親孝行の日、親のほうが先に親孝行
八月八日は親孝行の日だそうです。
朝、母からLINEが来ました。
私は買い物をして、実家の坂を上りました。



八と八で、はは、パパ。ハチハチを並びかえるとハハチチになる。そういう理由らしい。誰が最初に並びかえようと思ったのか、そこがいちばん気になる。
母のLINEはいつも短い。用件と、自分は元気だという報告。それだけ。困っているときには何も書いてこないので、元気ですと書いてあるほうが身構える。これはこちらの勝手な話である。
何か買っていこうと思ってスーパーに寄った。甘いものは食べない。うなぎは高い。しばらく立って、結局よそ行きの菓子と果物にした。
実家は坂の上で、車は下までしか入らない。夏の昼に上る坂は長い。
引き戸は開いていて、返事はなかった。台所に入ったら、床に水の輪が残っていた。桶を置いていた場所だけ乾いていない。流しには切り落とした花の茎が散らばっていた。
母にも母がいる。知っていたはずなのに、輪のあとを見るまで思い出さなかった。
墓は歩いて数分のところにある。母は柄杓を持って立っていた。
赤い眼鏡のことを書いておく。何年か前、母は予備の眼鏡をもう一本作った。もったいなか、と言いながら、フレームの色を三十分かけて選んで、赤にした。私はその場にいた。なぜ赤なのか、聞かなかった。
聞いたのは今日である。おばあちゃんが、赤かとにしなさいって言いよらした、目立つけん、はぐれんて。
あのとき私が眼鏡屋で言ったのは、これなら冷蔵庫に入っていても見つかる、ということだった。それだけである。
買ってきた菓子は墓に供えられた。それ、供えとこか、と母が言って、私は袋を渡した。
親孝行の日に、私は何もしていない。花を切ったのも、桶に水を汲んだのも、坂を先に上ったのも母だった。
帰りは下りだった。袋は、持っていなかった。
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