あの時 ロシア経済は既に“デスゾーン”に入っていた
— 2024年11月18日のThe Economistを振り返る —
先日、ロシア経済について投稿した。
今日は、そもそも私がロシア経済に強く関心を持つきっかけになったThe Economistの記事について改めて考察したい。以下の2024年11月18日の記事がそれだ。
2024年11月18日。つまり 今から1年ちょっと前、The Economistはこう書いていた。
“Vladimir Putin is in a painful economic bind.”
プーチンは、痛みを伴う経済的板挟みにある。
当時、ロシア経済は「意外と強い」と言われていた。制裁にも関わらず、GDP成長率は3.6%。失業率は2.3%。また、戦争中にも関わらず、景気は拡大 (GDPのうちの政府支出 [軍事費] が増えているから当然と言えば当然)。だが、この時、ロシア中央銀行は政策金利を21%に引き上げていた。ここが異常だった。
■ 21%戦争という異様さ
戦争中の大国は、普通は金利を下げる。第2次世界大戦中のアメリカは2.5%、イギリスは約3%だった。なぜか?借金を安くし、戦争を“持続可能”にするためだ。しかし、現在のロシアは逆だ。ロシアの10年国債の利回りはウクライナ侵攻前の6%から16%へ跳ね上がっている。しかも、政策金利は21%に達している。この状況を知った時、私はロシア経済の“構造的なヤバさ”を初めて理解した。更に私が驚愕したのは、軍事費を1,700億ドルにする方針だったのだ。これはロシアの国家予算の40%を占める。対GDP比では8%に達することになる。
■ 表面の成長、内部の過熱
失業率は2.3%なので、一見社会が安定しているように見えたが、これは好景気を反映している訳ではないのだ。人材を戦場に取られたことで、労働力が枯渇しているだけだったのだ。また、ロシアのインフレ率は8%以上を記録。企業倒産は増加している。今のロシア経済は拡張ではなく、燃焼状態だったのだ。つまり、国家が自分の筋肉を削って前進している状態だ。
■ 最大の問題は「外部脆弱性」
第2次大戦中のイギリスには、アメリカというスポンサーがいた。レンドリースで輸入の3分の2を賄えた。しかし、当時のイギリスと違い、現在のロシアには自国より強力な同盟国が存在しない。もちろん、中国は最大の貿易相手国ではあるが、その支援は“無償ではない。ロシアの輸入先の30%以上が中国であり、ドローンや戦車に軍事兵器に必要な電子部品の90%以上が中国製だ。つまり、ウクライナでの戦争を継続するにあたり、人民元に対するルーブル安は最小限に抑えなければならない。ロシアは人民元に対するルーブル価値を維持しなければならないのだ。しかし、2024年の年末時点で、年始からルーブルは人民元に対して7%も下落していた。ロシアが政策金利を21%にまで引き上げなければならなかった理由もここにある。中露の金利差を極限までに広げることで、ルーブル安を止めるしかなかったのだ。つまり、中国は本当の意味での同盟国ではない。ウクライナ戦争は、ロシアにとっては孤立戦争なのだ。
■民間セクターへの支援
21%にまで達した金利の副作用で困窮する民需を支援するために、ロシア政府は様々な手段を講じてきた。一般家計への債務返済の猶予や、補助率の低い金利での企業への借入支援、そして収入減に直面した銀行への政府からの補填などだ。しかし、こうしたプログラムは財政状況が持続不可能になりつつある中で、運用に関して陰りを見せ始めている。例えば、金利8% (政策金利は21%) の低いコストで借り入れを可能にしていた住宅ローン補助金制度は2024年7月1日に終了。翌月には住宅ローン件数が半減した。また、高金利を理由に、業界団体であるロシア産業家・実業家連合会は、2025年度の投資計画を保留した。つまり経済活動の停止だ。
The Economistは、政策金利の上昇により、上記の通り、ロシア企業と消費者の双方の支出を抑制されると予測した。IMFも、2025年のロシアの経済成長率は来年 1.3% に急減速すると予測していた。国営の開発銀行である VEB でさえ、成長率予測を 2% に下方修正したのだ。投資の減少と戦線への人的資源の流出が相まって、その影響は深刻である。国内経済を活性化するために、金利を下げたいところだ。しかし、重要な輸入品の代金を支払うためには、ルーブルの価値を維持しなければならないため、金利を高く維持しなければならない。
これが2024年にプーチンが直面していたジレンマ(板挟み)であった。2024年年末の時点で既にロシアはデスゾーンに入っていたのだ。
■ 今振り返ると何が見えるか?
2026年2月現在、政策金利は未だに高止まりしており、インフレも継続している。戦場に駆り出された若年層の消耗も激しい。財政赤字も拡大している。この2024年の記事は、単なるロシアに関する金融分析ではなかった。警告だったのだ。2026年もロシア経済は未だに崩壊しない。だが持続もできない。それはつまり、「デスゾーン」だ。
■ プーチンの板挟み
戦争を止めれば、体制が揺らぎ、続ければ経済が削られてしまう。そして、ロシア (というかプーチン) は「短期の勝利」ではなく、「長期の耐久」を選んだ。ロシア人は耐える民族だ。だが耐久は万能ではない。いつまでも持続する訳ではない。忍耐が国家の美徳であるとき、それは最悪の形で機能することがある。
■ 結論
この記事は、崩壊を予言していなかった。もっと怖いことを言っていた。「ロシアは壊れない。だが、ゆっくり削れていく。」と。ロシアのデスゾーンは今後も続く。
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