【小説・ヴィーナス症候群】[166]郷に入ったおしゃれ
割出結菜が西アフリカの山奥のこの村に来たのは、義手を届けに来たからだった。
サイセイ義肢の進める「SYNAPTIC計画」は、電気も工具も限られた地域――いわゆる“第4世界”でも使える簡便な神経義手を開発・検証するための国際実証事業だ。
その一環として、結菜は被験者兼テスト担当者として、元・青年海外協力隊だったという国際担当の安慶名美里に連れられてシエラレオネの奥地、カクリ村に派遣された。
この村には、地雷で腕を失った青年も、出生時から腕のない子どももいた。
義手が動くかどうかではなく、「受け入れられるかどうか」を確かめる毎日だった。
三週間の任務を終えたその日の午後、村の女性たちが結菜を囲んで言った。
「今日はオシャレしようよ」
「あなたも女の子なんだから!」
彼女たちが差し出したのは、鮮やかなアフリカンプリントの布。
青と金の花柄。陽射しの下で、土よりも強く光っていた。
結菜は笑って頷いた。
誰かがスカートに巻き、誰かが頭にスカーフを結んでくれた。
両腕はない。でも誰も、それを不思議がらなかった。
「ね、似合うでしょう?」
「いいじゃない!」

そう言ってくすくす笑い合う彼女たちに、結菜も肩を揺らして笑った。
任務は終わった。でも、この午後だけは仕事ではない。
ただ、一人の“女の子”として、彼女たちの輪の中にいた。
土の上で布が揺れる。風が通り抜ける。
ひさしぶりに肩が軽かった。
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