ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第6回:小羊の部屋(Lishkat HaTela’im:リシュカット・ハテライーム)と8つの石柱(3章2節~5節)
*ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説の第6回。本稿では第3章2節から5節を扱い、エルサレム神殿における朝の日毎の焼き尽くす献げ物の「開始の瞬間」を徹底的に掘り下げる。
黎明の確認における過去の失敗(Yoma 3:2)から導き出された「ヘブロン」への問い、祭儀に用いられる93の祭器具、そして屠殺場に備えられた石柱と大理石のテーブルの理由まで網羅。
一次資料と伝統的註釈に基づき、2,000年前の「律法の現場」における物理的・合理的動線を、手加減なしに復元する。
はじめに:前回の振り返りと2回目のくじ引き
前回は、第2のくじ引き、第2のくじ引きによって決められる役割、日毎の焼き尽くす献げ物の内容、屠殺(shechitah:シェヒター)や血を注ぎかけること(zerikah:ゼリカ)について扱った。以下、3の項目にまとめて要点を振り返る。
【1】 第2のくじ引きと13の奉仕役割
祭壇の準備を終え、「切り石の間Lishkat HaGazit(リシュカット・ハガジット)」で祈りを捧げた祭司たちは、次にその日の主要な奉仕を担当する13の役割をくじで決める。
その具体的な役割は以下の通りである。
①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。
②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて。
③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。
④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。
⑤〜⑩羊の部位の運搬:6人。スロープへ部位を運ぶ。
⑪穀物の献げ物 (minchah):1人。スロープに運ぶ。
⑫大祭司のパン (chavitin):1人。スロープに運ぶ。
⑬ぶどう酒 (nesech):1人。祭壇の隅の受け口にぶどう酒を入れる。
この内、前回は①と②を扱ったこと。
【2】日毎の焼き尽くす献げ物(tamid:タミッド)」の内容
日毎の焼き尽くす献げ物(tamid)は以下の3つで1つのセットになる。
1歳の雄の小羊 + 穀物の献げ物(小麦粉と油) + ぶどう酒。
これらを毎日、朝と夕に1回ずつ献げなくてはならない。
【3】屠殺(shechitah:シェヒター)の場所、及び血の注ぎ(zerikah:ゼリカ)の方法
shechitahについて、焼き尽くす献げ物のいけにえは、必ず「祭壇の北側」で屠らなければならない。
zerikahについて、祭壇の「北東の角」と「南西の角」の2箇所に血を投げつけ、2回の動作で祭壇の4つの側面すべてに血を注がなくてはならない。
祭壇の中央には「赤いライン」が引かれているが、焼き尽くす献げ物の場合、ラインより上に血を注がなければならない。
以上である。これらの内容について不安を感じる方は、以下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第5回:ユダヤ教神殿奉仕の核心――「血の注ぎ」と「祭壇の構造」に見る聖別された物理的動線(3章1節)
https://note.com/mishnah/n/ncf95b5faef4d
今回はその続きであるが、前回と同じく①、②に関わる内容を扱う。具体的にはいけにえとなる小羊について解説する。まず「Tamid」3章2節から。
「夜明け」か「月明か」か:3章2節に見る目視確認の厳格性
任命された祭司が来て、彼らに言う。「行け、そして屠る時が来たか確認せよ 」。もしその時が来ているなら、確認した者は言う。「夜明けだ」。マスヤ・ベン・サムエルは言う、「東の空が明るくなった。」「ヘブロンまでか?」そして確認した者は言う「そうだ。」
任命された祭司(監督官)は祭儀の進行を司る。太陽が昇り始める前にいけにえを殺すことは禁じられているので、目視による確認を命じている。
これには過去の失敗も影響している。その次第は他の口伝律法「Yoma(ヨマ)」3章2節に記録されている。次のように書かれている。
なぜこれが必要なのか?なぜならある時、月の光が出ていて、彼らはそれで東の空が明るくなってきていると勘違いしたから。その時彼らはいけにえを屠ってしまったので、燃やす場所に運んだ。
これは夜明けだと思っていけにえを屠ったが、実際それは月明かりであったという場面である。
この時いけにえは無効になったので、燃やす場所に運んだことを言っている。
「Tamid」3章2節に戻るが、「東の空が明るくなった」という報告に対して、監督官は「ヘブロンまでか?」と厳しく問い直している。
これは「空の一部が明るいだけなのか、それとも(エルサレムの南方に位置する)ヘブロンの山々まで光が届くほど十分に明るくなったか」を聞いているものである。
これに対して「そうだ」という確認があれば、祭儀は正式に開始される。
次の節に進もう。3章3節である。
火の部屋の北西か南西か:小羊の部屋(Lishkat HaTela’im)の配置と各部屋の整理
任命された者は彼らに言う。「行け、そして小羊の部屋から1匹の小羊を連れて来い。」小羊の部屋は火の部屋の北西の角にある。そこには4つの部屋があるのである。つまり小羊の部屋。領収証の部屋。火の部屋。聖卓のパンを作る部屋。
夜明けが確認されると、監督官は「小羊の部屋から1匹の小羊」を連れて来るように命じる。その場所は本文の通りだが、これは図を確認する。

まず赤く囲った大きな領域全体は「火の部屋」と呼ばれる。これはtamid 3章3節の「火の部屋」ではない。これを以下、ヘブライ語にならって次のように区別して呼ぶことにする。
