ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第5回:ユダヤ教神殿奉仕の核心――「血の注ぎ」と「祭壇の構造」に見る聖別された物理的動線(3章1節)
*本稿では、エルサレム第二神殿における日毎の焼き尽くす献げ物(tamid:タミッド)の祭儀を、口伝律法ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇3章1節に基づき、手加減抜きの専門性で解説します。
「くじ引き」によって細分化される13の奉仕役割から、祭壇の北東・南西の角へ血を投じる「血の注ぎ(zerikah:ゼリカ)」の物理的メカニズム、そして血をキドロンの谷へ流す排水構造に至るまで網羅。既存の形骸化した聖書解説を「掃除」し、2,000年前の律法の現場を再構築します。
前回の振り返りと「金の祭壇と聖卓の乳香」の火床の分離
前回は「Tamid(タミッド)」2章5節を扱い、以下の内容を確認した。
【1】2つ目の薪と聖所内での献香
祭壇には日毎の焼き尽くす献げ物のためのメインの薪(Ma’arachah ha-Tamid:マアラハー・ハタミッド)の他に、聖所内の金の祭壇で焚く「献香」のための2つ目の薪が用意される。
①配置と素材
祭壇の南西の角から北側に4アンマ(約2メートル)寄せた位置に、いちじくの良い材木が選ばれる。
②目的
この薪から作られた炭が聖所へ運ばれ、金の祭壇の上で香草を焚くために使用される。
【2】安息日における「供えのパン(lechem hapanim:レヘム・ハパニーム)」と乳香
平日は5セアの炭が準備されるが、安息日には8セアに増やされる。
①理由
安息日ごとに新しくされる「供えのパン(lechem hapanim:レヘム・ハパニーム)」に添えられていた古い乳香を焼く為である。
②峻別
毎日の献香は「聖所内の金の祭壇」で行われるが、lechem hapanimの古い乳香は「外の祭壇」で焼かれる。
【3】奉仕の継続性と再点火
前夜に燃え残った脂肪などの部位は、廃棄せずに新しく整えられたメインの薪の上に戻して焼き尽くされる。これにより、前日の奉仕を完遂し、新しい日の奉仕へと繋げる継続的な姿勢が示される。
【4】切り石の間(Lishkat HaGazit:リシュカット・ハガジット)への移動
2つの薪に火を点けた後、祭司たちは「切り石の間」へと向かう。
①構造的特徴
この部屋は最高法院が開かれる広間であり、神殿の敷地内(座ることが禁止されている)と敷地外にまたがる特異な構造を持っている。
②目的
祭司たちはここで、朝の奉仕に向けた祈りやくじ引きを行った。
以上の内容に不安がある方は、前回の記事を確認して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第4回:「金の祭壇と聖卓の乳香」の為の火床の分離、「Lishkat HaGazit:リシュカット・ハガジット)」における祈り(2章5節)
今回はその続きである。「Tamid」3章1節から開始する。
第二のくじ引き:細分化される13の奉仕役割
くじを引かせる者は彼らに言う。「さあ、くじを引こう」。誰がtamidを屠るのか。誰が血を投げるのか。誰が金の祭壇の灰を綺麗にするのか。誰がmenorahの灰を綺麗にするのか。誰がtamidをスロープの上に載せるのか。頭と右後ろ足。2本の前足。尾の脂肪、左の後ろ足。胸と首の脂肪。左右の脇腹。内蔵。穀物の献げ物。Chavitin。ぶどう酒。彼らはくじを引く。勝った者が勝つ。
祭司たちは切り石の間(Lishkat HaGazit:リシュカット・ハガジット)で祈りをした。その後にこのくじを引くのである。全部で13、ここで決める係のリストは以下の通りである。
順番に役割の名前、割り振る人数、奉仕する場所を記す。
①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。
②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて。
③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。
④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。
