にしか思えないかもしれません。しかしそこに私達が見失ってしまっていた大切なものがあることを本書では発見することになります。上田先生は実体験を基に臨場感たっぷりに語ってくれますので一気に読み進めてしまうこと間違いなしです。これは面白いです!


中島美千代『釈宗演と明治 ZEN初めて海を渡る』

【スリランカを訪れた日本の禅僧のおすすめ伝記】

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本書の主人公釈宗演は鈴木大拙や西田幾多郎らビッグネームの師匠であり、若き日には福沢諭吉に師事していたという驚異の禅僧です。

釈宗演という巨大な人物の生涯をドラマチックに見ていける本書はとてもおすすめです。明治を代表する禅僧が見たスリランカとはどのようなものだったのか。そして当時の世界における仏教とはどのようなものだったかを知れる刺激的な作品です。

ぜひぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。


伊東照司『スリランカ仏教美術入門』

【写真多数!スリランカ仏教遺跡巡りに役立つガイドブック!】

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この本はスリランカの仏教遺跡の入門書としておすすめの作品です。

本書ではアヌラーダプラ、ポロンナルワ、キャンディなど主要な仏跡や、その他特徴的な仏教遺跡を見ていくことになります。

本書はとにかく写真が多数掲載されており、現地の状況をイメージしやすいです。さらに解説も初学者にもわかりやすく書かれており、入門書として非常にありがたい作品です。


楠元香代子『スリランカ巨大仏の不思議』

【彫刻家から見たスリランカ仏像の魅力とは!新たな視点で学べるおすすめガイド!】

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本書の著者は仏教の専門家ではなく彫刻家です。

彫刻を彫る側の人がスリランカの仏教美術を見たらどのようなことを思うのかというのは私にとってもものすごく刺激的でした。

私たちは仏像そのものの美しさやその歴史には目を向けることができますが、それがひとつの岩からどのように彫り出されたのかというところまではなかなか思いが至りません。仏像も最初からそこにあったわけではなく、最初はただの岩や木であったわけです。そこから彫刻家の手によって私たちが目にする完成品が出来上がってきます。完成品ばかりを目にする私たちには見えない世界をきっと彫刻家の方々は見ているのでしょう。実際に彫る人の目から見た仏像とはどのような存在なのかということを知れる本書はとても新鮮でした。


石井米雄『タイ仏教入門』

【上座部仏教が今なお息づくタイの仏教について知るのにおすすめの入門書】

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この本はスリランカと同じ上座部仏教の国タイの仏教について学べるおすすめの入門書です。

日本とタイの仏教はかなり異なります。その違いをこの本では様々な観点から見ていきます。

タイに長く滞在し研究調査をした著者ならではの、現地のリアルな仏教な姿を知ることができるのがこの本の魅力です。

この本では難解な哲学や教義について語られるのではなく、あくまで入門書ということで現地の人々の生活や仏教僧の日々の姿が説かれます。

タイの仏教徒が何をもって救いと考えているのか、なぜ仏教を篤く信仰しているのかということも知ることができます。

日本仏教とは違った仏教の姿を垣間見れる本書はとても刺激的です。


スリランカ内戦について学ぶためのおすすめ参考書

私はこれまでも宗教と暴力について様々な視点から学んできました。特に2019年にボスニア・ヘルツェゴビナを訪れ民族紛争について学んだ体験は忘れられません。

また、帰国後も「親鸞とドストエフスキー」をテーマに学ぶ中で戦争や全体主義、マルクス主義と絡めながら宗教の持つ暴力性や危険性を考えてきました。

特に『ドン・キホーテ』の流れで読んだトビー・グリーン著『異端審問 大国スペインを蝕んだ恐怖支配』はまさに宗教とナショナリズムについて大きな示唆を与えてくれた作品でもあります。この時代にはまだ明確なナショナリズムはありませんが、自分たちの宗教集団と他者を区別し、それを政治利用するあり方はまさに共通するものがあると思います。

私はこれまで主に西洋の宗教や暴力の歴史を学んできました。そこで感じたのは、やはり戦争遂行のためのイデオロギーとして一神教の宗教は利用されやすいのではないかということでした。

そしてそれに対して仏教はそもそもの教義として絶対的な神、つまり正義を立てず、さらには非暴力を訴えますので戦争のイデオロギーにはなかなかなりにくいのではないかと私は考えていました。もちろん、日本の歴史においても武将が仏教を深く信仰していたとか、寺の焼き討ちがあったとか、第二次大戦で戦争に加担したなどの事実はあります。ですが争いの第一義のイデオロギーとして仏教が出てくるかというとそうではないのではないかというのが私の感じるところでした。

しかしここスリランカではそうではなかったのです。仏教がシンハラ人のアイデンティティーと結びつき聖戦の概念まで生まれていきます。ここから紹介する本ではそうした仏教とナショナリズムの結びつきの過程をじっくりと見ていくことになります。これは非常に興味深いです。「まさか」と思うことがここスリランカでは起こっていたのです。

