「あなただけのプログラム」を、AIに検証させてみた
【執筆者紹介】
今村 雅史(Masafumi Imamura)
銀座トレーニングラボ代表。「一生モノの美脚」を提案するパーソナルトレーナー歴24年の動作改善スペシャリスト。
延べ数千名の指導実績を持ち、プロ選手やJリーガーなどトップアスリートのパフォーマンス向上を支援。
現在は中学校女子バスケットボール部のコーチを務めるほか、国際的なトレーナー教育機関「NASM OPTIMA」にて2025年、2026年と2年連続で講師として登壇しています。
進化学・神経科学に基づいた専門知識と豊富な現場経験から、あなたの身体の「なぜ?」を根本から解決します。
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クロードが進化しました。
Fable5。
きっかけは、クロードがポケモンレッドを自力でクリアした、という話でした。
分野は違うんですけどね。
ゲームを最後まで攻略できるくらい賢くなったのなら、自分の専門領域でどこまで付き合えるんだろう、と思った次第です。
選んだ分野は運動学習(motor learning)。
自分の理解を整理するために作った運動学習のテキストと資料があったので、それを学習させ、そのうえで「以前書いた"あなただけのプログラム"という記事の考え方は、この学問に照らして妥当か」を検証させました。
さらに、自分の資料は少し前のものなので、最新のエビデンスがあれば調べて補強してくれ、という条件も足しました。
その結果が、思っていたよりずっと面白かった。妥当だと出た部分、弱いと指摘された部分、そして「ここがごっそり足りない」と出た部分。さらに、自分の資料の時点では定説だったのに、最新の研究では雲行きが怪しくなっている、という箇所まで出てきました。
トレーナーにとって一番価値があるのはこういう検証だと思うので、全部書きます。
まず、何を検証にかけたか?
検証にかけた自分の主張は、ざっくりこうです。
目的(脚を細くしたい)を聞いても、そこから種目(スクワット)は決まらない。まず体の現在地を評価する。できない動作には負荷をかけない。問題の原因を特定して、整えるべき順番に沿って整えてから、初めて種目が決まる。そして重さは「その日の体」と「動作の質」で決める。
これを運動学習の標準的なフレームに当てはめると、どこが妥当で、どこが崩れるのか?という検証です。
「妥当」と出た部分
結論から言うと、核になる主張は妥当でした。
運動学習には制約主導アプローチ(Newell, 1986)という考え方があります。人の動きは、「有機体(その人の身体・心理)」「環境」「課題」という3種類の制約が相互作用する中から、自己組織的に生まれる、という理論です。
これで前回の記事を読み直すと、自分が批判していた「大筋群から先に鍛える」というセオリーの問題が、もっと正確に言語化できます。
あのセオリーの起源は、Joe Weiderのボディビル原則でした。筋肉を最大限に大きくしたいボディビルダーという集団の、課題制約に最適化された処方です。
ところが、脚を細くしたい一般の女性は、有機体の制約も課題の制約もまったく違う。
制約の組み合わせが違えば、自己組織化されるべき最適な動きも違うはずなのに、出力される種目(スクワット)だけが同じになっている。これは制約主導の理論から見れば、明確におかしい。
自分は「目的も体の状態も違うのにセオリーだけが独り歩きした」と書きましたが、学問的にはこれは「課題制約の取り違え」です。方向は合っていました。
もう一つ、「できない動作に負荷をかけても、崩れたパターンが強化されるだけ」という主張について。
運動学習の神経メカニズムでは、繰り返した動作は大脳基底核で「チャンク(自動化された運動の塊)」として記憶され、これが習慣の神経基盤になります。つまり目的に対して間違えた「しゃがむ」という動作を反復するということは、その崩れた運動プログラムをチャンク化して、自動化段階まで定着させてしまうということです。
Gray Cookの「できていない動きのまま鍛えても、できていない動きが強化されるだけ」という言葉が、感覚的な警句ではなく、神経科学的にそのまま正しい記述でありました。