⑤〜⑩羊の部位の運搬:6人。スロープへ部位を運ぶ。
⑪穀物の献げ物 (minchah):1人。スロープに運ぶ。
⑫大祭司のパン (chavitin):1人。スロープに運ぶ。
⑬ぶどう酒 (nesech):1人。祭壇の隅の受け口にぶどう酒を入れる。
全部で13個の奉仕である。1つずつ簡単に解説するが、その前に日毎の焼き尽くす献げ物全体についての掟について触れなくてはならない。トーラ(モーセ五書)から引用する。
モーセ五書(トーラ)の規定:焼き尽くす献げ物の「セット内容」
1主はモーセに仰せになった。
2イスラエルの人々に命じて、こう言いなさい。
あなたたちは、わたしの食物である献げ物を、燃やしてささげる宥めの香りとして、定められた時に忠実にわたしにささげなさい。
3彼らに言いなさい。
燃やして主にささげる献げ物は次のとおりである。
無傷の一歳の羊二匹を、日ごとの焼き尽くす献げ物として、毎日、 4朝夕に一匹ずつ、ささげなさい。 5それと共に、上等の小麦粉十分の一エファに上質のオリーブを砕いて取った油四分の一ヒンを混ぜて作った穀物の献げ物をささげる。 6これが日ごとの焼き尽くす献げ物であって、燃やして主にささげる宥めの香りとして、シナイ山で定められたものである。 7それに添えるぶどう酒の献げ物は、羊一匹について四分の一ヒンとし、聖所で、主に対するぶどう酒の献げ物として、酒を注ぐ。 8夕方ささげるもう一匹の羊の場合も、穀物の献げ物とぶどう酒の献げ物を、朝と同じようにささげ、燃やして主にささげる宥めの香りとする。
本文の算用数字は節番号を表している。
ここでは次のことが命じられている。
毎日朝と夕に1匹ずつ、雄の小羊を焼き尽くす献げ物として献げること。
それぞれのいけにえに一定分量の穀物と油を混ぜて作った「穀物の献げ物」を献げること(5節)。
それぞれのいけにえに、ぶどう酒も献げ物として献げること。
つまり焼き尽くす献げ物とは単一の献げ物ではなく、実際はセットなのである。これは以下のようにまとめることが出来る。
焼き尽くす献げ物 = 雄羊 + 穀物の献げ物 + ぶどう酒
日毎の焼き尽くす献げ物は雄の小羊であると決まっているが、その他の焼き尽くす献げ物では別のものを献げることが出来る。しかしそれはここでは立ち入らない。
以上を前提にもう一度、2回目のくじで決まる役割を見て欲しい。
①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。
②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて。
③金の祭壇の清掃:1人。聖所の中。
④menorah(メノーラー)の清掃:1人。聖所の中。
⑤〜⑩羊の部位の運搬:6人。スロープへ部位を運ぶ。
⑪穀物の献げ物 (minchah):1人。スロープに運ぶ。
⑫大祭司のパン (chavitin):1人。スロープに運ぶ。
⑬ぶどう酒 (nesech):1人。祭壇の隅の受け口にぶどう酒を入れる。
何となくイメージが湧くと思う。以下、回を追って1つずつ解説する。まずは①と②から始める。トーラには次のように書かれている。
屠殺(shechitah:シェヒター)はなぜ「祭壇の北側」でなければならないのか
奉納者がそれを主の御前にある祭壇の北側で屠ると、アロンの子らである祭司たちは血を祭壇の四つの側面に注ぎかける。
焼き尽くす献げ物のいけにえを屠る場所は「主の御前にある祭壇の北側」と決められている。下の写真を見て欲しい。

黄色で囲まれた領域で屠ることになる。屠ること自体はshechitah(シェヒター)と呼ばれる。shechitahは必ずしも祭司がしなくてはならないものではないが、焼き尽くす献げ物の場合、祭壇の北側で屠らなくてはならない。
神殿のこの領域は祭司とレビ人しか入ることが出来ないから、一般のイスラエルの民はshechitah出来ないことになる。
次に「②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角にて」であるが、これはshechitahしたいけにえから噴き出した血を祭器具で受け、祭壇の四角に振りかけるというものである。トーラには次のように書かれている。
アロンの子らである祭司たちは血を祭壇の四つの側面に注ぎかける。
