📚図書館編 04|森で一番考える男
開館5分前。
アキラはカウンターで今日の予約本を整え、
小さくうなずく。
「よし、完璧だ」
両手を軽くパンパンと払い、にこやかに微笑んだところで背後から声がかかる。
「アキラさん……それ、昨日の分です」
「えっ?」
振り返ると、今日分の本が台車の上にそのまま残っている。数秒だけ固まり、何事もなかった顔で台車を押し始める。
耳だけが、わずかに赤い。
◆
昼休み。
弁当箱の蓋を開けた瞬間、アキラの動きが止まった。
「箸が……ない」
鞄をひっくり返し、ポケットを探り、
「もしかして……」と引き出しをかき回したが、ないものはない。
アキラはふと爪楊枝に目をやった。
それから、弁当を見つめ直す。
「爪楊枝2本なら……攻略できるか」
しばらく真剣に考えたあと、
「……理論上はいけるはずだ」
とつぶやいたところで、同僚に見つかる。
「いや無理ですよねそれ。割り箸ありますよ」
「どうぞ 」と差し出された箸を受け取る。
「……助かります」
視線を伏せたまま、しばらく動けなかった。
同僚が小さく笑う。
「アキラさんって、ちょっと天然ですよね」
「……反省している」
◆
閉館後。
今日も一日、無事だったと息を吐く。
カバンの中には、新しいスマホの箱。
マダム・ザマスに薦められて以来、
ずっと気になっていたものだ。
一週間前に買ったまま、まだ開けていない。
少しだけ手に取って、また置く。
「……ちゃんと理解してからじゃないとな」
説明書を先に読むつもりで、そのまま時間が過ぎていた。しばらく使い方ガイドを眺めた後、ようやく箱を開ける。
中をのぞき込む表情は、どこか嬉しそうだ。

帰り際、同僚がぽつりと言った。
「アキラさんって、本当に不思議ですよね」
「……そうか?」
「ちゃんとしてるのに、どこか抜けてるし」
アキラは少しだけ考え込む。
「まぁ、僕らも助かりますけどね。面倒ごとって、結局アキラさんのところに集まるし」
「……おいおい」
同僚はくすくすと笑いながら帰っていった。
(便利屋になった覚えはないのだが……)
静かになった図書館に、一人分の足音だけが残る。鞄を持ち上げ、帰ろうとしたその時だった。
「アキラくん」
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、そこには館長が立っていた。
「ちょっといいかね」
その一言に、嫌な予感がした。
館長が髭を触りながらニコニコしている時は、大体ろくなことがない。
前回は誰も読めない古文書の見直しだった。
その前には、ちょっと意見を聞きたいと誘われたまま、気づけば三時間も拘束された。
館長は嬉しそうに笑う。
「少し、時間あるかね」
アキラは小さくため息をついた。
思い返せば、あの時も館長は同じ顔で笑っていた。
そう。あの時も──。

「アキラくん。実は森の外れで、面白いものが見つかってね──」
(続く)
アキラの図書館編

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スマホ選びに悩むアキラの話⬇︎
モコがアキラに初めて出会った日⬇︎
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