さくらんぼしごと①夏至にむかう
6月の声をきくと、
季節は足早に夏へ向かう。初夏の光が、果実をみるみる赤くしていく。
リラはさくらんぼの木の下に立つ。
枝のあいだから、こぼれそうな実を見上げる。
きょうのぶん、と思う。

高いところには手が届かない。
あれは小鳥たちのぶん、と知っている。
さくらんぼ摘みは、まだ実が温まらない午前中にする。
低い枝の実を小さな手で、かごに入れていく。
エプロンの端でそっと拭き、口に運ぶ。
きょうはコンポートをつくる。
まず種を抜く。
瓶の口にさくらんぼをおいて、
棒でそっと押すと、種が下におちていく。
おおきい粒。
ちいさい粒。
鳥がよろこぶ粒。

マスールが重さを量る。
実はやわらかい。そっと扱う。
濃いシロップを熱くして、
実をくぐらせる。
透明だったシロップが、少しずつ赤くなる。
「きれい。」
しばらく眺める。
瓶詰めと煮沸は、マスールのしごと。
リラは椅子に座り、手元を見ている。
こぼれた甘い香りが、静かに広がる。
②につづく
リラ|ある修道院の果樹園で
第一話 さくらんぼしごと ① ② ③ ④ ⑤
