夏の音_06⭐【バッケン】【シロクマ文芸部】
「夏の音だなー」
「夏の音?ですか?」
カイトはバッケン(総合化学研究所)の食堂で若手の研究員と一緒にテレビを見ながらカツ丼を食べていた。テレビでは人工ビーチの様子がまた中継されていた。日陰を作るための造花のツタが絡む鉄骨に、風鈴がいくつか吊るされていて、風に揺られて澄んだ音色を響かせていた。
「ほら、風鈴の音だよ」
「風鈴?ですか?」
若手の研究員が不思議そうに首を傾げていた。
「そうか、君はアースを知らない世代だったな」
「はい。この透明感のある高い音が、風鈴というものなんですか?」
カイトの息子と同世代の若手研究員はスペースコロニーで生まれ育ったのだ。スペースコロニーには、季節がない。一年中、快適な温度に保たれている。人工ビーチが賑わっているのは、アースにあった季節を懐かしむ人々の想いが、そこにあるからかもしれない。
核戦争によって放射能で汚染されたアースは、屋外で生活できない惑星となっていた。とくに貴重な資源が眠る場所は土地の奪い合いが苛烈を極め、核兵器の応酬によって高濃度放射線物質で汚染されていた。
アースでは核融合発電のおかげで科学は飛躍的に進歩していた。元々課題であった人口爆発への対策として開発された複数のスペースコロニーは、結果的に放射能汚染で住めなくなったアースからの移住先となっていた。
しかし、スペースコロニーを維持するための核融合発電の燃料となる水素は、アースの海水から採取する必要がある。海水を宇宙に運び出すことは現実的ではないため、アース上で水素吸蔵合金に水素を吸蔵させてからスペースコロニーへと運ぶのが常であった。
若手研究員が食事を終えて席を立つと、入れ替わりにマリウス所長がやってきた。
「カイトさん、ここの席は空いてますか?」
「空いてますよ。どうぞ、お座りください」
「そういえば、資源省から聞きましたか?」
「はい、伺っております」
「来年、アースへ行って合金の資源を回収することになったそうですね」
「ええ、これで当面の水素を保管する水素吸蔵合金は確保できそうです」
「新しい合金開発の進捗はどうですか?」
「元素がボトルネックになっておりまして、アースに存在する元素だけでは限界があります」
「となると、やはり他の惑星探索が必要になりますね」
「ええ、そういうことになります」
近年実用化された超重力装置により、宇宙空間に歪みを作ってワープできるようになっていた。アース以外の惑星探索は既に始まっていた。
それっぽいフィクション(SF)のショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
小牧幸助さんの企画に参加しています。
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