16.家計の鬼教官、マダム・ザマス
新年の森は、いつもより少し静かだった。
それでも、いつも通り優しくて
どこか騒がしい住人たちの中に、
この時期になると必ず現れる人物がいる。
“家計の鬼教官”マダム・ザマス。
その日、森の外れにあるマダム・ザマスの自宅兼サロンには、ぽつぽつと住人たちが集まっていた。
理由は、ただひとつ。
新年最初の『家計講座』が開かれるからだ。
「今年こそ、ちゃんとやろう」
「話だけでも、聞いておきたい」
そんな小さな決意を胸に、
それぞれが自分の足で、扉をくぐる。
マダムは一人ひとりを見渡し、
拒むことなく迎え入れた。
「寒い中ご苦労さま。まずは中へ。
冷えた体では話も頭に入らないざます」
マダムはそう言って、
湯気の立つスープを一人ひとりに手渡した。
メイはカップを両手で包み、ほっと息をつく。
「さて、新年ざますけど」
その一言で、ぴしり、と場の空気が締まった。
マダムは眼鏡越しにゆっくりと視線を巡らせる。
「まずはメイ。
部屋は、片付いたんざますか?」
「えっ、あ、えっと……」
一瞬、背中に冷たいものが走る。
「は、はい! 最近はちゃんと綺麗にしてます!」
( 昨日やっといてよかった〜……!)
マダムはしばらく無言でメイを見つめ、
やがて小さく息をついた。
「……まぁ、よろしいざます」
「続けて聞くざますが。あなた、家計簿アプリをまた変えたらしいざますね?」
「はい! 新年なので、気持ちも新たに!」
「いい心がけざます。ちなみに、いくつ目?」
「えっと……10個目です!」
一瞬の沈黙のあと。
「多すぎザマス!!!
それ、恋人を変えるより早いザマス!!」
マダムの声が部屋に高らかに響き渡った。
室内に、くすりとした笑いが起こる。
メイは肩をすくめながら言う。
「いやその……アイコンが可愛くて……」
「アイコンの可愛さで選んでどうするザマス!
浪費は未来の涙ザマス!!!」
その余韻が消えきらないうちに、
マダムは声のトーンをふっと落とした。
「でも……、今年も無事に迎えられたざますね。みんな元気でいてくれたこと、それが一番の収穫ざます」
森の空気が少しだけ、温かくなった。
「メイ、アプリが悪いわけではないざます。
でも、変え続けていたら“癖”は育たない」
「家計簿はゴミ出しに近いざます。
毎日ではない。でも、溜まり方には必ず癖が出るざます」
「油断すると増える、忙しいと放置する。
変え続けていたら、それも見えないままざます」
メイはスープを飲み干しながら、こくりとうなずいた。数字の話なのに、なぜか“生活”の話をされている気がする。
マダムは最後に、静かに言った。
「ここは、数字を叱る場所ではなく、
暮らしを立て直す場所ざます」
新年の森に響いたのは、説教のような暮らしの話。
こうして──
マダム・ザマスの初講義は、一年を動かし始めた。

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