📚図書館編05|森の奥の古びた建物
時は半年前に遡ります。
あの日、館長に渡された一枚の地図が、すべての始まりでした。
(前回の話はこちら)
森の図書館 改修編

「アキラくん、ちょっといいかね」
館長はそう言って、一枚の地図を机の上に広げた。
「実は、森の外れで古い建物が見つかってね。昔は誰かが使っていたらしいが、今はもう長いこと放置されている」
館長の指先が、森の外れを指した。
「ここの整理を君に頼みたい」
アキラは地図へ目を落とした。森のかなり奥。普段はほとんど人が足を踏み入れないような場所だ。
「……僕ですか?」
「君しかいない」
その返事を聞いた瞬間、アキラは眉をひそめた。正直、嫌な予感しかしなかった。

数日後。
地図を頼りに森を歩いていくと、
問題の建物はすぐに見つかった。
屋根には雑草が生え、窓は何枚も割れたまま。
入口には古い看板だけが残っている。
『森の図書館』

「図書館ねぇ……」
アキラは看板を見上げる。
乾いた音を立てて開いた扉の向こうには、
想像以上の光景が広がっていた。
床一面を埋め尽くす本。本。本。
歩こうにも足の踏み場が見当たらない。
試しに手近な一冊を持ち上げる。
ゴホッ。
アキラは思わず口元を押さえた。
「これはひどいな……」
館長は整理と言っていた。
だが、これは整理というより発掘に近い。
木箱をひとつ開けてみる。そこにも紙の束がぎっしりと詰められていた。

館長いわくそのうち整理するつもりだったらしい。だが、その“そのうち”が積み重なった結果が今目の前にある。
「……なるほど」
「俺しかいなかったってわけか……」
古文書。誰にも読まれなかった記録。途中まで書かれたままの資料。そのどれもが未整理のまま積み重なり、何がどこにあるのか、館長ですら把握していないようだった。
「どこから手を付けても同じだな、こりゃ……」
それなら一番近くから始めるしかない。
そう決めて手に取った一冊には、
『森のはじまり』と書かれていた。
「これは歴史だな」
とりあえず、脇に置く。
その隣には、『一人暮らしの指南書』とある。
これは実用書の棚へ置けそうだ。
何冊か仕分けしていくうちに、
一冊だけ妙に目を引くものが混ざっていた。
『未採用ボツ案』
「……なんだこれ」
開いてみると、途中まで書かれた企画や、書き直しの跡が何ページにも残っている。
「なるほど……」
こういう記録も残してあるようだ。
別の箱を開く。
出てきたのは『変な観測記録』
アキラの手が止まった。
「変な観測記録?」
一枚めくってみる。
『どんぐりは激戦区なのか』
「なんだこりゃ」
ページを一枚めくる。
『コングラボードは再現できるのか』
「意味がわからん」
更に別の本を開く。
『教育委員長直通事件』
「……」
アキラは思わず天井を見上げた。
「一体なんなんだここは……」
どうやらここは図書館というより、誰かの頭の中をそのまま倉庫にしたような場所らしい。
アキラは積み上がった本の山を見上げる。
「……これ、本当に終わるのか?」
そうつぶやいても、もちろん返事はない。
館長は一通り説明すると「頼んだよ」の一言だけ残して、帰ってしまった。
「……館長には、後で文句を言おう」

アキラは静かに腕まくりをした。
「……まずは分類からだな」
──こうして、アキラの長く孤独な戦いが始まったのである。
(続く)
アキラの図書館編

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