闇 390(中央小学校プチ同窓会編)
闇 390(中央小学校プチ同窓会編)

2025/11/08 sta
前回の章
素敵な素敵な二十日の深夜。
君代とのつかの間の愛のやり取りを済ませた俺はゆっくり寝た。
そして威風堂々新宿へ向かう。
ラッキーハウスへ出勤すると、今週末の日曜日を休みたいと言っていた橋本が、前日の土曜と交代してほしいと言い出した。
まあ特に予定はない。
明日の休みが明後日になっただけ。
了承すると橋本は飛び跳ねて喜んでいる。
店の準備を済ませ、買い出しへ行く。
買い物がてら、名案を思い付いた。
彼女とはいい雰囲気を保ったままだし、日曜日に誘ってみようかな……。
『突然ですが、今週の日曜日(二十二日)休みになったんですが、どうでしょうか? 岩上智一郎』
送ってから失敗したと感じる。
何故なら休みになったからどうでしょうかって、意味不明過ぎるだろ。
もう一度送り直す?
いやいや、それじゃくどいし、しつこいって。
もっとちゃんと文面を確認してから送らないと。
ちょっと浮かれ過ぎだ。
焦りは身を滅ぼすぞ。
あ、メッセージが来た!
『今週の日曜日ですね。時間は何時ぐらいですか? 増川君代』
思わず飛び跳ねる。
目つきの悪いホストがこちらを見ていたので、俺も睨み返した。
こういう時の俺は強いよ?
視線を反らし、消えるホスト。
だったらはなっから俺を睨んでんじゃねえよ。
今日いきなり休み変更を申し出た橋本には感謝だな。
こういう流れの時っていうのは何をやっても上手くいくはず。
時流の流れに沿って……。
いやいや、そんな事よりも君代にすぐ返事しなきゃね。
えーと…、彼女はインターコンチよりもワイズがいいと言っていた。
『フレンチのところなら夕方六時以降になります。 岩上智一郎』
『十七時にお客さんのお約束があるので、その後になるんですけど、もしかしたら二十時でも大丈夫ですか? 増川君代』
お客さんと約束?
そんな……。
有馬梨奈の奴、君代に同伴紛いな事をさせやがったのか?
「いやいや、違うだろ!」
梨奈のエンジェルでたまに手伝いで入っているだけで、保険だかそっち系の仕事が本業だと言っていたもんな。
早とちりするなよ、本当。
なら時間的ゆとりを考えて行動が年上の務め。
『いいですよ。なら、二十時から二十時半頃の間で予約入れときましょうか? 岩上智一郎』
『二十時から二十時半でお願いします。 増川君代』
確か彼女と出会ったのはイワカミ工業の頃だから春ぐらい。
去年の四月か五月だったような気がする。
今年の桜は一緒に見られるかな?
今なら誰にでも優しくできるような心境。
これってひょっとしたら悟り?
全身に力が漲る。
左右に二リットルのペットボトルが五本ずつ入った袋。
単純計算で一袋十キロ以上あった。
しかし無敵モードになってしまった今、こんなものは妨げにもならない。
何故なら俺は愛を纏ってしまったから……。
両腕を振り回しながら歌舞伎町を歩く。
どうだ、重力なんてクソ食らえ。
今の俺に触れるとヤケドするぜ!
見ろ、モーゼの十戒のように人混みが割れ、我が道の進むべき方向が示される。
確かこれって、モーゼの十戒でいいんだよな?