①火の部屋全体:Beit HaMoked(ベイト・ハモケド)
写真の赤く囲った大きな領域全体。
②その中の火の部屋:Beit HaTevilah(ベイト・ハテヴィラ)
写真のピンクで囲った部屋。ここから地下のmikveh(ミクヴェ)への通路がある。
その他の部屋についても、紹介しよう。
③青色:領収証の部屋
これは以前の記事で触れた。献げ物の穀物、油、ぶどう酒の売買は1つの場所で扱うと混乱するので、代価の支払いの場所と献げ物の受け取りの場所を分けている。
「領収証の部屋」は代価を支払う場所である。まだご存知ない方は下の記事から確認して欲しい。
◉イエスを裁いた最高法院における裁判について(上)――神殿の「Lishkat HaGazit(リシュカット・ハガジット:切り石の間)」と座席禁止規定の矛盾
https://note.com/mishnah/n/nfdd178d93af0
◉イエスを裁いた最高法院における裁判について(下)―ミシュナ『Beitzah(ベイツァー)』『Sanhedrin(サンヘドリン)』が暴く「三つの不法」と夜間裁判
https://note.com/mishnah/n/n371fe1a873ee
④茶色:lechem hapanimの部屋
これは聖所の中で安息日ごとに献げる12個のパンを作る場所を言っている。これについても以前の記事で解説したので、不安な方はそちらを確認して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第4回:「金の祭壇と聖卓の乳香」の為の火床の分離、「Lishkat HaGazit:リシュカット・ハガジット)」における祈り(2章5節)
https://note.com/mishnah/n/n353e94f15f56
⑤黄色:献げ物の小羊の部屋
これは「Lishkat HaTela’im(リシュカット・ハテライーム)」と呼ばれる。
献げ物は傷があってはならない。この部屋には事前に傷がないか確認された子羊が、常時少なくとも6頭用意されていたものである。
朝のtamidの祭儀が始まると、祭司たちはこの「Lishkat HaTela’im(リシュカト・ハ・テライム)」へ行き、ロウソクの光でもう一度子羊に傷がないかを確認してから、祭壇の北側へ屠る(shechitah:シェヒター)為に連れて行った。
なお、ミシュナ本文では上記引用の通り、「小羊の部屋は火の部屋の北西の角にある」と書いてあるが、実際は南西の間違いである。専門家の間でもそのように判断されている。
次の節に進もう。「tamid」3章4節である。
93の祭器具と「金のカップ」:動物愛護と儀礼の調和
彼らは祭器具の部屋に入り、そこから93の金銀の祭器具を持って来る。彼らはtamidの小羊に金のカップで水を飲ませる。たとえ午後の前に調べられたとしても、たいまつの明かりで調べる。
まず「祭器具の部屋」はLishkat HaKeilim(リシュカット・ハケイリーム)と呼ばれている。その場所は特定されていないが、小羊の部屋と同じく火の部屋(Beit HaMoked:ベイト・ハモケド)の中が有力視されている。
小羊を連れて来るのと合わせて、祭器具も持って来るという流れになる。この93の祭器具は一日に使う祭器具である。
「tamidの小羊に金のカップで水を飲ませる」とある。これは彼らにおいて、「生き物を苦しめてはならない」という教えがあるからである。
次に「たとえ午後の前に調べられたとしても、たいまつの明かりで調べる」とあるが、たとえ前日の午後に傷がないか調べていても、この場で確認することを言っている。先に進もう。
屠殺場の物理構造:8つの石柱と大理石のテーブルの役割
tamidの権利を得た者が小羊を引き、屠る場所まで引いていく。部位を運ぶ権利を得た者 は、それについていく。屠る場所は祭壇の北側に位置し、その場所には8つの小さい石の柱が立っている。それぞれの突端に杉の正方形が付けられ、鉄のフックが3つそこに嵌め込まれている。そこに彼らはいけにえを引っかけ、皮を剥ぐ。柱の間には大理石のテーブルが置かれている。
これは細かく分割しながら解説する。
「tamidの権利を得た者が小羊を引き、屠る場所まで引いていく」とあるのは、2回目のくじで屠る(shechitah)の権利を得た者が、祭壇の北側へ連れて行くことを言っている。
その後には「部位を運ぶ権利を得た者」が続く。彼らは冒頭のリストの「⑤〜⑩羊の部位の運搬: 6人。スロープへ部位を運ぶ」である。
1人がshechitahを行った後、小羊の部位は分割され、6人の祭司がそれぞれの肉の部位(四肢や内臓など)を祭壇のスロープまで運ぶ。彼らはその役割上、屠殺者のすぐ後ろに控えて続く。
小羊は祭壇の北側で屠られるが、その皮を剥ぐ場所について「8つの小さい石の柱が立っている」と書かれている。これは下の図で確認して欲しい。

赤く囲った領域に、8つの四角のしるしがあるのが分かると思う。これが「8つの小さい石の柱」である。これはnannasin(ナンナシン)とも呼ばれる。
この石の柱は皮を剥ぐ為のものである。「鉄のフックが3つそこに嵌め込まれている。そこに彼らはいけにえを引っかけ、皮を剥ぐ」とあるが、これは子羊の大きさや、皮を剥ぐ部位の高さに合わせて掛ける位置を調整する為である。
「柱の間には大理石のテーブルが置かれている」とあるのは、そこで内臓を取り出したり、肉を特定の部位に切り分けたりしたものである。
大理石は熱を持ちにくく、肉の鮮度を保つのに有効であり、また血や汚れが染み込みにくい為、神殿奉仕において理想的な素材であったと思われる。
以上で今回の解説を終わりにする。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究
https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