仏教国スリランカにおける仏教とは一体何なのか。

私達が想像する仏教の世界とは全く異なる世界がここにあります。


『スリランカを知るための58章』

【政治、宗教、生活、現代スリランカを様々な視点から見ていくおすすめ参考書!】

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本書は現代スリランカの大枠を掴むのに非常におすすめです。国レベルの政治経済、歴史の概略を知れるだけでなく、現地の人々の生活の模様も詳しく語られます。どちらか一方だけではなく、両者を見ていくことでよりスリランカの姿を知ることができます。スリランカ特有の宗教事情も生活と絡めてわかりやすく学べるのも非常にありがたいです。

現地の社会問題や今後の課題も本書では語られるのですが、それはスリランカだけの問題ではなく私達日本人のありかたについての問いかけにもなっています。スリランカという他者を通して私達自身についても考えさせられます。

現代スリランカの入門書として本書は最適です。


澁谷利雄『スリランカ現代誌』

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本書は書名にありますように現代スリランカと紛争について解説された作品になります。これまで当ブログではスリランカの歴史や仏教についての様々な本を紹介してきましたが、1983年から2009年にかけて続いたスリランカの内戦について特化した作品は本書が初めてになります。

スリランカの内戦は大きく見れば人口の多数を占めるシンハラ仏教徒と少数派タミルヒンドゥー教徒の内戦でした。つまり、宗教が内戦の大きな原因のひとつなのでありました。

もちろん宗教だけが主要因というわけではなくそれまでの歴史や政治経済問題が大きく絡んでいるのですが、仏教が内戦に絡むことになってしまったことに私は大きなショックを受けたのでありました。本書はそんなナショナリズムと結びついた仏教についても知ることになります。

スリランカの内戦では仏教がナショナリズムに利用されていくという形が強く出てきます。その過程を本書『スリランカ現代誌』で見ていくことになります。なぜ民族の対立が深まったのか、平和的な教えだったはずの仏教がなぜ過激な方向へと向かっていったのかなどもこの本では知ることができます。

この本はスリランカについての知識がない方でも読めるように書かれていますので、初学者の方にもぜひおすすめしたい作品です。現代スリランカを知るのにとても役立つ作品です。民族紛争や宗教対立について学びたい方にもぜひおすすめしたい名著です。


杉本良男『仏教モダニズムの遺産 アナガーリカ・ダルマパーラとナショナリズム』

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本書ではスリランカ内戦が起きるまでの背景を詳しく知ることになります。

この内戦の大きなきっかけとなったのはスリランカ人口の大半を占めるシンハラ仏教徒と少数派のヒンドゥー・タミル人の対立です。ですがこの対立もはじめからあったわけではありません。この対立が激化したのはスリランカ仏教とナショナリズムが結びつくというこの国独特の宗教・民族観があったからこそでした。

このシンハラ仏教徒のナショナリズムに巨大な影響を与えたのが本書の副題ともなっているダルマパーラという人物の存在でした。

アナガーリカ・ダルマパーラ(1864-1933)Wikipediaより

スリランカの研究者オベーセーカラはダルマパーラの生み出したスリランカ仏教を「プロテスタント仏教(改革仏教)」と呼びました。スリランカの仏教といえば最も古い仏教を今でもそのまま継承しているというイメージがあるかもしれませんが、実はそうではなく19世紀から活発化した運動のひとつだったのでありました。その流れで仏教とシンハラ人のナショナリズムが結びつき、内戦へと向かっていったという歴史をこの本では詳しく見ていくことになります。特にこのダルマパーラについては伝記のようにその生涯をじっくり見ていくことになります。その生涯を見ていきながらスリランカ仏教の独特な歴史を知ることができます。


川島耕司『スリランカと民族』

【シンハラ・ナショナリズムと民族対立の流れを詳しく知るのにおすすめ!】

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本作は民族対立の形成過程を個々の民族や宗教ごとに詳しく見ていける点にその特徴があります。特に1930年代から40年代にかけての移民排斥運動に着目して本書は論じられていきます。

本書はスリランカ内戦に関する新たな視点を私たちに示してくれます。

この本を読んで「え!そうだったの!?」という事柄が何度も出てきて私自身も驚かされることになりました。

スリランカ内戦や政治の流れを知る上で本書は必読の一冊です。


川島耕司『スリランカ政治とカースト』

【政治と宗教、ナショナリズムの舞台裏を明らかにする衝撃の名著!】

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この本は衝撃の一冊です・・・!

