秋を探しに行く
今日は立秋。暦の上では、今日から秋が始まる日です。
けれど窓を開けると蝉が鳴いていて、日差しは容赦がありません。秋とは。
納得がいかなかったので、確かめに走ってきました。


八月七日は立秋である。暦の上では今日から秋が始まる。
暦の上では、という前置きが毎年ついてまわるのが立秋という日だ。実際には一年でいちばん暑い時期にあたる。今日を境に手紙の挨拶が暑中見舞いから残暑見舞いに変わるらしいが、残っている暑さどころか、これから本気を出すという顔をしている。
それでも、決めた人がいるからには何かあるのだろうと思って、朝のうちに走りに出た。
坂を上り始めて三分で後悔した。首の後ろがじりじり熱い。汗が顎の先に溜まって、石段に落ちる。蝉の声が厚くて、壁の中を進んでいるような気になる。秋は、と探しながら上ったが、目に入るものは何ひとつ秋ではない。空は白く焼けていて、道の縁の草も夏の色をしていた。
上りきったところで膝に手をついた。港が見える。屋根と海がまとめて光っていて、まぶしいばかりで涼しくもなんともない。息を整えていたら、風が来た。
首の後ろを、すっと通っていった。
汗が乾くときの、あの一瞬だけの冷たさだった。風そのものは生ぬるかったと思う。ただ、濡れた皮膚の上を通ったから涼しく感じただけだ。理屈で言えばそれだけのことなのに、あ、と声が出た。
しばらく待ってみたが、次の一枚は来なかった。蝉は同じ調子で鳴いていた。
坂を下りながら考えていたのは、あれは走らなければ気づかなかったな、ということだった。汗をかいていない皮膚なら、あの風はただの生ぬるい風として通り過ぎていた。涼しさは風の側にあったのではなくて、こちらの側にあったことになる。
暦というのは、たぶんそういうものなのだろう。今日から秋ですよと言われたところで、外の景色は昨日と一ミリも変わらない。変わるのは、こちらが探し始めるということのほうだ。探していなければ、風の一枚ぶんなど気づかずに終わる。
家に着く頃には汗が引いて、また普通に暑かった。
夕方、洗濯物を取り込みに出たら、日が落ちるのが少し早い気がした。気のせいかもしれない。ただ、そう思って空を見上げたということ自体が、もう今日の効果なのだと思う。
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