49.ミトラ教
画像は以下のサイトから転載。
ミトラ教の創始に関わった王朝や家は、以下から前回まで連続でお伝えしています。長いですが先に読むと経緯などについて理解が深まると思います。
謎の宗教
古代ギリシャ・ローマ時代には、先にお伝えしたエレウシスの秘儀、ディオニュソスの秘儀、オルフェウスの秘儀などのカルトがありました。
ミステリーカルト、秘儀宗教の機能はどれも同じようなものです。表向きはデメテル崇拝などがあり、一般向けの儀式を披露するのですが、裏では秘密の神を崇拝し、秘密の儀式を執り行っています。
秘儀宗教のテンプレは以下のとおりです。
よさげな神がいる。
よさげな神話がある。
教会や神殿などの聖所がある。
儀式がある。
飲み物(向精神薬)がある。
イニシエーションがあり、高位になると秘密を明かされる。
じつはよくない神(いわゆるサタン)を崇拝している。
生贄、フリーセックス、人肉食などが行われる。
生贄に苦痛を与える(魔力増大のため)。
タントラ仏教、学校、会社も例外ではありません。
繰り返しになりますが、ミトラ教はミトラ神を中心とするローマの神秘宗教で、ミトラの秘儀としても知られていました。
ミトラ教は、紀元後一世紀から四世紀ごろまでローマの軍人たちのあいだで流行し、帝国の西半分、南はアフリカ、北はイギリス(ブリテン)、東はシリアにまで及びました。

ここまで広まったにもかかわらず、ミトラは神話に登場しません。
ミトラの秘儀は、フリーメーソンの初期形態と比較されます。複雑な儀礼を持ち、七段階のイニシエーションと、段階ごとに異なる儀式的食事という内容が含まれていました。
入信者たちは自らを「syndexioi」と呼びました。「握手によって結ばれた者」という意味で、フリーメーソンの人たちも握手をします。
ミトラ教の七段階の階級は、コラックス(カラス)、ニンフ、ミレス(兵士)、レオ(ライオン)、ペルセス(ペルシャ人)、ヘリオドロムス(日輪使い)、そしてパテル(父)です。
ミトラの神殿はたいていは洞窟です。プラトンの「洞窟の比喩」にあるように、洞窟は世界をあらわしているからです。

「神殿」の内部は、非常に精巧な図像で埋め尽くされていました。彫刻が施されたレリーフ、彫像、絵画などです。絵画にはさまざまな謎めいた人物や場面が描かれていました。
学者たちはミトラ教の神殿をミトラエアと呼んでいます。先ほどのマップにあるように、かなりの数の遺跡が発見されています。
存在は確かなのに文献がほとんど存在せず、またキリスト教の成立と同時代の秘儀でもあるので、考古学者としてはよけいに腰が入るのでしょう。
タウロクトニー
神殿には、ミトラが牛を殺すレリーフがあります。

