ドロップ! ~ひったくったのは殺人の証拠物品でした~ 【プロローグ】
#創作大賞2024 #ミステリー小説部門
#ミステリー #青春 #アクション #爽快
都倉圭介、二十六歳。会社を突然クビになり、金に困ってひったくったバッグの中に入っていたのは、なんと殺人の証拠物品。
このままでは自分が容疑者になってしまう。しかしひったくった手前、警察に相談することもできない都倉の目に映ったのは、『里見探偵事務所』の古びた看板だった。
財閥の一人娘・月宮薫子が自殺したというニュースがフェイクだと気づいた都倉は、所長である里見孝太郎に依頼料として彼の用心棒をすることを提案される。
都倉は自身の身の潔白を証明することができるのか。そして一度は道を踏み外した彼が手に入れたのは。
答えはいつも自分の手の中にある。
翻弄されるだけじゃない、何かを変える存在になれるだろうか。
【プロローグ】(本編)
ほんの出来心だった。
街の雑踏に身を任せる。夕暮れ時の長い影が、今なら自分の罪を覆い隠してくれるような気がした。品定めをした相手ににじりと忍び寄る。今だ、と半ばヤケになって踏み込んだ。
「……ッ!」
「あっ……!」
背中に追いすがる声を振り払って、奪ったバッグを握りしめて走り去る。周りの景色なんて見えちゃいなかった。目の前の道を滅茶苦茶に走って、曲がって、息が切れて足が動かなくなる頃には、気づけば知らない路地裏にいた。
「はっ、はっ……どこだ、ここ……」
慌てて辺りを見渡したが、どうやら相手は追ってきていない。ばくばくと心臓の鼓動が耳の奥でこだまする。汗が止まらないのは、全力で走ったからでも見知らぬ場所にいるからでもない。震える手で、胸に抱いたボストンバッグのチャックを引く。
「さて、中身はっと……うわっ!?」
──都倉圭介(とくらけいすけ)、二十六歳。数か月前、働いていた会社を突然クビになり、再就職もできず、それ以来バイトでなんとか食いつないできたものの、ろくな貯金もなく生活は苦しくなる一方で、それでつい、魔が差したのだ。
「な、なんだよこれっ……!」
しかしチャックの中に見えたのは金目の物ではなく、血塗れの包丁と衣服だった。
反射的に投げ出したバッグが宙を舞い、日常には似つかわしくないそれらが地面に放り出される。まるでたった今人を殺してきたと言わんばかりの光景に、ざあっと血の気が引いた。
「ち、違う……! 知らない、俺じゃない……!」
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。後ずされば、背中にひやりと冷たいビルのコンクリートが触れた。
ひったくりの言うことなんか信じてもらえない。咄嗟にそう思った。
「クソッ、こんなことになるなんて……どうすりゃいいんだよ」
藁にも縋る思いで空を見上げると、このビルのテナントの一つだろうか寂れた看板が目に入った。
「『里見探偵事務所』……?」
迷っている暇はなかった。サイレンはどんどん大きくなる。散らばったバッグの中身をかき集めて、簡素な作りの階段を駆け上がる。
「たっ……助けてくれ……! 俺じゃない!」
ノックも忘れ、無我夢中でその扉を開いた。