一旦袋を地面に置き、携帯電話で調べてみた。
え、海が割れるのをモーゼの十戒だと思っていたけど、全然違うじゃん……。
そもそも十戒って、何々をしてはならないという規則的なものなんだ。
海を割ったというのもモーゼ。
でもモーゼの十戒ではない。
良かったあー、ここで調べて置いて。
君代へ得意げに話したら、危なく自爆するところだったよ。
あ、その前にワイズへ連絡して日曜日の予約取らなきゃね。

タバコに火をつけゆっくり煙を吐き出した。
ワイズでの予約完了。
あと残りのミッションは彼女への報告と、時間の経過を待つだけ。
今日ぐらい仕事終わったら酒でも飲みたいな……。
通常の電車急行で本川越駅へ到着。
軽く一杯程度でいい。
まだ温かい心を持てた事に乾杯したいのだ。
でも、一人で飲むのも何か嫌だけど、女の飲み屋はもっと嫌。
駅を出て、元岩上整体の前を通る。
ここで患者を治し、小説を書き、賞を取れた場所。
色々あったけど、十年前か……。
そのまま通りをただ宛てもなく歩く。
右手には元パーラーいずみの跡地。

小学校入学した頃、お袋に連れられて行った当時ハイカラだった大型の喫茶店。
もうあのような大型店舗は無いんだろうな。
いつ頃無くなってしまったのだろう?
お袋が家を出て行った小学二年生の冬?
まったく覚えていない。
数軒先に見える居酒屋『大漁丸』の看板。
同級生の篠崎一茂がここで働いていると、税理士の大野さんが言っていたよな?
一人で知らない店で飲むぐらいなら、同級生がいる店の方がいい。
俺は店内へ入ってみた。
どのぐらい会っていないのか覚えていないほどだが、すぐに篠崎は分かる。
「篠ヤン、久しぶり」
彼の動きが一瞬止まり、俺の顔を見てニヤけながら口を開く。
「おぉ、岩ヤン!」
母校である中央小学校では当時苗字の頭文字に『ヤン』をつける仇名が流行っていた。
これは俺が藤子不二雄の『パーマン』を見て、パーマン四号の関西人『パーヤン』からパクったものである。
幼稚園から一緒にだった斎藤陽吾に『斎ヤン』と名付けて呼ぶと、彼も俺を『岩ヤン』と言い出した。
そこから連繋寺にあったピープルランドの河野は『河ヤン』。
中原町の篠崎は『篠ヤン』。
元川越市長の息子であり県会議員を一期務めた船橋は『舟ヤン』。
あと他にヤン付けの仇名っていたか?
実家の近くで男だけだと……。
パン屋の中野健次郎は『中野ケン』。
ガラス屋の杉田は『酢豚』。
中学は私立に行った竹乃屋俊太郎は『タンキー』。
三井病院の奥にいたけど火事で全焼した宮岡正幸は『サー君』。
近くの小林雷太はそのまま『ライタ』。
銀座通りの本屋吉田智行は『トト』。
転校した田中義和は『オタナ』。
化粧品加賀屋の滝川兼一は『兼チン』。
仲町の呉服屋笠間康史は『カッタン』。
人形屋の守屋淳一は『守コン』。
幼稚園から一緒の吉田直人は『よっちん』。
膝蹴り理不尽男の岩崎智典は『チャブー』。
連繋寺裏の樋口はそのまま『樋口』。
サンロードの布団屋吉田進は『トッザン』。
賞状屋の三宅は『ミヤ』。
その先にあった金物屋の加藤は『カトキン』。
パーマ屋だった柴崎義明は『柴チン』。
近くの亀田直剛はそのまま『亀田』。
その先の笹寿司の亡くなってしまった山崎は『ヤーヤ』。
化粧品屋の荻野力は『オギャン』。
家具屋の早川は『早ヤン』?
毛糸屋の矢島は『コジコジ』。
おもちゃ屋の押田は『オッシー』。
老けた高橋は『オジン』。
岩上整体を潰した張本人内野正人は『ウッチン』。
中原町だと全日本プロレス入りを潰してくれた大沢史博は『オーちゃん』。
隣りの肉屋の遠藤功一は『ドエン』。
文房具屋の佐々木秀樹は『オッサ』または『オロナミンジュニア』。
広瀬病院の隣りに住んでいた村田は『ムララ』。
小五で転校し中二で転校した及川俊彦は『デコリンチョ』。
元CPLメンバー二ノ宮裕二は『ニノミ』。
小谷野俊幸は『コッタン』。
持田まことは『モッチン』。
森田昇次郎は『森昇』。
火事で家が全焼になりスナック十文字の藤崎信行は『フジ』。
平沼は『ヒラ』。
田中正義は『マーちゃん』。
その従妹だった田中は『オナラ』。
クリーニングの青山は『青ヤン』。
やっとヤンがいた……。
「岩ヤン、立ってないでカウンター座りなよ」
「あ、そうだね」
篠崎に促され腰掛ける。
最後に会ったのは三十代前半のスナック『五次元』以来じゃないか?