これまでスリランカの政治と宗教について、杉本良男『仏教モダニズムの遺産』や、澁谷利雄『スリランカ現代誌』を紹介してきました。

これらの本を読んで明らかとなったのは現代スリランカにおいて仏教ナショナリズムが強く政治と結びついていたことでした。その中でも特にその傾向を強めた政治家としてバンダーラナーヤカという人物がよく挙げられていましたが、その人物についての衝撃の事実が本書で語られることになります。

彼はシンハラ仏教ナショナリズムを強烈に宣伝し、その勢いで1956年に選挙で大勝したことで知られていますが、そんな彼の背後に驚くべき人物が隠れていたのです。それが本書の副題にもなっているN.Q.ダヤスという人物だったのです。このN.Q.ダヤスという謎の人物を明らかにしていくのが本書の大きな主題です。このダヤスという人物に私は衝撃を受けたのでした。

また、本書タイトルにありますようにスリランカにおけるカーストについても非常に重要な指摘がなされていきます。これは驚くべき作品です。ぜひおすすめしたい名著です。


和田朋之『ハイジャック犯をたずねて—スリランカの英雄たち』

【スリランカ内戦の経緯がわかりやすくまとめられたおすすめ作品!】

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タイトルにありますように、著者自身が遭遇したハイジャックを縁に著者はスリランカへと向かうことになります。ハイジャック犯のセパラという人物とスリランカの現代史が絶妙にクロスして語られるのが本書です。

このハイジャック犯は直接的にはスリランカ内戦に大きく関わったとは言えません。むしろ受動的な存在とすら言えます。ただ、彼のことを深く知ろうとすれば当時のスリランカの時代背景も読み解かなければなりません。というわけで著者は現代スリランカの複雑な政治経済事情を追っていくことになります。

本書を読み始めてすぐにこの本の読みやすさ、面白さに私は驚くことになりました。著者の和田朋之さんは何者なのだろうか!著者プロフィールを見てみるとスリランカの専門家でも学者さんでもなく商社マンであったとのこと!このことにさらに衝撃を受けることになりました。


坂本慎一『ラジオの戦争責任』

【メディアが煽るナショナリズム。戦争のメカニズムを学ぶためにも非常におすすめ!】

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この本は衝撃的です。ぜひ多くの方に読んで頂きたい素晴らしい一冊です。私達の常識がひっくり返される作品です。

スリランカでもラジオやカセットから流れる音楽、言葉が大衆を煽動し、暴動へと駆り立てた歴史があります。

この本では直接そのことは語られませんが、スリランカ内戦のメカニズムを学ぶ上でも本書は非常に有益です。


渋谷利雄『祭りと社会変動—スリランカの儀礼劇と民族紛争—』

【スリランカの伝統文化と紛争の背景を学ぶのにおすすめ】

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この本では農村における人々の生活を見ていくことになります。特に本書のタイトルともなっている儀礼劇についての考察はとても貴重です。一見非科学的にも見える伝統儀礼に込められた深い意義やそこから見えてくるスリランカの複雑な社会事情にきっと驚くと思います。

こうした伝統的な儀礼については上でも紹介した『スリランカの悪魔祓い』もおすすめです。二冊セットで読むとさらに理解が深まること間違いなしです。


高桑史子『スリランカ海村の民族史』

【海に生きる人々の生活を政治経済、内戦、津波被害の観点から見ていく参考書】

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この本では単に海村の人々の生活を見ていくだけでなく、政治経済、内戦、宗教、津波被害など大きな観点とも関連づけて語られていきます。

特に、スリランカの仏教を学んでいる私にとっては海村における宗教の問題は非常に強い関心がありましたのでこれはありがたい参考書となりました。

教義や歴史書を読むだけでは見えてこない生活レベルの信仰を考える上でもこの本はとても刺激的です。

そして津波被害とそこからの復興や問題点なども考えさせられるのも大きいです。ビーチリゾートとしても有名なスリランカですが本書を読めば今まで想像もしていなかった海村の存在を知ることになります。私も函館という港町に住んでいるので、海と共に生きることは全く他人事ではありません。日本の多くの方にもその感覚は通じるものがあると思います。


荒井悦代編『内戦後のスリランカ経済』

【2016年時点の経済状況と内戦について学ぶのにおすすめ】

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本書を読んで驚いたのですがスリランカにおいては内戦中においても堅実な経済成長があったようです。むしろ内戦終結後の方が経済がうまくいっていないというのは驚きでした。スリランカ特有の経済状況に詳しく知れる本書は刺激的です。

特にスーパーマーケットやアパレル業界について書かれた箇所は興味深かったです。後半の漁業の章でも驚きの事実がどんどん出てきました。これまで宗教、特に仏教の観点からスリランカを見てきた私ですが、視点を変えればまだまだ新しい世界が見えてくるのだなという思いになりました。


