ロシア経済は“デスゾーン”に入った
― 崩壊しない国家の、ゆっくりした自壊
以下のロシア経済に関するThe Economistの最新寄稿は、非常に印象的な比喩を使っている。
https://economist.com/by-invitation/2026/02/16/russias-economy-has-entered-the-death-zone
ロシア経済は「death zone (死の領域) 」に入った、と。標高 8,000メートル以上。そこでは人間の身体は修復よりも速い速度で自分の筋肉を消費していく。立っているだけで、ゆっくりと死に向かう場所だ。ロシア経済の現状は、正にそれだと言う。
■ 崩壊はしない。だが回復もしない。
西側諸国はずっと「ロシアはもうすぐ崩壊する」と言い続けてきた。だが、崩壊はしていない。しかし同時に、回復もしていない。今後のロシアの回復は難しいだろう。2025年のロシアのGDP成長率は僅か1%。今年は更に悪化する見込みだ。国家は未だに持ちこたえている。だが、それは未来を削りながらだ。これを記事は「negative equilibrium (負の均衡) 」と呼ぶ。
■ 2つに分裂した経済
ロシア経済は今、2つに分裂している。軍需セクター (優先血流が流れる中枢) と民需などのそれ以外 (凍りつく末端)だ。製造業は18%拡大した。だがその全ては軍需由来だ。民需は縮小している。インフレ、高金利、ルーブル安、人手不足、政府の補助金のカット、サプライチェーンの崩壊など、民需が伸びる余地はほぼ無い。つまり、ロシア経済は「軍事レント」で回っているのだ。これは2000年代のロシアの石油バブルと似ているように見えるが、決定的に違う。石油は国外から金が入った。軍需は国内で血を回しているだけだ。つまり、「筋肉を燃やしてエネルギーにしている」ようなものだ。
■ なぜ止めないのか?
経済理論的には、合理的に行動する国家はコストが増加してしまうと、出口を探そうとする。しかし、プーチンは違う。彼は自分の酸素メーターだけを見ている訳ではないのだ。ウクライナやヨーロッパ、そしてアメリカなどの「他の登山者」をも彼は見ているのだ。彼が見ている世界では、ヨーロッパは分断し、ウクライナは疲弊、アメリカは選挙ごとに揺れ動く。世界経済も息切れ状態だ。もし全員が苦しいなら?
「自分の方が長く耐えられる」と信じれば、戦争継続は合理になる。
これが“logic of persistence(持続の論理)”。
プーチンの頭の中ではこうなってるのだろう。
■ ロシアのエリートの確信
更に深い層がある。ロシアのエリート層はほぼ共通して信じていることは、「西側の最終目標はロシアの恒久的封じ込めである」という妄想だ。この信念がある限り、戦争終結は「終わり」ではない。ロシアの高官達は、「どのみち包囲されるなら、今やめる理由は弱い。」と考えるのだ。
ここに「path dependence(経路依存)」がある。
ウクライナでの4年の戦争は両陣営を後戻り不能にした。
■ 問題は“下降”の局面
ロシアは暫くは戦争を続けられる。だが、デスゾーンに永遠に留まれる登山者はいない。問題は、「降りる時に生きていられるか」だ。軍需がGDPの8%を占める経済から平時経済に戻すには、安全保障の確約、大規模動員の解除、西側からの制裁の緩和、軍需産業依存の経済の改革、民間セクターの再建などの条件の同時達成が必要となる。その確率はほぼゼロだろう。
■ 本当の問い
下降が始まった時、どんなロシアが現れるのか?そして、その後の計画を誰が持っているのか?これはロシアだけの問題ではない。ロシア崩壊後の設計図を西側諸国は持っているのだろうか? ロシア革命後の1917年も、ソビエト連邦崩壊後の1991年も、ロシアの転落は世界を激しく揺らした。ロシアという国は定期的に壊れる。次はどうなるのか?
■ 結論
ロシアは今日も持ちこたえている。だがそれは「強さ」ではない。それは、自分の筋肉を食べながら立っている状態と言える。崩壊しない国家は最も危険だ。だが回復もしない国家は、最も予測困難だ。今、死の領域でロシアは息を止めている。
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