「何飲む?」
「ウイスキーのロックとお茶割り」
「二つ飲むの?」
「とりあえずね。あとさ、焼きおにぎり二つに、茄子の生姜炒め。マグロの赤身に、コロッケちょうだい」
「あいよー!」
威勢よく注文を言う篠崎。
彼も頑張っているんだなあ……。
さて、俺は残りを思い出すとするか。
六軒町では吉野正憲は『吉っちゃん』
小学で転校してしまった出口貴弘は『でったん』。
二十代の頃俺にすべて金を払わせた阿部は『ベッコ』。
みつばのほうの建設屋の醍醐直樹は『ダンゴ』。
教師になったと聞いた林昌彦はそのまま『林』。
目の細かった秋山…、あ、彼も『秋ヤン』でヤンだ。
小沢って幸薄そうなのいたっけ。
長谷川という同じクラスは一度も無いが『クサチ』。
十九歳で亡くなった内藤は『ナットウ』。
小沢慎一郎は『シンちゃん』。
真っ白い肌の加藤は『カトハン』。
筋野は…、何だっけ?
あ、途中転向組のパークファミリアを忘れちゃ可哀想だよな。
まず二十歳で亡くなった高橋了はそのまま『了』。
飯島健太郎は『飯ちゃん』。
尾崎はそのまま『尾崎』。
富樫太郎なんてのもいたけど『富樫』。
思い出せるのはそのぐらいか……。
もし他にいたとしたら、俺とは一度も同じクラスになった事がなく話した事もない同級生ぐらいだろう。
それでも名を思い出せない同級生たちへ、すまなかったと懺悔したい気分だ。
「へい、お待ち!」
「篠ヤン、ありがとう」
篠ヤンの昔の思い出ですぐ出てくるのが、高校生ぐらいの頃か?
サンロードのケンタッキーがあった跡地ゲームセンター『エムズ』。
あそこでよくナムコの『ドルアーガの塔』をプレイしていたのだけは鮮明に覚えていた。

通常なら単語帳のメモに一階から六十階までの宝箱の出し方を手書きで記入し、一面クリアする事にめくってそれを確認する。
そしてそのあと爪を軽く噛む癖。
このワンセットが俺から見た篠ヤンだった。
「岩ヤンさ…、明日って休み?」
「ん、土曜日?」
「そう」
「明日は仕事なんだよねー」
「明日さ、森昇が音頭取ってちょっとしたプチ同窓会やるんだよ」
「へえ、懐かしいね」
「それでさ、女ばかり多くて男は俺と森昇だけなんだよ。岩ヤン来てよ」
「何時から?」
「九時ぐらいかな……」
「俺さー、新宿で仕事終わるの夜十時なんだよね……」
「うーん…、一応さ、帰りは十一時過ぎぐらい?」
「そうだね」
「みんなには声掛けとくからさ、顔出すぐらいしてよ」
「了解、十一時過ぎちゃうのは確実だけどね」
久しぶりの旧友との再会は、何だか楽しくそしてとても旨い酒だった。
同級生という特別なスパイスが掛かっているのだから。
おそらくこの大漁丸には、今後も仕事帰り寄ってしまうんだろうな……。
先の謝っておこう。
岡部さん、十日の給料日には必ず毎月お返ししますので、たまにはこの店へ寄らせて下さいね。
「馬鹿野郎! そんな事いちいち断んじゃねえ!」
実際に言うと、こんな感じで笑って怒るんだろうな。
二千十七年一月二十一日、土曜日大安。
朝出勤する時から妙にワクワクしている自分がいた。
当たり前だ。
仕事を終えて地元へ戻れば、プチ同窓会。
翌日は増川君代と横浜でデート。
これでワクワクしないなら、いつすると言うのだ?