このレリーフはタウロクトニーと呼ばれるもので、バリエーションはあるものの、どれも同じテーマを持っています。
タウロクトニーには、フリギア帽をかぶり、雄牛を追い詰めて殺すミトラの姿が描かれています。
雄牛を殺したあと、ミトラはソル(太陽神)と出会います。太陽はミトラにひざまずき、ふたりは握手を交わし、ともに雄牛を食べます。
レリーフを見ると、犬と蛇が雄牛の傷口(血)に向かって伸び上がり、サソリは雄牛のちんこを捕らえています。
カラスは雄牛のまわりを飛ぶか、雄牛の上に立っています。そして雄牛の尻尾からは三本の麦の穂が伸びています。麦はときには傷口から伸びます。
左右には松明を持った、ミトラのミニチュア版のような人がいます。松明を上に向けているのがカウテス、下に向けているのがカウトパテスです。
上と下は、錬金術師ヘルメス・トリスメギストスの「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」という言葉を思い起こさせます。
また、ミトラはときに女神アナーヒターと対になっています。アナーヒターは乙女としてあらわされる金星の神です。
ミトラは太陽で、どちらもペルシャ由来の神です。
バビロニアのシャマシュとイシュタルは、それぞれ太陽と金星になりました。金星は夜明け前に太陽とともに輝くので、二人は夫婦です。またこの二人は同じ神の二つの側面とみなされていました。
ついでに金星のラテン語名はルシファーです。
洞窟には土星や木星が描かれ、星座のシンボルも見られました。ミトラは太陽神ヘリオスと宴を開き、四頭の馬に引かれた戦車に乗って天空に昇ります。
繰り返しになりますが、ミトラ教は文献がほとんどありません。また言及しているのがキリスト教の教父だったりするので、悪いほうにバイアスがかかっています。
現在でも、タウロクトニーその他がなにを意味するのかはわかっておらず、このNoteも含めて臆測の域を出ません。
フランツ・キュモンの説では、ミトラ教はイラン起源です。古代ローマの著者たちもそのように伝えています。
帝政ローマのギリシャ人著述家プルタルコス(四六年ごろ~)は、著書でこう記しています。
かれら(キリキアの海賊)はまた、オリンポスで奇妙な生贄を捧げ、ある秘密の儀式を行った。そのうちのミトラの儀式は、かれらによって最初に制定され、現在までつづいている。
ポントスのミトリダテス六世は、キリキアの海賊を組織した人です。ポントスも海賊もローマと何度も戦いましたので、ミトラ教を知る機会は山ほどありました。
ゾロアスター教のマギに由来するという説がある一方、ローマ時代に行われたミトラの密議は、先にお伝えしたように、プラトン哲学の要素を借用してもいます。
ブリタニカ百科事典にはこのように記されています。
この神話は、ローマのミトラ教によってプラトン哲学の観点から解釈された。生贄は、プラトンの『国家』における洞窟の比喩のように、世界のイメージである洞窟の中で行われた。
ミトラ自身は、『ティマイオス』に登場するデミウルゴス(創造主)と同一視され、……「デミウルゴスにして万物の父」と呼ばれた。四大元素、ミキシング・ボウル(杯)、時間の創造、生まれたばかりの生物に対する邪悪な動物たちの攻撃は、『ティマイオス』のよく知られた特徴である。
ミトラ教の魂の教義は、天地創造の神話やプラトン哲学と密接に結びついている。『ティマイオス』にあるように、人間の魂は天から降りてきた。それは惑星の七つの球体を横切り、それぞれの悪徳(たとえば火星や金星の悪徳)を身にまとい、最後には肉体の中に捕らえられた。人間の人生の課題は、自分の神聖な部分(魂)を肉体の束縛から解き放ち、七つの球体を通って恒星の永遠不変の領域へと再上昇することである。
この天空への昇天は、ミトラ自身が太陽神の馬車に乗って地上を去ったときに予示された。
ウランゼイ説
以下は、デイヴィッド・ウランゼイというミトラ教研究者がミトラの図像について提唱した説です。この人もほかの学者と同様、キュモンのイラン起源説を否定しています。
天動説では、地球は天球に包まれています。そして地球は基本的にまっすぐ立っています。

天球にも水平に赤道が描かれています。地球の赤道を天球まで延長したもので、天の赤道と呼ばれます。
ただ、地球は実際にはコマのようにぐらつきながら自転しているので、北極点(コマの芯棒)自体も一周します。

もちろん赤道も傾いていて、その傾きの角度自体は変わらないのですが、自転軸が動くので傾きの位置は変化していきます。これを歳差運動といいます。

黄道は、天球における太陽の通り道です。黄道は約二三度二六分傾いています。
赤道と黄道が交差している点を交点といいます。交点は二つありますが、黄道上を太陽が下から上に向かうほうの交点を「春分点」といいます。
この交点自体も、歳差運動によってズレ、移動していきます。そしてぐるりと一周して元に戻ります。
星座はたくさんありますが、黄道上に見られる十二の星座を黄道十二星座といいます。牡羊座から魚座までの、誕生日によって勝手に割り振られるあの星座たちです。
西洋占星術では、「春分点」を起点として正確に30度ずつ、黄道を12のサイン(宮)に分割します。
ですが歳差運動があるので、いつの時代も春分点が○○座とは限らないのです。
逆の言い方をすると、春分点は動きながら、長い年月をかけて黄道十二宮の星座を通過していきます。
一つの星座を通過するのにかかる年数は、二一六〇年です。
一周するのにかかる年数は約二五九二〇年です。プラトンはこの一周にかかる年数をパーフェクト・イヤーと名づけました。一般にはプラトン大年として知られています。
現在、春分の日は魚座にあります。数百年後には水瓶座に移動するのだそうです。