荒井悦代『内戦終了後のスリランカ政治』

【中国と関係を深めたラージャパクサ政権の仕組みとその後の流れを知るのにおすすめ】

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本書の主要人物であるラージャパクサ大統領はほとんど独裁レベルで国を支配した政治家で、その一族や側近は莫大な富と権力を手にすることになりましたが、この人物についての詳しい解説を聴けるのはとてもありがたいものがありました。まさにこの人物こそ2022年のスリランカの暴動で国外逃亡することになったあの人物です。ニュースでも2022年のスリランカの暴動はよく取り上げられていたことを私も記憶しています。

そして何と言ってもスリランカと中国の関係です。スリランカが借金を返せず南部のハンバントタ港が中国の支配下になるという債務の罠はニュースでも何度も目にしました。なぜスリランカはこうした事態に陥ったのか。そしてラージャパクサ大統領と中国の蜜月関係はどのようなものだったのかも知ることになります。

ただ、本書は2016年に出版された本ですのでそれ以降の出来事については知ることができません。あくまで内戦終結から2016年までの政治状況についての解説が本書になります。

スリランカ文学のおすすめ作品~日本ではあまり知られていない名作たちをご紹介!

日本ではあまり知られていないスリランカ文学ですが、驚くべき名作がここにありました。

仏教を学ぶのに文学は関係ないではないかと思われるかもしれませんが、文学は時代を映す鏡です。文学で表現された世界を通して見えてくるものがあります。

スリランカ仏教を考える上でこれから紹介する文学は非常に有益です。ぜひ参考にして頂けましたら幸いです。


マーティン・ウィクラマシンハ『変わりゆく村』

【スリランカの大作家による傑作長編!ドストエフスキーやチェーホフ『桜の園』との関連も!】

本作の著者マーティン・ウィクラマシンハは日本ではあまり知られていませんが、スリランカを代表する世界的な作家として知られています。

マーティン・ウィクラマシンハ(1890-1976)Wikipediaより

本書『変わりゆく村』ではスリランカにおけるカースト制度の実態を知ることとなります。スリランカにおけるカースト制については上で紹介した川島耕司著『スリランカと民族―シンハラ・ナショナリズムの形成とマイノリティ集団』や『スリランカ政治とカースト—N.Q.ダヤスとその時代 1956~1965―』でも詳しく説かれていますが、それを生きた物語として体感できるのが本作になります。

「スリランカはインドと違ってカースト制度がそこまでない」と言われがちですが、生活レベルでは現在でも明らかにカーストの影響が根強く残っていると上の2冊で解説されていましたが、本書でもまさにそんなシーンが多々描かれます。特に結婚を巡る問題でカーストは顔を覗かせていて、「カーストの驕り」という言葉でウィクラマシンハはそれを象徴的に描いています。

参考書だけでは感じることのできない生々しい実態を物語で知れるのが小説の素晴らしい点です。スリランカを生活レベルでより感じられるありがたい機会となりました。

日本ではあまり知られていない作品ですが、世界的にも評価されている素晴らしい小説です。私も実際に読んでみてその素晴らしさを堪能することとなりました。

スリランカでの生活が目の前に現れるかのような、没入感の強い小説です。ドストエフスキーやチェーホフが好きな方には特にフィットする作品だと思います。


マーティン・ウィクラマシンハ『変革の時代』

【スリランカ新興商人の実態をリアルに描写。ゾラを彷彿とさせる名著】

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前作『変わりゆく村』では没落していく旧家を舞台に物語が展開され、その中でも「カーストの驕り」がもたらす軋轢や葛藤が描かれることになりました。

そして今作では前作の主要人物、新興商人のピヤルとその妻ナンダーを軸に物語が進んでいきます。

前作においてピヤルは低いカーストながらも持ち前の才覚を生かして商売をどんどん広めていく好青年のように描かれていましたが、今作ではそんな彼が陥った苦しみを目の当たりにすることになります。

上のあらすじにありましたように、ピヤルは金と地位、名誉を求めることしか頭にない人物になってしまいます。心優しい家庭教師として働いていた頃の名残はもはやありません。この小説は20世紀前半をその舞台としていますが、この頃にはピヤルと同じように、新興商人が力をつけ一気に社会的上昇をすることも見られるようになっていました。著者のウィクラマシンハはこうした時代相を巧みにこの小説で描いています。

特にピヤルとナンダーの虚飾に満ちた家庭生活の描写はフランスの文豪エミール・ゾラを彷彿とさせるものがあります。

これは見事な作品です。前作に引き続きウィクラマシンハの恐るべき描写力を本作でも感じることになりました。


マーティン・ウィクラマシンハ『時の終焉』

【マルクス主義と階級闘争に揺れるスリランカを活写した名作!】

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本作はこれまで紹介してきた『変わりゆく村』、『変革の時代』、『時の終焉』ウィクラマシンハ三部作の最終作になります。