二俣川では死に掛け、岡部さんによって救われ川越に。
地元に戻れば戻ったで、あれほど憎しみを抱いていたはずの親父との妙な仲。
新宿歌舞伎町で四度働き出し、斉藤弘一との再会。
そして君代との距離の縮まり。
その前日の今日は同窓会。
こうして一つの流れとして捉えると、グネグネと曲がり捲っているが、それでも俺から見れば一本の線なのだろう。
帰りの電車時間を調べると、夜十時ちょうどに小江戸号がある。
しかしさすがにこれは無理があった。
引継ぎで忙しい時に、私用で若干早く帰るなど通らないし、それを俺から言うのも嫌だ。
しかも今日の早番は橋本が休みの俺と川崎。
絶対に早く上れるのは不可能に近い。
橋本が休みをコロコロ変えたりするから…、いやいや、それだと君代とのデートが消滅してしまうぞ?
だからこれはこれでいいのである。
今の流れは一応生き残った神様からのご褒美かな?
違うって!
だったら何故俺をあそこまで追い込んだ?
あんなふざけた目に遭わせたのが、もし神の仕業だと言うなら、俺は全精力を賭けて仕返ししてやる。
だいたい二千四年に書いた処女作の主人公の名前を今歌舞伎町で名乗っている時点でおかしいだろ?
何が赤崎だよ?
まあ俺が考えた名前ではあるけどさ……。
ちょっと一度過去を整理して振り返っておいたほうが良さそうだ。
こういう順風満帆な時に落とし穴があったりするものである。
今が二千十七年一月だから、三年前って?
二千十四年は初期横浜時代。
下陰さんのインカジで働きながら自身を再生させた場所。
高橋ひろし系列の口車に引っ掛かり、歌舞伎町でインカジ新宿クレッシェンドを開く。
オープン前におじいちゃんが亡くなる。
結果俺は三百数十万の損失を出して終了。
二千十五年は新宿から二度目の横浜時代。
○○会クソヤクザの二階のゲーム屋を再建するも、組長の新庄は飛び、残された俺は秋田から金を摂取された。
殴ったら百十万取られ、新宿から脱出。
そのあとの横浜からが最悪なんだよな。
矢田部の四階のインカジでは一発目の地獄めぐりスタート。
二千十六年になり、横浜から最後で川越時代。
クソ矢田部インカジを辞めた俺は、岩上工業設立。
しかしそれも青野のせいで崩壊し、○○○○会若頭の三田からの誘い。
同じビルの四階でインカジハッピーを開き、矢田部店を潰す。
しかし多重労働で身体をおかしくし辞める。
その後の戸田の旭総建工業が最悪だったのだ。
ここまで弱っていた俺に対し、一ヶ月半人を拘束しておきながらもらった金は一万五千円のみ。
死に掛けたところを岡部さんによって救われ、川越へ帰還。
十二月から四度新宿ラッキーハウスで働き出す。
「……」
何かよく生きているよな、俺……。
これまでで誰が許せない?
ランキングを自分の中で設けよう。
一位、クソヤクザ秋田。
一発殴っただけじゃ気が済まない。
こっちは人生詰みそうになったんだ。
見つけたら打突の刑。
二位、旭総建工業の戸田。
人間を飼殺すようなクソ会社。
いつか目にもの食わらせてやる。
三位、一原。
この馬鹿のせいで俺は三百万以上失った。
二度と関わり合いになりたくない人種。
四位、矢田部。
まあコイツは今どうしているやら?