この「四つの側面」への振りかけ方については、1つ1つの側面に1回ずつ、合計4回振りかけるのではない。これについて口伝律法ミシュナ「zevachim」5章に次のように書かれている。
血の注ぎ(zerikah:ゼリカ):二箇所の角で四面をカバーする「2回で4回」の技法
焼き尽くす献げ物は最も聖なるもの(kodshei kodashim)であり、―北側で屠り、受け、血は2回撒かれるが、それは4回に等しい。それは皮を剥ぎ、分割し、完全に火に委ねられる。
焼き尽くす献げ物は「最も聖なるもの(kodshei kodashim:コドゥシェイ・コダシーム)」であり、祭壇の北側で屠られるとある。献げ物は「最も聖なるもの(kodshei kodashim:コドゥシェイ・コダシーム)」と、それよりも聖性が軽い「kodashim kalim(コダシーム・カリーム)」に分けられるが、それについては別の回で語る機会があるだろう。
ここでは焼き尽くす献げ物は「最も聖なるもの(kodshei kodashim;コドゥシェイ・コダシーム)」であり、kodshei kodashimは祭壇の北側で屠ることだけ分かればよい。
問題は「血は2回撒かれるが、それは4回に等しい」の部分である。
結論から言うと、祭司は北東の角と南西の角の2箇所に向けて血を振りかける。血を角にぶつけると、液体が角を包み込むように左右の面に広がる。写真を見て欲しい。

図の2つの赤丸の場所で、祭壇の角に向かって血を振りかける。方角で言うと、先述の通り北東箇所と南西箇所である。
この2箇所で振りかけるのも理由がある。というのは、祭壇の北側で屠るのだから、北側の角は動線が短くなるという事と、南西箇所には血を流す穴が開けられているからである。これも図を見て欲しい。

祭壇の物理構造:血を流す「二つの穴」とキドロンの谷への動線
青く囲まれた円内に、穴が2つ開いているのが分かると思う。振りかけられた血はここに流される。それは神殿の下を流れて行き、ケドロンの谷にまで流れる。これについては、口伝律法ミシュナ「Middot」3章2節にも書かれている。
南西部分には2つの穴がある。鼻の穴のように。献げ物の血が西か南に置かれた時、そこを通って流れるように。それらは混じり合い、キドロンの谷まで流れる。
話を血を振りかける奉仕に戻すが、北東箇所と南西箇所の2つの箇所で血を振りかけることについて既に述べた。次は振りかける高さである。
焼き尽くす献げ物の血を振りかける高さについても、口伝律法ミシュナで定めが記録されている。
有効と無効の境界線:祭壇中央の「赤いライン」の役割
赤いラインが祭壇の中央に引かれており、上方の血と下方の血に分けている。
祭壇には赤いラインが引かれていて、上下に分けていることを言っている。これも図を見て欲しい。

赤いラインが四方を囲んでいるのが分かると思う。献げ物の種類によって、このラインよりも上に血を振りかけ、あるいは下に振りかける。口伝律法ミシュナ「Zevachim」2章には次のように書かれている。
低い所に注ぐべきなのに高い所に注いだら 、あるいは高い所に注ぐべきなのに低い所に注いだら、・・・(中略)・・・―それは無効である。
今回の焼き尽くす献げ物は、このラインよりも上に振りかけなくてはならない。これまでの内容をまとめる。
まとめ:第2のくじ引きから始まる聖なる秩序
祭壇での火の準備を終えた祭司たちは、切り石の間(Lishkat HaGazit)で祈りを行い、その後の奉仕担当者を決める「くじ引き」をする。
このくじ引きは祭壇から炭の一部を取り出す奉仕「terumat hadeshen(テルマット・ハデシェン)」に続く2回目のくじである。
2回目のくじ引きで最初に決めるのは、以下の2つの奉仕である。
①屠殺 (shechitah):1人。祭壇の北側にて。
②血の注ぎ (zerikah):1人。祭壇の角(北東部と南西部)にて。
今回の解説は以上である。次回は③以降を説明する。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Tamid』法理研究
https://note.com/mishnah/n/ne0f9ce5dd9f8
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