本作のメインテーマは階級闘争に揺れるスリランカになります。

労働者を搾取して成り上がった大資本家サウィマンに強く反抗する息子マーリン。「あの二人はもうすでに精神的に腐敗している。今さら両親の心を改悛させる人間は周りに誰もいないからね!」と彼は親友の医者アラウィンダに打ち明けます。彼の反抗はもはや家庭内だけの問題ではなく、コロンボ市民を巻き込む政治運動へと展開していきます。

本作ではこうした資本家と労働者のせめぎ合いや暴動も描かれます。当時コロンボで何が起きていたのかをかつてジャーナリストであったウィクラマシンハが物語にして具現化したのがこの小説です。これまで彼の三部作を読んできて感じるように、この作品でも彼の繊細な心理描写は精彩を放っています。

そして社会主義思想に熱中し、労働運動にのめり込むマーリンを一歩引いた目線で見守るティッサの存在も見逃せません。単に理想を掲げ資本家を批判する暴動を起こしたところで多くの一般市民は救われないということを彼は見抜いています。「ではどうしたらよいのか?」そうした問いを抱えながらマーリンやティッサ、そして医者のアラウィンダはそれぞれ懸命に生き抜こうとします。

単に「資本家は邪悪な存在だ。奴等を倒せばすべて解決する」で終わらせないところにウィクラマシンハの深い人間洞察があるように私は感じました。

長きにわたる植民地支配とカースト問題、民族対立、格差拡大、政治混乱など、激動の時代を生きるスリランカをウィクラマシンハはこの三部作で描いています。

ウィクラマシンハの小説はスリランカの姿を知るのに最高の手引きとなることでしょう。


マーティン・ウィクラマシンハ『蓮の道』

【繊細、あまりに繊細なスリランカ文学の傑作】

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ウィクラマシンハの『変わりゆく村』、『変革の時代』、『時の終焉』の三部作は上でも紹介しました。

この三部作がとにかく素晴らしく、私もすっかりウィクラマシンハのファンとなってしまったのですが、ここで紹介する『蓮の道』もウィクラマシンハらしさを感じながらも、上の三部作とはまた少し違った雰囲気を味わえる作品となっています。

と言いますのも、上の三部作は20世紀前半のスリランカ社会を描き出すという、いわばジャーナリスティックな側面もある小説でした。

それに対し本作『蓮の道』はあるひとりの人間の内面に深く深く潜っていきます。この小説ではこれといった大きな事件は起きません。ですが繊細で複雑な内面を持つ主人公の心の動きが実に巧みに描かれています。

この作品を読みながら私の中に浮かんできたのは「あぁ・・・!文学だなぁ・・・!」という念です。

文学です。THE 文学です。

何を以て文学を文学と考えるのは人それぞれだと思いますが、私はこのあまりに繊細で世に馴染めない気弱な主人公にそれを感じたのでありました。


エディリヴィーラ・サラッチャンドラ『亡き人』

【あのおしんに匹敵!日本を舞台にスリランカで絶大な人気を博した小説二部作!】

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著者のサラッチャンドラは実際に1955年に日本を訪れており、その時の強烈な体験が本書にも強く作用していることがうかがわれます。

特に第一部の「亡き人」では語りの主体がスリランカ人画家のデウェンドラにあります。異邦人の彼から見た当時の日本がどのようなものだったかが非常に鮮明に描かれています。その一端はすでに上の解説でも垣間見ることができますが、当時のスリランカ人はこの小説を読んで日本という国をイメージしていたわけです。

当時のスリランカ人が日本をどう見ていたのかということを知る上でもこの作品は貴重です。


エディリヴィーラ・サラッチャンドラ『明日はそんなに暗くない』

【マルクス主義の学生による武装蜂起が起きた1971年スリランカを題材にした小説】

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今作『明日はそんなに暗くない』は日本を舞台にした『亡き人』と打って変わってスリランカを揺るがせた1971年の武装蜂起を題材にした作品です。

私がこの本を手に取ったのは1971年の暴動について知りたかったからではなく、サラッチャンドラの小説が『亡き人』の他にも日本語で読めるのだという好奇心からでした。

ですがこの「日本の読者のために」を読んで、「スリランカも日本と同じようにマルクス思想に刺激を受けた学生たちが武装蜂起を行っていたのか」と私は衝撃を受けました。

しかもこの1971年といえばまさに日本でも学生紛争が起きていた時期と近いです。

私はこれまで澁谷利雄『スリランカ現代誌』や杉本良男『仏教モダニズムの遺産』、などスリランカの内戦についての本を読んできましたが、スリランカにおける暴動や内戦は仏教ナショナリズムや民族対立によるものだというイメージが強く頭の中にありました。

ですがこの1971年の武装蜂起は明らかにマルクス主義思想に影響を受けた学生たちによる階級闘争の側面があったことをこの小説を通じて痛烈に知ることになりました。

やはりマルクスはここでも顔を出してきたか・・・と私は頭を抱えることになりました。

と言いますのも、私は以前「親鸞とドストエフスキー」をテーマに学ぶ中でマルクスについても学ぶことになりました。そしてその中で「マルクスは宗教的現象か」という問いを立てて記事を更新しました。

