📚図書館編01|図書館司書のアキラさん
森のはずれに小さな図書館がある。
木造の扉は少し重く、開けると乾いた紙の匂いがする。
午前九時。開館前の静かな時間。
カウンターの奥で、一人の男が本の背を整えていた。
「……曲がってるな」
小さくつぶやき、ほんの数ミリ指先で揃える。
名札には
司書 アキラ
森では珍しく、声を張らない人だった。
やわらかい光が書架を通り抜けていく。
やがて、扉が静かに開いた。
「あの……」
顔を上げると、少し困ったような様子の女性が立っていた。
「何かお探しですか」
「えっと……料理をちゃんとやってみたくて。でも、沢山あってどの本がいいのか分からなくて。おすすめとか……」
アキラは少しだけうなずいた。
棚の方へ、ゆっくり歩き出す。
数秒だけ何も言わない時間があり、それから静かに口を開く。
「どれくらい、やる予定ですか?」
「え?」
「毎日作る感じか、週に何回か、とか」
女性は少し考える。
「……多分、最初は週末だけだと思います」
「なるほど」
「あと、その……あんまり凝ったものは……」
「じゃあ、簡単な方がいい?」
「はい」
アキラは棚に手を伸ばした。
何冊か本を抜き取って、軽く中をめくる。
一冊、また一冊と戻しながら、手に残ったものを脇に抱える。
全部で三冊。
カウンターに戻って、それを静かに並べた。
「この辺りが合いそうです」
女性は少し驚いたように本を見た。
「えっと……三冊?」
「はい」
アキラは軽くページを開く。
「これは手順がかなりシンプルで、失敗しにくいです」
別の一冊に触れる。
「こっちは、少しだけ幅が広いので、慣れてきたときに使いやすいと思います」
最後の一冊を指で押さえる。
「これは、作る量が少なめで、一人分にちょうどいいと思います」
女性は本を見比べながら、小さくうなずいた。
「……どれが一番いいですかね?」
その問いに、アキラは一瞬だけ止まる。
本の表紙を見たまま、ほんの少し考えてから言う。
「この中なら、どれでも大丈夫だと思いますよ」
女性は少し迷ったあと、一冊を手に取った。
「そっか……じゃあ、これ借ります」
「はい」
手続きを終えて、本を渡す。
「ありがとうございます。
なんだか……選びやすかったです」
「よかったです」
女性は軽く頭を下げて、去っていった。
足音が遠ざかり、また静かな空気が戻る。
アキラは、残った二冊を手に取った。
棚の前に立ち、元の場所を探す。
背表紙を見つめながら、少しだけ止まる。
「……もう少し、絞れたかもな」
小さくつぶやいて、本を戻す。
それから指先で、ほんの少しだけ位置を直した。
アキラの図書館編

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