若頭の三田に詰められ、横浜から消えたようだからな。
この手で殴れなかったのがとても残念である。
五位、雅。
性格がねじ曲がったヤクザ女。
でも乳首触ったし、チャラにしてやらあ。
どうでもいい事を考えている内に忙しくなるラッキーハウス。
そうそう今はここでこうして汗水垂らして働き、金を得ればいいのだ。
これを終わって川越帰れば、お楽しみの中央小学校プチ同窓会が待っているのだから。
しかし因果なもので必要以上に忙しい店を放って抜ける訳にもいかず、結局着替えられたのは夜の十時に十分過ぎ。
店長の香川とオカマの木下、そして吉岡の三人がいてもひたすら動き回るほどだった。
時間だからと帰る訳にもいかず、ドリンクや洗い物をして陰ながらサポートする。
途中で一瞬客が引いた時、帰ろうとするとオカマがこっちに来た。
「邪魔だから、とっとと帰れよっ!」
何だ、このカマ野郎が……。
「香川さん…、コイツ殴っていいすかね?」
思わず低い声が絞り出た。
予定があるのに大変だろうと無償で手伝う俺に対し、何て言い草だ?
「赤崎さん、落ち着いて! ほら、これで何か美味いものでも食べて」
千円札を手に握らされ、強引に店を出される俺。
しばらく閉まった防火扉を睨んでいたが、ここで短気を起こしたところで何も得るものがない。
一度深呼吸してからエレベーターへ乗った。
二千十七年一月二十二日、日曜日赤口。
西武新宿線本川越機に到着し、大漁丸の方向へ向かって歩いている内に、時刻は日を跨ぐ。
君代とのデートは夜の八時だから、二十時間ぐらいの余裕がある。
夕方六時半に川越を出れば横浜には問題なく着くだろう。
篠崎へ電話を掛ける。
まだみんな飲んでいるらしい。
店の場所を聞き、足早に向かった。
中学卒業以来会っていない同級生も多いだろう。
でも、森田昇次郎に篠崎しか男はいないと言っていた。
あとは女だらけ。
一体何の集まりだよ……。
増川君代とデートの控えている俺は、余裕綽々で店に入った。
「おう、岩ヤン!」
「久しぶりだね、岩ヤン!」
「あ、岩上だーっ! 身体デカくなってる!」
「あれ? 岩上君なの?」
様々な呼び方で俺を呼ぶ同級生たち。
パッと見すぐ分かるのが……。
同じクラスだった久保田桂。
その隣りにいるのは顔は分かるけど同じクラスになった事のない月越小学校の奴。
ラーメン三番の娘、加藤弓枝。
あそこで半分潰れているのは、凄い老けて太ったけど丸山理恵だよな?
ほとんどの面子は三十年ぶりの再会になる。
「松本…、松本美紀か?」
「久しぶりだねー」
双葉幼稚園から小、中と一緒の同級生。
写真屋の松本美紀。
二十歳の時以来か……。
いや、川越祭りでも俺は連雀、松本は仲町で何度か会っている。
二俣川から戻って来た時、親父が用意してくれた昔の写真。

俺が顔にペイントをしていない頃だから、二十代前半。
浅草ビューホテルでバーテンダーをしていた時期だろう。
中学卒業から再会したのは俺たちが高校生の頃。
実家の目の前にあった映画館『ホームラン劇場』。

そのあと新しく立て直し『シアターホームラン』になった時、一階スペースにはコンビニエンスストアの『ミニストップ』が貸店舗で入った。

高校生の時にできたミニストップ。
当時山口油材の昭和シェルガソリンスタンドでアルバイトをしていた俺は、もの珍しさから毎日のように通った。

決まって思い出すのは、古いほうのホームラン劇場だ。
シアターホームランになってから、ほとんど映画を観なくなった俺。
その代わり足を運んだのはミニストップで、初代店長夫婦は似たようなメガネを掛けた夫婦。
毎日顔を出す俺にいつも愚痴をこぼす印象しか覚えていない。
コンボバーガーを好んで食べてはアルバイト代を使っていた。
二代目店長は大柄な年配の男性。
この時偶然ここでアルバイトをしていたのが松本美紀だったのだ。
「あれ? 久しぶり! 岩上君でしょ?」