そしてその中で日本の学生紛争についても知ることになり、なぜ学生たちがあれほど闘争を繰り広げ、テロリストが多くの事件を起こしたのかを学ぶことになりました。この小説で描かれた世界はまさにそれらと重なるように感じられました。

「スリランカでも同じことが起きていたのか・・・」

「スリランカでの内戦はシンハラ仏教ナショナリズムが主要なものと考えていたが、どうもそれは単純に考えすぎていたのかもしれない・・・」

そんな思いが私の中に浮かんできました。

実は私がこの本を手に取ったのはインド・スリランカへ向けて出発するまさにその2日前だったのです。まさにぎりぎりのタイミングでこの本が私のもとに届いたのです。

さすがにもう時間もないし読めないかなと思いつつも試しにこの「日本の読者のために」を読んでみて仰天でした。「これは読むしかない!」と出発の準備やら何やらも全部放り出して私は一気にこの本を読み耽ったのでした。

出発前にこの本と出会えて本当によかったです。この本を読めたことでスリランカに対する思いがより深まったように感じます。やはりマルクスの影響力はここでも強力に若者たちの心を捉えていたのです。

そしてこの小説の見事な点はそれを単一の視点で見ていくのではなく、主人公の博士や学生達、教授陣や警察など様々な立場から1971年の武装蜂起を描いている点にあります。さらに学生達や教授陣といっても一人一人思っていることやその立場も違います。杓子定規にそれらを描くのではなく実際の生活に即してリアルに事の展開を描いているように私には感じられました。

博士は学生達に理解を示しながらも、抗いようもなく事態が悪化していく恐怖に苦しむことになります。その恐怖や戸惑いを私たち読者も共有していくことになります。

読んでいると頭を抱えたくなる言葉がどんどん出てきます。マルクス主義は憎悪を煽ります。その憎悪に基づいた破壊と殺戮の後、本当に世の中はよくなるのでしょうか。結局革命のエリート達がその権力の位置に居座り、さらに苦しい世の中になるのではないでしょうか。ソ連や旧共産圏の歴史を学ぶとその恐怖を感じざるを得ません。

この小説とあのタイミングで出会えたことに縁を感じずにはいられません。スリランカに行く前に、私はこの小説を読まねばならなかったのだと強く感じています。

日本の学生紛争について考える上でもこの作品は非常に重要な示唆を与えてくれる作品です。

小説としても非常に読みやすく、私も一気に読み切ってしまいました。さすがスリランカを代表する作家です。


『セレンディップの三人の王子たち』

【セレンディピティの語源となったスリランカの物語】

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ここからは正確にはスリランカの文学ではありませんが、スリランカについてのおすすめ文学作品をご紹介します。

『セレンディップの三人の王子たち』はセレンディピティという言葉の語源となった物語として知られています。

「求めてもいないものを偶然と英知で発見してゆく」

これがセレンディピティという言葉の意味になります。

そして意外なことに、本書『セレンディップの三人の王子たち』自体はスリランカで語られたものではなく、ペルシアで語られていたスリランカのおとぎ話になります。あくまでスリランカは王子たちの出身国でその舞台になったというのにすぎません。ですが当時のペルシア人からしてもスリランカには何かそうした憧れや楽園的なものを想像させるものがあったのでしょう。

この本ではイラストも挿入され、漢字のふりがなも振られていますので子供でもすらすら読み進めていくことができます。お子さんの教育にも、もちろん学生や大人にもおすすめの一冊です。

有名なセレンディピティという言葉の大元となった作品を読めるというのはなかなかに刺激的な体験です。


アーサー・C・クラーク『スリランカから世界を眺めて』

【『2001年宇宙の旅』で有名なSF作家のスリランカ愛を知れるエッセイ集】

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アーサー・C・クラークはスタンリー・キューブリックと共にあの『2001年宇宙の旅』を手掛けたSF界の巨匠です。

そのアーサー・C・クラークがなんとスリランカを愛し、スリランカへの想いを述べたエッセイを書いていた!