当然なんですけどね。
AIが「思想がねじれている」と指摘した部分——でも、これは便宜の問題
検証で最初に突かれたのが、ここでした。
前回の記事の前半、私はGray CookのFMS/SFMAを根拠にしています。
「動作を評価して、できない動作はメニューから外す」という考え方です。
これは、正しいフォームという理想形があって、そこから外れていたら矯正する、という規範的・矯正的なパラダイムです。
一方で、トレーニングの介入そのものについて自分が大事にしているのは、制約主導アプローチに近い考え方です。
「正しい動きは一つではない、制約を操作すれば動きは勝手に最適化される」という立場。
運動学習で言う「自由度の解放」も「拘束された運動仮説」も、すべてこっちに立っています。
AIの指摘は、「評価では理想形を前提にしているのに、介入では理想形を否定している。これは思想的に矛盾している」というものでした。
正直、これは半分しか受け取りませんでした。
自分にとってFMSは、信条ではなく便宜の道具だからです。
「ここが制限されている」という旗を立てるためのスクリーニングとして使っているだけで、それが唯一正しいフォームだと思って使っているわけではない。
Cook自身、あれは診断ではなくスクリーニングだと言っています。
だから、評価では便宜的に規範のものさしを当てて、介入は自己組織的にやる——この使い分けに、自分の中で矛盾はありません。
Gabriele Wulfの一連の研究で、身体の動きそのもの(膝を曲げて、手首を返して)に注意を向ける「内的焦点」より、運動が環境に及ぼす効果(あのコップに触れて、ボールを高く飛ばして)に注意を向ける「外的焦点」の方が、ほぼ例外なく良い結果を出す、ということが分かっています。
なぜか?
これを説明するのが「拘束された運動仮説」です。内的焦点は、意識的なコントロールが無意識的で自動的な運動制御に干渉して、身体の自然な協調を「拘束」してしまう。一方、外的焦点は、システムに目標だけを与えて、最適な動きの発見をシステム自身に任せる。これは、制約主導アプローチとまったく同じ哲学です。意識的な介入を減らして、身体の賢さに任せる。
しかもこの外的焦点は、最新のエビデンスを当てても揺るがなかった、数少ない原則でした。Chuaらの2021年の大規模メタアナリシスは、年齢・健康状態・習熟度を問わず外的焦点が優れていることを確認しています。さらに2025年に出たメタアナリシス(PeerJ誌)は、外的焦点は身体から遠いほど効果が高まるという"距離効果"まで支持しました。「クラブヘッドの動き」より「ボールの弾道」、自分の現場で言えば「お尻を使って」より「床を押して」の方が効く、ということに、さらに根拠が積み上がったわけです。
便宜の評価と自己組織的な介入を地続きにする手段として、いま一番頼れる原則がこれでした。
「ここは弱い」と出た部分——進化の看板
これは、素直に勉強になりました。
前回の目玉だった「進化の順番」の話です。「人間の体は、進化の過程で動きを獲得した順番にしか動けない。爬虫類は首は動くがお腹は捻れない、哺乳類になって捻りを獲得した。だからウエストを細くしたい人でも、まず首から見る」
これです。
まず、現象そのものは正しい、と検証でも出ました。土台(中枢・近位)から末梢へ、頭頸部から体幹へと動きが整っていく、という順番は、発達運動学で言うcephalocaudal(頭尾方向)・proximal-distal(近位遠位)の原則そのものです。赤ちゃんが首のすわり→体幹の支持→座位→四つ這いの順で動きを獲得していくのは、教科書レベルで確立した事実。首の位置や動きが体幹・四肢の出力に影響するのも、緊張性頸反射や前庭系との連関で神経生理学的な裏付けがあります。
「ウエストの話なのにまず首を見る」という臨床判断は、十分に擁護できます。
弱いのは、現象じゃなくて、そこに貼った説明の看板でした。
「進化で動きを獲得した順番に体は動く」という言い方は、生物学ではとっくに否定された「反復説」(ヘッケルの"個体発生は系統発生を反復する")のロジックを呼び込んでしまう。
これは知りませんでした。
