暮らしの森|全部わかってから動きたい男
休日の夕方。ベランダには、
洗濯物の山を前に立ち尽くすアキラがいた。
干すこと自体は苦ではない。
積まれた山が減っていく過程は好きだし、
洗濯物が風に揺れる様子も見ていて落ち着く。
ただ、その前に一つ気になることがある。
「……揃わないな」
洗濯ばさみを持ったまま、思考だけが止まる。
同じ洗濯機に入れているのに、
どうして靴下だけ行方不明になるのか。
理由が分からないまま干し始めるのは、
どうにも落ち着かない。
その時だった。窓がガラッと開き、
部屋の中から声が飛んできた。
「どうかしたのー?」
「いや、大丈夫だ。……大丈夫なんだけど」
アキラは靴下を少し持ち上げる。
「どうしていつも靴下だけ揃わないんだ」
「知らないわよ」
即答だった。
「だって、構造的におかしいと思わないか?
同じ洗濯機に入れているのに、対にならないなんて」
「靴下に聞けば?」
「え?」
アキラは少し黙った。
「……いや、そういう問題じゃなくてだな」
「そう?」
奥さんはベランダへ出ると、
洗濯かごからタオルを一枚取り出した。
それを勢いよく、ぱん、と広げる。
「まずは手を動かすのよ」
「でも理由が──」
「理由なんて、干しながらでいいわよ。
だって、全然進んでないじゃない」
そう言いながら、タオルを次々と干していく。
「……まぁ、そうだな」
「でもな、俺だって段取りを……」
「考えてるうちに乾くわよ」
「……」
アキラが黙り込んだ、その時だった。
バサッという音とともに、
何かがぽとりと床に落ちた。
「あっ!あった!」
探していた靴下の片われだった。
その間にも奥さんは洗濯機の前に行き、
中へ手を入れた。
「まだあるわよ」
側面をなぞるように指を動かし、
壁に張り付いていたもう片方を片手でひょいと摘まみ出す。
「はい、これ」
「あっ…… 」
「構造の問題じゃなかったか……」
思わず小さく笑う。
「なるほどな……」
その様子を見て、
奥さんがいたずらっぽく片目を閉じる。
「暮らしはね、動きながら整えるものよ」
「……確かに」
アキラは受け取った靴下を対にして干した。
夕方の風が、シャツの裾をやさしく揺らしていた。

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