それを知った私は迷うことなくこの一冊を手に取ったのでありました。

スリランカについて知りたい私としてはこの国に関する珠玉のエッセイを読むことができて大満足でした。


スリランカそのものをもっと知るためのおすすめ本

石野明子『五感でたのしむ!輝きの島スリランカへ』

【魅力満載の観光地としてのスリランカを知るのにおすすめのガイドブック!】

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本書『五感でたのしむ!輝きの島スリランカへ』は観光地としてのスリランカを知るのにおすすめのガイドブックです。この本を読めばスリランカに行きたくなること間違いなしです。魅力あふれるスリランカの名所やグルメなどを楽しく見ていくことになります。

北海道の約八割ほどの大きさの国土に様々な気候や豊かな自然が存在し、さらには世界遺産級の遺跡がコンパクトにまとまっているという奇跡的な国土環境。しかも都会のコロンボでは現代的な文化も発達し、食事やファッション、リラクゼーションも魅力的。

これは「2019年 行くべき国」に選ばれるのも納得です。

しかも本書ではそんな魅力的なスリランカを素晴らしい写真と共に見ていくことになります。

各地の名所や宿、グルメ、アクティビティが魅力たっぷりに紹介されます。ま~とにかく写真が素晴らしい!著者の石野明子氏は日本大学芸術学部で写真を学び朝日新聞社出版写真部の嘱託としても在籍されていたそうです。なるほど、だからこそのこの写真のクオリティなのですね。

それにしてもこの写真の素晴らしさたるや!ただ単に写真が上手というだけでなくスリランカへの愛も感じます。レイアウトも綺麗で見やすく、読んでるだけでワクワクしてきます。

これはぜひぜひおすすめしたいガイドブックです。

また、2024年にこの本の新版が出たそうです。私が読んだのは旧版ですが、これからスリランカに行かれる方は新版を購入された方がよいと思います。


庄野護『スリランカ学の冒険』

【意外な視点から見ていくスリランカ入門書!セレンディピティに溢れた一冊!】

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本書は意外な切り口から語られるスリランカを知ることができます。

「カシューナッツの流通学」「漱石のカレー学」「カラスの生態学」など、パッと見ただけでは「これのどこがスリランカ?」と思ってしまうかもしれませんがこれが見事にスリランカ世界を知る手掛かりとなるのですからお見事としか言いようがありません。ものすごく面白いです。


鈴木睦子『スリランカ 紅茶のふる里』

【セイロンティーの歴史や現在の農園生活や経営事情を知れるおすすめ本!】

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スリランカといえば紅茶というイメージを持たれる方も多いと思います。かく言う私もその一人でした。

ただ、正直に申しますと私は紅茶よりもコーヒー派です。しかも筋金入りのコーヒー派ときています。

そんな私ではありましたが最近インドに行く機会があり、そこでひょんなことからダージリンティーを飲むことになったのです。せっかくだし飲んでみようかという軽い気持ちで口にした紅茶が美味いのなんの!衝撃の美味しさでした。その一杯のおかげで私はすっかり紅茶に興味津々となってしまったのでした。

そして私は早速スリランカの紅茶についての本を探し、そこで出会ったのが本書『スリランカ 紅茶のふる里~希望に向かって一歩を踏み出し始めた人々』でありました。

本書はスリランカの紅茶の歴史や現在の農園事情を知るためのおすすめの入門書です。


ディサーナーヤカ『パニワラル―駐日スリランカ大使が見たニッポンー』

【スリランカ人から見た日本とは!】

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本作はスリランカ人から見た日本を知れる刺激的な一冊です。

私は今こうしてスリランカについて様々な本を読んで学び、様々なことを考えているわけですが、それは逆も然り。スリランカ側からも日本は見られています。

同じ仏教徒であるスリランカと日本では仏教のスタイルも生活文化も全く異なります。同じ仏教徒でありながらまるで違うスリランカ人が見た日本とはどのようなものなのか、これは興味深いテーマです。


角山栄『茶の世界史』

【紅茶はなぜイギリスで人気になったのか。茶から見る世界覇権の歴史を学ぶのにおすすめ!】

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本作はイギリスの紅茶の歴史と文化を知るのにおすすめの作品です。

しかも単にイギリスの紅茶史の変遷を見ていくのではなく、日本や中国、インド・スリランカといった世界とのつながりからその流れを見ていけるのが本書の特徴です。

インドやスリランカの紅茶について知りたいと思い手に取った本書ですが、これは大当たりでした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。


アンドリュー・ドルビー『スパイスの人類史』

【インド・スリランカのスパイスの歴史を知る上でもおすすめ!】

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私にとってスパイスは天敵と言ってもよいかもしれません。インドの食事はどこに行ってもスパイス臭が香り、もはやトラウマになってしまいそうでした。あのケンタッキーですら辛くて食べれなかったのです!普遍文明と思っていたケンタッキーですらインドのスパイス文明に呑み込まれた!これには衝撃でした。

さて、私の個人的なお話が続いてしまいましたがスパイスはインド・スリランカの歴史を考える上で避けては通れません。

私個人としてはスパイスは天敵ですが、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」。あえて苦手なスパイスを知ることも大切なことです。インド・スリランカを学ぶのならばやはり学びたい!そう思いこの本を手に取ったのでした。