生物学に詳しい人ほどこの言い回しに反応するし、実際に体に残っているのは「進化の記憶」ではなく「発達の順番」です。同じ臨床結論にたどり着くのに、わざわざ否定された強い主張を経由していた。
看板を「発達と神経生理」に掛け替えるだけで、攻撃面が消えます。これは普通にありがたい指摘でした。
ただ、AIが「事実として怪しい」と言ってきた部分には、反論しました。
AIは「爬虫類はお腹を捻れない、は言いすぎ。爬虫類は体幹を左右に大きくくねらせて(lateral undulation)動いていて、体幹の動き自体は豊富だ」と指摘してきました。でも、自分が言っているのは側屈ではなく軸回旋=捻りです。
胸椎の回旋に限れば、爬虫類はやはりほとんどできない。
哺乳類で起きた本質的な変化は、左右の波動(側方への運動)から、矢状面の屈伸と軸回旋への移行です。
つまり「捻り」を「軸回旋」と厳密に取るなら、自分の主張はむしろ正しい。
最終的にこの部分はAIも認めました。
「お腹を捻れない」という言い方が、undulationまで含めて全部否定するように読めるのが問題なのであって、軸回旋(torsion)に限定すれば、爬虫類が乏しく哺乳類で強化された、というのは妥当だ、と。
だから直すべきは事実そのものではなく、「捻り」を「軸回旋」とはっきり書くこと、それだけでした。
整理すると、この件で本当に弱かったのは「進化の順番だから」という因果の看板の一点で、捻りの事実認識は、言葉を正確にすれば残ります。
「ここが足りない」と出た部分——処方で止まっている
検証で一番痛かった指摘がこれでした。
前回の記事、丁寧なのは認める。でも「評価して種目を決める」で完全に止まっている、と。
評価して、原因を特定して、順番に整えて、種目を決める。ここまでは処方の話です。
でも、決めた種目をどう練習させて、どう定着させるか?
その話が一行も書かれていない。
運動学習という学問の、本体がまるごと抜け落ちている、という指摘でした。
これは反論できませんでした。お客さんがジムを出た後、その動作が保持され、日常や他の場面に転移するかどうかは、処方の精度ではなく、練習の構造で決まります。
自分の資料には、その練習構造の原則がちゃんと書いてあったんですけどね。
文脈的干渉効果(複数のスキルをランダムに混ぜて練習すると、練習中は下手でも後の保持・転移で有利になる)、練習の多様性とスキーマ理論、フィードバックを「あえて減らす」ガイダンス仮説。
教科書的にはどれも有名な原則です。
ところが、ここで最新のエビデンスを調べさせたら、話が一気にややこしくなりました。これが今回の検証で一番面白かったところです。
文脈的干渉効果は、実験室では今も繰り返し再現されています。でも、スポーツや現場のような実際の場面に一般化できるかは、今まさに揉めている最中でした。Ammarらの2023年・2024年のメタアナリシスは、現場での高い文脈的干渉を支持する十分な根拠はない、と結論づけています。一方でCzyżらの2024年のメタアナリシスは、いや頑健な現象だ、と反論している。研究者同士がメタアナリシスを撃ち合っている状態です。
そして自分にとって腑に落ちたのは、初心者や子どもは、この文脈的干渉のモデル通りに反応しないことがある、という点でした。
これは、現場でずっとやっていたことです。うちのお客さんはほとんどが運動初心者なので、整えたばかりの動作をいきなりバラバラに混ぜて練習させたら崩れる。だからまずブロックで形を作る時期を置く。教科書が「ランダム練習の方が優れている」と言い切っていた横で、現場ではとっくにそうしていました。
ただ、それをこう言語化できていなかっただけです。最新の知見は、自分が経験でやっていたことに、後から名前と根拠をくれた形でした。
フィードバックも似た展開でした。
「学習者自身にフィードバックを要求させる(自己制御フィードバック)と学習が促進される」というのは、少し前まで定説でした。自分の資料にもそう書いてある。でも、近年これは再現に失敗しています。McKayらの2023年の研究(被験者228名)では、自己制御の優位性は確認できなかった。効果はあっても「あっても軽微」というのが今の評価です。
