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【創作小説×レシピ】バーチャル居酒屋『酒肴録』第14話: 豚キムチ冷奴とチャミスル


内容紹介

今日の一皿は、豚キムチをよく冷やしてから豆腐に乗せる「豚キムチ冷奴」。
バーチャル居酒屋で繰り広げられる、チャミスルと心ほぐれる物語、そしてレシピや材料紹介をお楽しみください。

本編

のれんをくぐると、ちいさなせかいにつつまれる。
ことばは酒にほどけ、肴にかたらう。
こんやは、なにが録されようか。

 久保和真くぼかずまは、少しひんやりとした暗闇の中で、水から取り出したネガをクリップに留めると、洗濯ロープに吊るして、ほっと一息ついた。そして、明るいところへ出て伸びをすると、カメラを恭しくカバンに仕舞い込み、出かける支度を始めた。

 和真の作品を買いに来るクライアントの一人である、荒川伊吹あらかわいぶきから、ぜひ写真に収めてほしい店があると紹介された。ネガを乾燥させる時間を使って、今日はそこへ訪れてみようと思い立った。

 梅雨の合間の熱帯夜に、もみあげからは汗が滴ってくる。その店は、細い路地を何遍も曲がった先にあった。暗闇の中に行燈の薄明かりと文字の無い白いのれんが浮かび上がっている。

 「伊吹さん、なるほどね」

 和真は独り小さく口を動かすと、カメラを構えてシャッターを切った。

 「いらっしゃいませ」

 のれんをくぐると、壁に掛けられた日本画を和真の二つのレンズが捉えた。そこから視線を動かすと、殺風景だが味わい深いカウンター席の向こうに、紺の作務衣を着て白の前掛けを結んだ真城一献ましろいっこんが立っていた。

 「すみません。素敵な店構えに思わず心を奪われてつい。外で勝手に写真を撮ってしまいました」

 和真は軽く会釈をしながら、カメラを掲げてみせた。

 「構いませんよ。それ、デジタルではないんですね?」
 「はい。これは現像に手間暇がかかる、アナログ人間の代物です。アニメの背景マンの伊吹さんが、ぜひこのカメラで収めてほしい店があると伺いまして」
 「そうでしたか。そしたら、おかけになってお待ちください」

 そう言うと、真城は冷蔵庫へ向かった。中からアルミのバットを取り出してきて、豆腐の上にその中身をかけた。

 「豚キムチ冷奴です」

 あっという間に皿が目の前に置かれた。純白で滑らかな絹豆腐の上に、赤く力強い豚肉が覆い被さっていた。和真は箸を取ると、その上に器用に豆腐と豚キムチを乗せ、口に運んだ。

 「あれ。豚キムチも、冷えてるんですね」

 その力強い見た目と裏腹に、豚肉はキムチ特有の酸味と辛味がほどよく抑えられ、旨みが冷たさの中に凝縮されていた。無地の豆腐が、その旨みを受け止める。そして時々やってくるニラの香りが、箸を次へ動かす原動力になった。

 「一度炒め合わせてから、冷蔵庫でよく冷やしているんです。そうすることでかえって輪郭がはっきりすることも、あるんですね」
 「なるほどなあ。これはまるで、ネガと一緒だ」
 「そのネガの完成を待つ間、お酒もいかがです?」

 そう言うと真城は再び冷蔵庫へ向かい、爽やかな黄緑色をした瓶を取り出して、小さなショットグラスに注いだ。

 「チャミスルです」
 「韓国のお酒?飲んだことないな。ショットグラスで飲むのか」

 和真は一瞬緊張を覚えながらそのグラスを持ち上げると、少し口をつけてみた。

 「え、甘い。そして、軽い」
 「そうなんです。これは、添加物ではなく、自然な甘みなんです。それに、度数も日本の焼酎よりも、低いんですよ」
 「なるほどなあ。これは─」

 和真はそう言いかけると、再び箸を掴んで、豚キムチと豆腐を頬張った。

 「やっぱりそういうことか。このペアは、この近頃の暴力的な夏に、ぴったりだ」

 それから和真は、豚キムチ冷奴一皿で、チャミスルを丸々一本、空けてしまった。

 「すみません。調子に乗って少し飲み過ぎました。もうそろそろ、ネガも乾き切ってると思います」

 和真は少しバツの悪そうに苦笑いをしながら、自分に言い訳をするように言った。

 「待っている時間も、楽しいものですね」
 「はい。『酒肴録』のおかげです。今度シラフの時に、また写真を撮りに来てもいいですか?」
 「ぜひ、酒と肴の記録を、お願いします」

 和真は再びのれんをくぐった。二回目は、海のお隣の冷えた香りを纏わせて。

 真城一献は、和真の背中を見送ると、再び厨房へ戻った。今夜もまた、ひとつの酒肴が録された。 

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第15話へ続く…

おまけレシピ

豚キムチ冷奴
  1. フライパンにごま油を垂らし、にんにくを刻んで熱する。

  2. にんにくの香りが立ったら、キムチを入れて炒める。酸味を飛ばす。

  3. キムチが深い色になったら、塩胡椒した豚バラまたは豚こま肉を入れて、炒め合わせる。

  4. 冷蔵庫でよく冷やした後、豆腐の上にかける。

材料紹介

  1. 自家製キムチセット : 実は簡単です。常備すれば腸も喜ぶ。

  2. ごま油 : ごま油は香りが勝負。

  3. チャミスル : 冷蔵庫で冷やして、夏の一杯に。


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