この本は単にそれぞれのスパイスを見ていくだけでなく、世界の歴史の流れと関連付けて語られる点にその特徴があります。

まさに私が求めていた本そのものです。

それぞれのスパイスの原産地はどこか、いつ頃から栽培され始めたのかという基本情報はもちろん、そのスパイスと人間の関わり合いを知れるのはとても刺激的です。


シドニー・W・ミンツ『甘さと権力 砂糖が語る近代史』

【砂糖はいかにして世界を変えたのかを問う名著!】

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これまで鈴木睦子『スリランカ 紅茶のふる里』や角山栄『茶の世界史』など、インド・スリランカの紅茶についての本を紹介しましたが、紅茶といえばやはり砂糖もセットです。せっかくイギリスと紅茶についての歴史を学んだならばぜひ砂糖についても学んでみたい、そんな思いで手に取ったのが本書『甘さと権力 砂糖が語る近代史』になります。

私達の身近に当たり前のように存在している砂糖を通して世界の成り立ちを考える非常に刺激的な作品です。砂糖が当たり前の存在になるにはとてつもない変遷があったのでした。私達の当たり前を問う素晴らしい作品です。


臼井隆一郎『コーヒーが廻り世界史が廻る』

【コーヒーが変えた西洋近代社会!コーヒーから見た世界史を学べるおすすめ本!】

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私がこの作品を手に取ったのは上で紹介した鈴木睦子著『スリランカ 紅茶のふる里』がきっかけでした。なんと、その本によれば紅茶で有名なスリランカが実はかつてコーヒーの産地として有名だったというのです。

私はスリランカのコーヒーに衝撃を受け、これを機にコーヒーの歴史を一度じっくり見てみようと思いこの本を手に取ったのでありました。

そしてコーヒーが大好きな私にとってこの本はまさに大当たりの素晴らしい一冊でした。


S・D・コウ/M・D・コウ『チョコレートの歴史』

【マヤ文明から遡ってチョコの起源とその歴史を学べるおすすめ作品!】

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本書は私達にも身近なチョコレートの歴史をなんと、紀元前のマヤ文明にまで遡り見ていくという大スケールの作品となっています。

私が本書を手に取ったのはスリランカの歴史を学ぶ中で紅茶とコーヒーの西洋流通について調べていたのがきっかけでした。紅茶とコーヒーとチョコレートはほぼ同時期に西洋に入り、飲み物として親しまれていました。そしてそのプランテーションや貿易の展開はヨーロッパとアジアの思想を考える上でも非常に大きな意味があると考え私はチョコレートの歴史も学んでみたいと思ったのでした。

そんな時に出会ったのが本書『チョコレートの歴史』です。

チョコレートの大まかな概略をさくっと学びたい方には本書は若干ヘビーではありますが、チョコだけでなくそこから世界を大きく見ていきたい方、歴史好きの方にはぜひおすすめしたい名著です。


エリック・ウィリアムズ『資本主義と奴隷制』

【奴隷貿易とプランテーションによる富の蓄積が産業革命をもたらした!?】

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本書はマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で説かれたような定説を覆した歴史学の金字塔的名著として有名な作品です。

この本のメインテーマはまさに「奴隷貿易と奴隷制プランテーションによって蓄積された資本こそが、産業革命をもたらした」という説の論証にあります。

私が本書を読んだのはスリランカの紅茶が直接のきっかけでした。

鈴木睦子著『スリランカ 紅茶のふる里』を読み、かつてスリランカが紅茶よりもコーヒー栽培で有名だったことや世界貿易の流れと共にスリランカやインドの歴史が動いていたことを改めて知ることになりました。

そして上で紹介した様々な本を読み、さらに本書『資本主義と奴隷制』を読んで改めて世界がとてつもないスケールで回っていることを実感したのでした。

スリランカの仏教を学ぶと言っても、やはり仏教の教義だけを見ても見えてこないものがあります。その当時の時代背景、国際関係にまで目を向けないと見えてこないものがどうしても出てきてしまいます。

宗教は宗教だけにあらず。あらゆるものが繋がって成立しています。

これは私が特に大切にしている考え方です。

だからこそ私は宗教の教義や歴史だけではなく、その時代背景や生活文化もできるだけ学ぼうとしています。

今回読んだ『資本主義と奴隷制』もまさに巨大なスケールで歴史の流れを見ていく刺激的な作品でした。

おわりに

インド仏教のおすすめ参考書に引き続きスリランカについても膨大な量になってしまいましたが、やはりスリランカは面白い!

この国の仏教や歴史を学んだことで、自分自身を振り返る大きな機会となりました。まさにスリランカは私達の鏡です。

日本にいると当たり前すぎて気づかないこともこのスリランカを通して多く発見することができました。私にとってかけがえのない学びとなったことはまちがいありません。

スリランカ仏教やその社会を知ることは必ず日本仏教理解にも生きてきます。

ぜひこの記事を参考にして頂けましたら幸いでございます。

『インド・スリランカ旅行記』記事一覧はこちらのまとめ記事にて


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