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生成AI時代に、人間に残る「ことばの力」とは何か

研修講師、手話通訳士の横山熊太郎です。

AIを活用しながら、シニア向けの情報や、書籍やガジェットの紹介などをしています。

最近、私が最も多読しているのが今井むつみさんの著書です。
私には難しい内容ばかりなのですが、言語を学ぶものにとっての、
大きなヒントがたくさん書かれていて、ドキドキしながら読み進めています。

言葉をめぐる環境の中に、AIという存在が大きくなっています。
かくいう私もAIとの共作で記事を書いています。

クリエイターの伝えたいこと。情熱とか、温度が、AI任せでは失われていくと私は思います。

では、人ができることとAIができることのバランスはどこら辺にあるのか。

この今井さんの記事を頼りに、あなたと一緒に考えてみたいと思います。



生成AIは、驚くほど自然な文章を書くようになりました。

質問すれば、すぐに答えが返ってくる。
文章も整っている。
言いよどみもない。
文法もきれい。

まるで「ことばを使う力」では、すでに人間を超えてしまったかのように見えます。

しかし、今井むつみさんの「生成AI時代に求められることばの力と思考力」を読むと、むしろ逆のことに気づかされます。

生成AIが流暢にことばを操る時代だからこそ、私たち人間には、人間にしかできない「ことばの使い方」があるのです。

AIは流暢だが、意味を生きてはいない

生成AIは、膨大なデータから言葉と言葉の関係を学び、次に来る可能性の高い言葉を予測します。

だから文章はとても自然です。

しかし、今井さんはここで大切な視点を示します。

AIは「リンゴ」について説明することはできます。
でも、リンゴの香り、歯ざわり、手に持った重さ、かじったときの甘さを身体で知っているわけではありません。

つまり、ことばが現実の経験に結びついていない。

これを「記号接地がない」と表現します。

人間にとってのことばは、単なる記号ではありません。
身体の経験、感覚、記憶、人とのやりとりと結びついています。

だからこそ、人間のことばには厚みがあるのです。

子どもは「教えられて」ことばを覚えるのではない

この記事で特に印象的なのは、子どもの言語習得についての説明です。

子どもは、大人から意味をきれいに教えてもらってことばを覚えるわけではありません。

状況を見て、相手の意図を考え、「これはこういう意味かな」と仮説を立てる。
そして使ってみる。
間違える。
また修正する。

この繰り返しによって、ことばが自分のものになっていきます。

ここで重要になるのが「アブダクション推論」です。

アブダクションとは、不完全な情報から「おそらくこうではないか」と仮説を立てる推論です。

たとえば、待ち合わせ相手が来ないとき、私たちはすぐに原因を考えます。

事故かもしれない。
忘れているのかもしれない。
何か事情があったのかもしれない。

確実な証拠がなくても、人は仮説を立てずにはいられません。

この力は、科学者が仮説を立てるときにも、子どもがことばを覚えるときにも、日常会話で相手の意図を読むときにも働いています。

「計算できる」と「意味がわかる」は違う

今井さんは、算数につまずく子どもたちの例も紹介しています。

計算の手順は覚えている。
通分も約分もできる。
でも、分数そのものの意味がわかっていない。

たとえば、1/2が0から1の数直線の真ん中に来ることが感覚としてつかめない。
1/2と1/3のどちらが大きいか迷ってしまう。

これは、単なる学力の問題ではありません。

記号を操作することと、意味を理解することは違うという問題です。

そしてこの姿は、どこか生成AIにも似ています。

それらしい答えは出せる。
断片的な知識はある。
しかし、その意味が身体感覚や現実の経験に根ざしているわけではない。

ここに、人間の学びを考える大きなヒントがあります。

ことばの力とは、正しく言う力だけではない

ことばの力というと、語彙力、読解力、表現力を思い浮かべる人が多いでしょう。

もちろん、それらも大切です。

しかし、この記事が教えてくれるのは、ことばの力とは「意味をつかむ力」だということです。

相手がなぜそのことばを使ったのか。
その場面で、その表現は何を指しているのか。
同じ言葉でも、文脈によってどう意味が変わるのか。

そこを考える力が、人間のことばの深さです。

生成AIが文章を作る時代になっても、人間が担うべきことはなくなりません。

むしろ、文章の流暢さだけでは見えにくかった「意味を考える力」の重要性が、よりはっきりしてきたのだと思います。

手話通訳にも通じる視点

私はこの記事を読みながら、手話通訳の世界にも強く通じるものを感じました。

手話通訳は、単語を別の単語に置き換える作業ではありません。

話者が何を言おうとしているのか。
その場でどの言葉を選べば伝わるのか。
ろう者にとって自然な表現は何か。
聴者側の文脈をどう補えばよいのか。

常に不完全な情報の中で、仮説を立て、判断し、表現を選んでいます。

これはまさにアブダクションの連続です。

だから、手話通訳者に必要なのは、単語力だけではありません。

ことばの意味を身体でつかむ力。
文脈を読む力。
相手の意図を推測する力。
そして、必要に応じて自分の解釈を修正する力。

AI時代になっても、ここは人間の通訳者にとって非常に大切な専門性であり続けるはずです。

生成AI時代に必要なのは「問い直す力」

生成AIは便利です。

文章のたたき台を作る。
情報を整理する。
言い換えの候補を出す。

こうした場面では、とても役に立ちます。

しかし、AIが出した文章をそのまま受け取るだけでは、人間の思考力は育ちません。

大切なのは、こう問い直すことです。

本当にそうか。
この言葉は何を意味しているのか。
別の見方はないか。
この説明で、相手に伝わるのか。
現実の経験とつながっているのか。

AIを使うほど、人間には「意味を考える力」が求められます。

おわりに

今井むつみさんの記事は、生成AIを否定するものではありません。

むしろ、生成AIの特徴を見つめることで、人間のことばと思考の本質を浮かび上がらせています。

AIは流暢に話します。
でも、人間は経験し、迷い、間違え、修正しながら、ことばを自分のものにしていきます。

その不器用さの中にこそ、人間の知性があります。

生成AI時代に必要なのは、AIより速く文章を書くことではありません。

ことばの奥にある意味を考えること。
不完全な情報から仮説を立てること。
経験と結びつけて理解すること。
そして、自分のことばで世界を捉え直すこと。

これからの時代に問われるのは、流暢さではなく、深さなのだと思います。

今井さんの著書は、オーディブルで聴くことができます。

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