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タルタルは、鼻で食べた

七月八日はチキン南蛮の日らしい。朝、そのことを漫画に描いた。タルタルは自由枠、という話だった。描いた本人が確かめないのも変なので、図書館の帰りにケンタッキーへ寄った。

図書館では借りる本を選ぶのに時間をかけたのに、バーガーは十秒で決めた。アプリのクーポンで、数量限定の「チキン南蛮フィレバーガー」のセット。人間の決断力は、たぶんそういう配分でできている。


包み紙には筆文字で「夏の和風バーガーズ」とある。ファストフードが和風を名乗るときの、あの少し力んだ感じが嫌いじゃない。紙袋の中はもう甘酢の匂いがしていて、帰り道の間ずっと、鞄の中の本と揚げ物の匂いが同居していた。

家まで持ち帰って、包みを開けた。甘酢だれが下のバンズまで垂れていて、レタスの間から柑橘タルタルがのぞいている。宮崎の人が見たら何か言いたくなるかもしれない見た目だった。

一口目。甘酢の味が来るぞ、と構えていたら、先に来たのは香りだった。柑橘の香りが、噛んでいる間じゅう鼻から抜けていく。味というより、風が通る感じ。タルタルってこんなに香りの食べ物だったのか、と思った。いつも卵とピクルスの酸味のことしか考えていなかった。

二口目からは落ち着いて食べた。甘酢だれは思ったよりおとなしい。フィレの衣に染みたところだけ、じんわり甘い。柑橘に主役を譲っている配分だった。自由枠どころか、タルタルが看板を持っていた。

一緒に買ったグリーンホットウイングもかじる。緑の正体は青唐辛子だそうで、こちらも辛さより先に青っぽい香りが立つ。辛さはあとから、じわじわ舌の縁に残るタイプ。今日のケンタッキーは、鼻で食べる日だったらしい。



ポテトは細いのが数本、袋の底で湿気はじめていた。それでも指が伸びる。バーガーの合間のポテトは、味というより句読点なのだと思う。

食べ終わる頃には、柑橘の香りはもうどこにもいなくて、口の中は普通に揚げ物のあとの口だった。香りというのは、いちばんいいところだけ持って先に帰る。

図書館で借りた本を横に積んだまま、指をタレでべたべたにして食べ終えた。本を開くのは、手を洗ってからにする。


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