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暮らしの森|買い物は金額より後味

ある日のこと。マダム・ザマスが台所に立っていると、玄関の方がにぎやかになった。

「かあさーん、いるー?」

返事を待たずに扉が開く。
いつもの調子で入ってきた娘は、小さな箱を差し出した。

「見てこれ。今日、発売日だったの」

その場で箱を開け、手首に装着する。

「どう?」
くるりと返して見せた。

マダムは一瞬だけ目を向ける。
「……変わった時計ざますね」

「スマホと繋がるの。便利よ」

マダムは湯を注ぎながら問う。
「随分、高そうに見えるざます」

「まぁね」
娘はあっさり答える。

「でも長く使うから。一日換算したら安いわよ」

マダムはふと視線を上げた。

「そういえば、こないだも新しいスマホを手に入れていなかったざますか?」

「浪費は未来の涙ザマス」

「毎日使ってるわよ。アプリが重くちゃ作業効率も悪いでしょ?」

そう言いながら、手首の時計に軽く触れた。

「これは通知と健康管理。無駄な確認が減るの。結局お金で時間を買ってるのよ」

「……なるほど。理由が明確ざますね」

マダムは火を止め、やかんの湯を急須へ移す。

「あ、いいわ。今日は急いでるのよ。
じゃ、また来るから!」

扉がバタンと閉まり、家の中は静かになった。

「……相変わらず慌ただしい娘ざます」



午後。
森の広場で、メイはモコを呼び止めていた。

「ねえねえ、これ見て!」

メイは袖をつまんで、その場でくるりと一回転してみせた。

「この色、今年の流行りなんだって。一緒にいた友だちがね、すごく褒めてくれて」

「どう?」

モコは目を丸くする。

「わー、かわいいモコ。メイに似合うモコ〜」

「でしょ?」

メイは満足そうにうなずいた。

その時、二人の背後から声がかかる。

「メイ、買い物ざますか」

振り返ると、そこにはマダムが立っていた。

「あ……、はい。友だちと街に行ってて。
あっ、マダムも見てください、これ」

マダムは素材に軽く触れた。

「素敵ざます」

メイの顔がぱっと明るくなる。

「そうなんです! ちょっと高いかな?って思ったけど。でも限定カラーだし、今しかないと思って!」

「いい色ざます」

メイは両手を口元に寄せて、はにかんだ。

少しの間の後、マダムが問いかける。

「では、これは長く着る予定?」

メイは一瞬、言葉に詰まる。

「えっと……今シーズンは」

「高いのに、ざますか?」

「いや……、来年も……多分?」

マダムは小さくうなずいた。
「多分で買うのも悪くはないざます」

「ただし……
“後悔する覚悟”も一緒に持つことザマス」

「は、はーい……」

マダムはにこやかに微笑むと、森の奥へと消えていった。

「メイー、高いってなんだモコ?
木の上モコ?」

「んー……。今のうちに、いっぱい着よ」



その日の夕方。マダムはカップから立ち上る湯気を見つめていた。

今日の時計と服。片方は価値で選び、
片方はその瞬間の高鳴りで選んでいた。

「理由が……あるかどうかざますね」

マダムはカップを持ち上げた。

「買い物は、“金額より後味”ざます」




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マダムの教えでメイがちょっと得した日⬇︎


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