つまり、フィードバックを減らすという大きな方向性(ガイダンス仮説の核)は今も妥当だけれど、「学習者に選ばせれば良くなる」という具体的なメカニズムは、当てにしすぎない方がいい、ということです。
知らなかった。
整理すると、前回の記事は練習設計が空白だった。そこを埋めるべきなのは間違いない。ただ埋め方は、教科書をそのままコピーするのではなく、最新の知見と自分の現場に合わせて選ぶ必要がある。
「評価が丁寧なジム」から「学習が定着するジム」になるには、この最後の選別がいる、ということでした。
実は、もう無自覚にやっていた
前回の記事の「重さの決め方」のところ。あそこで自分は、運動学習を名前を知らないまま、すでに実践していたことが分かりました。
「前回より重くなった、は成果じゃない。前回と同じ動作の質を保ちながら重くなった、が成果」と書きました。これ、運動学習の言葉に翻訳すると、バンド幅フィードバックそのものです。動作の質という許容範囲を設定して、そこを外れたら重量を上げない。質が保たれている限り、細かいことは言わない。まさに「あえて減らす」フィードバック設計です。
「重くなる」という結果(KR)ではなく「動作の質」(KP)を成果の基準にしている、という意味では、初心者にKPを優先するという原則にも合っている。さらに言えば、「動作の質を保て」という指示は外的焦点に寄せやすい。
それから「一度に変える変数はひとつだけ」という原則。重さを上げるなら回数は変えない、回数を増やすなら重さは変えない。これも、何が効いたのかを判断可能にする——つまり学習の原因帰属を保つための設計です。変数を複数同時に動かすと、フィードバックが何に対するものか分からなくなって、学習が濁る。経験則でやっていたことに、ちゃんと理屈がありました。
無自覚にやっていたことに名前が付くと、それを意図的に、もっと精密に使えるようになる。検証の価値はここにもありました。
検証して、何が残ったか
全部を通して、自分のプログラム設計はこう更新されました。
評価して現在地を知る(便宜的なスクリーニングとして)。原因を特定する。凍結された自由度を、制約の操作と外的焦点で、自己組織的にほどく。発達と神経生理の順番に沿って、土台から協調構造を再編成する。そこで種目が決まる。決めた種目を、相手の習熟度に合わせた練習構造の中で練習させる。
初心者にはまずブロックで、整ってきたら多様性と干渉を上げていく。フィードバックはあえて減らして自己修正能力を育てるが、「選ばせれば良くなる」には寄りかからない。重さは動作の質をバンド幅にして決める。変数は一度に一つだけ動かす。
以前の記事と、骨格は変わっていません。
でも、進化の看板が掛け替えられ、処方の先にあった空白が練習設計で埋まり、その練習設計も最新のエビデンスで選別された。同じ方法が、いまの研究水準の上に立ち直しました。
面白かったのは、検証してみて自分の経験則が学問に追い越されていた部分と、逆に学問が自分の現場感覚に追いついてきた部分が、両方あったことです。
初心者にはまずブロックで、というのは後者でした。教科書が「ランダムが優れている」と言い切っていた時代から、現場はずっと先に答えを知っていた。
自分の仕事でAIをここまで本気で検証に使ったのは、今回が初めてでした。
やってみて分かったのは、AIに検証させる価値は、AIが偉いからではなくて、自分一人では絶対に当たらない最新の研究と、自分とは違う論理を、一度に浴びせてくれるところにある、ということです。
しかも、ただ従うのではなく、おかしいと思ったところには反論できる。
今回も、捻りの話では自分が押し返しました。その往復の中で自分の手の内が、少しだけ新しくなりました。
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著者プロフィール
▶︎合同会社LSP代表
▶︎パーソナルトレーニングジム銀座トレーニングラボ代表
▶︎大妻女子大学ラクロス部(2019年〜2023年)
▶︎平成国際大学トレーナー(2018年〜2019年)
▶︎下半身痩せ協会アドバイザー(2016年〜2020年)
▶︎2018年東京都で今受けたいトレーナー選出
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