見出し画像

プーチンは自分で作った構造的欠陥に落ちる寸前

— 勝てない戦争と、怖過ぎる「平和」 —

The Economistは以下の記事でこう書いた。

https://economist.com/leaders/2026/02/19/vladimir-putin-is-caught-in-a-vice-of-his-own-making


"Vladimir Putin is caught in a vice of his own making."

プーチンは、自分で作った構造的欠陥に挟まれている。」

◼️1. ロシアが勝てない戦争

第2次世界大戦中の東部戦線、いわゆる独ソ戦は人類史上で最悪の戦争と言われている。この戦争(1941年6月〜1945年5月の4年弱)で、ソ連軍は、モスクワからベルリンまで1,600kmも進軍した。一方で、既に独ソ戦より長い戦争になっている、今回のウクライナ侵攻(2022年2月〜)の4年間で、主要戦線ドネツクから前進した距離はたったの60kmだ。この距離はワシントンDCからボルティモアぐらいしかないのだ。しかもこの10〜30kmの戦闘区域が“ドローン・キルゾーン”と化しており、多くのロシア兵がドローンにより殺されている。ロシア軍は、兵士も装備も集結できない。突破しても展開できない。これは最早、機動戦ではない。消耗戦ですらない。持久力の削り合いなのだ。第2次世界大戦で最大最強の陸軍大国であったソ連の姿は今のロシアには無い。

◼️2. 兵士は「愛国心」ではなく「金」

ロシア政府はもう愛国心で兵を集めていない。シンプルにでロシアの男達を集めている。平均サインオンボーナスは1人で243万ルーブル (約3万2,000ドル)だ。この募集に掛かる費用は合計で年間5.1兆ルーブルに達する。因みに、これはロシア連邦の国家予算の財政赤字額の90%に相当する規模だ。つまり、「兵士を増やせば財政が死ぬ。兵士を増やさなければ前線が死ぬ」というジレンマにロシア政府は陥っている。2022年からの最初の3年間、ロシアは軍を増強していた。しかし、2025年末までには、ロシアは補充できる人数よりも多くの兵士を失っている。訓練は不十分で、士気は低く、脱走率はかつてないほど高くなっている。しかも、ロシア経済は停滞し始めており、借入返済額は増え始めている。石油からの収益も期待出来ない状況だ。

◼️3. 何故プーチンは平和が怖いのか?

普通なら、撤退して休戦すればいい。しかし、記事の核心はここだ。平和そのものがロシアの危機を引き起こしてしまうのだ。現在のロシアの軍事費はGDPの8%に達する。国の経済的なリソースは軍事に吸い上げられた状態だ。平時に戻せばどうなるか? 帰還した兵士の雇用問題が発生する。退役軍人の不満は高まるだろう。戦時経済からの経済再配置による混乱も必至だ。軍需が消えた後の深刻な景気後退を予測されている。不満を抱えた退役軍人は政権を不安定化させる。ロシア史を見れば分かる。1917年のロシア革命やアフガン戦争後の混乱。ロシア帝国やソビエト連邦の崩壊は戦争帰りの男達の不満と密接に関連がある。世論調査を考慮すると、ロシア国民は戦闘終結を歓迎するだろう。戦争の終わりはプーチン体制の終わりになり得るのだ。だからプーチンは戦争を止められない。

◼️4. 中国依存という屈辱

戦争を続ければ、中国依存が深まる。マイクロ電子部品、金融支援、そして貿易など、ロシアは中国に大いに依存している。「ロシア文明防衛」の文脈で、プーチンはロシア帝国の復活を掲げたはずが、ウクライナ侵攻を通じて、ロシアは中国の事実上のジュニアパートナーに成り下がってしまった。帝国復活のはずが、実際は中国への戦略的従属。これは地政学的皮肉だ。帝国になるはずが、属国に陥りつつある。

◼️5. トランプ頼みも幻想

和平交渉でトランプがウクライナに領土譲歩を迫るだろうか? その可能性は低下してきている。アメリカはウクライナへの資金援助を99%も削減したが、ヨーロッパからのウクライナへの支援は増加している。アメリカは依然として重要な武器をヨーロッパに提供しており、ヨーロッパがそれらをウクライナに渡している構図だ。しかも、ウクライナは以前ほどアメリカの諜報に依存せずに済んでいる。また、安全保障条約にはアメリカ上院の承認が必要だ。いかなる和平合意にも、条約で定められたアメリカによるウクライナへの安全保障が含まれるように、上院は求めるだろう。

◼️6. そして核心

プーチンは勝てないし、止められない。引けば、自身に危機が及ぶ。進めば、ロシアが自壊する。完全な構造的な欠陥だ。これは感情の問題ではない。構造の罠だ。

◼️7. デスゾーン国家の政治版

経済は21%の政策金利で止まっている。ルーブルは下落し続けている。若年男性は戦場で消耗。それでも、ロシア経済はまだ崩壊はしていない。だが、国家は内側から hollowed out (空洞化) している。戦争を続けるほど、平和が遠のく。平和が遠のくほど、平和が怖くなる。

◼️結論

プーチンは感情で戦争を始めたのではない。しかし、感情的ナラティブ (歴史修正、文明防衛、西側への被害者意識) を国家の合理性より優先してしまったのだ。そのツケは今、停滞する経済、将来を担うはずだった若年層の男性人口の減少、ひっ迫した財政、外交的孤立、そして中国への属国化といった現象、全てに現れている。これは崩壊物語ではない。プーチンの”抜けられない戦争”の物語だ。



関連投稿

いいなと思ったら応援しよう!