高校三年生になった美紀はとても美しくなっていた。
彼女は俺を見て格好良くなったと褒めてくれ、俺ははにかんだだけ。
「今度遊びに行こうよ」
美紀からの誘いでデートをするようになった。
幼い頃から知っている彼女のイメージはあまりよくない。
母方の従妹だった宇津木裕子が小学入学前に仲町のおばあちゃん家へ引っ越してくる。
近所というものも手伝い美紀と裕子は一緒につるむようになるが、第三者的に見ると親分についていく子分の図式。
大人しかった美紀は、勝ち気な性格の裕子のあとをついていく感じだったのだ。
好きだとは口にしないまでも、いつも美紀の顔を見に行く俺。
やがて奥手な俺に踏ん切り付いたのか、自然と距離は離れていく。
自衛隊入隊が決まった頃は、俺から彼女の調子を取るような感じだった。
厳しい訓練の日々を過ごす俺。
三ヶ月前期教育期間で、一度だけ外出許可を得た俺は迷いなく松本美紀の元へ行く。
この頃彼女は花の女子大生。
女としての魅力も高く、より一層綺麗になっていった。
俺は彼女を撮った写真を大事に持っていて、教育隊の檜山班長に見られた時嫉妬からか「こんないい女と会いやがって」とビリビリに破られ、さらに殴られた苦い記憶。
それから性格の歪んだ檜山は尽く俺ら十名の班員をいびり倒す。
当時十八歳の俺から見ても、明らかに歪んでいた檜山。
その原因の一つに松本美紀の存在があったのは否定できない。
疎遠になった彼女との再会は十九歳。
未だ思い出すだけで忌々しい平子の3Sカンパニーだった。
毎日デニーズやすかいらーくなどの日替わりランチを奢ってくれたので、まあいいかなと平子の言われるまま働くようになった。
時間が経って気付いたのが、ここも無茶苦茶な職場で「企画書はワープロで綺麗な状態で出さないといけないから、岩上君も買った方がいい」と当時二十万万以上するワープロを勧められる。
「平子さん、俺そんな金持ってないですよ」
「え、岩上君クレジットカード持ってないの? 作ったほうがいいよ。ローンで簡単に買えちゃうんだから」
当時無知な俺は仕事で使う為のワープロをローンで買わされた。
「岩上君家は大きいけど、車何台くらいあるの?」
配達用のも入れたら七台くらいと答えると、次は全部使っているのかと聞いてきた。
仕事以外の自家用車は休みでプライベートでもないと使わないと答えると「せっかく車あるのに使わないのはもったいないよ」とこの会社の為に車を使用するよう言われる。
断ると「ガソリン代とか経費はちゃんと出すからさ」と無理くり家の車を仕事に使わされた。
初任給といっても十五万程度だが、給料日になると平子が飲みに行こうと知り合いのバーへ連れて行かれ、会計時「今日岩上君金持ちだからなー」と本当に十九歳の俺に支払いをさせられた。
俺のおじいちゃんが名士で天皇陛下から勲章をもらったり、交通安全協会の会長、クリーニング組合の会長などをしているのを元々知っていたようで、そのコネをやたら利用するように何度も催促された。
「平子さん…、申し訳ないけど、俺はそういう事でコネなんて使いたくないですよ」
「馬鹿だなあ、岩上君は。コネなんて使って何ぼだよ」
会社の仕事が忙しくなると、企画書作りで三日間徹夜で働かせられた事もある。
俺はこんな中途半端な状態で、二十歳を迎えた。
この会社も半年ほど働いて駄目だなと見切りをつけ辞める。
この時本当に辞めるきっかけになったのが松本美紀だった。
女子大生を中心に『コンパニオン』という名目で多くのキャンペンガールを抱えていた平子。
俺も面接をしていたが、偶然その求人に女子大生だった美紀が来たのである。
女にだらしない平子は酒を飲んだ時、俺に言った。
「岩上君さー…、今度松本美紀を呼び出して、上手い具合いにやっちゃおうと思ってさー」
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