ギリシャ・ローマ時代、春分点は牡羊座にありました。魚座の前です。
そしてギリシャ・ローマ時代以前は、当然ながら春分点は牡牛座にありました。牡羊座の前だからです。
つまりミトラの時代に牡羊座に変わった、つまり牡牛の時代が終わったわけです。
ミトラのタウロクトニーには、犬、蛇、カラス、サソリがいます。これらは子犬座、蛇座、鳥座、蠍座に対応します。
マイケル・シュピーデルという作家は、ミトラはオリオン座、という説を唱えています。オリオン座をリーダーとして星座が天空をまわっている、というわけです。

オリオン座は武器を持って牡牛を攻撃しています。オリオン座は黄道十二星座ではなく、いわゆるトレミーの四十八星座に含まれます。


以下は、上記リンク先の全天星図で確認してみてください。赤い水平の点線が天の赤道で、蛇行している黄色い点線が黄道、つまり太陽の通り道です。黄道十二星座が黄道に重なっているのがわかると思います。
オリオン座の左側には子犬座があり、どちらも天の赤道上にあります。
乙女座の下には烏座があります。烏座の隣にはコップ座があり、コップ座の隣には海蛇座があります。どれも天の赤道上にあります。
コップ座は、先ほど出てきたプラトンのミキシング・ボウル、杯に対応します。杯で飲むものといえば神の血、つまりワインなどの向精神薬です。
蠍座は牡牛座の真逆に位置しているのですが、どちらの星座も黄道十二星座で、黄道上にあります。
オリオン座、犬、カラス、杯、蛇はすべて南天星座で、牡牛座と蠍座のあいだに挟まれ、赤道に沿って並んでいます。
そしてミトラは雄牛を殺します。つまりタウロクトニーは、牡羊座時代の到来を象徴する占星術的なレリーフだったのです(ウランゼイ氏はオリオン座については触れていません)。
すべてはつながっている
ミトラの図像で、アトラスのように地球を担ぎ、もう片方の手で黄道十二宮の円を回転させている場面があります。

また、ライオンの頭をしたレオントセファルスの像は、バツの字が描かれた天球の上に乗っています。

このバツは、天の赤道と黄道の交点、春分点をあらわしています。
つまりミトラは、プラトンのいう、天球の向こう、宇宙を越えた場所にいるわけです。ある意味神以上の神です。

ミトラは岩から生まれました。神殿では、球形または卵形の岩の上から出現する様子が描かれています。岩には通常、蛇が絡みついています。

この岩は、宇宙、天動説における天球をあらわしています。オルフェウス教の伝承では、クロノスによってつくられた卵からパネスが産まれます。

パネスは世界の創造主で、二匹の蛇に絡みつかれた姿であらわされます。
バビロン捕囚の時代の預言者エゼキエルは、神を戦車に乗った人の姿として幻視しました。エゼキエル書にはこのような描写があります。
さて、わたしが生き物を見ていると、見よ、生き物のそばで、地の上に一つの車輪があった。四つの生き物それぞれに一つずつの輪である。
その車輪の姿と動きは、光る貴かんらん石のようであった。その四つの顔は一つの似姿であった。かれらの姿とその働きは、あたかも車輪の真ん中に車輪があるようであった。
車輪の中の車輪とは、重なり合った天の赤道と黄道です。ジャイロスコープのような形です。
歳差運動を発見したのはヒッパルコス(紀元前一二〇年ごろ~)といわれています。ウランゼイ氏もこの説に乗ったうえで持論を展開していました。
ですが、カルデア人ははるか前から歳差運動について知っていました。証拠が上がっている発見者はキディヌというカルデア人で、紀元前四世紀ごろの人です。
人類史上はじめて神になった人間であるニムロデは、邪教を創始するにあたって、占星術を重要な要素として取り入れました。
このころから占星術は堕落していましたが、それはすなわち需要があったということです。
ミトラ教は、カルトのマギがこしらえたゾロアスター教の分派ズルワーン教と、カルデアの占星術を組み合わせたものであるようです。
ミトラは三位一体の一神格として導入され、その後ベルと同化し、ニムロデのように太陽神として崇拝されました。
雄牛を殺すミトラ教のミトラは、救世主のような存在で、世界の大火災のあと、プラトン大年の終わりに、雄牛の犠牲によって宇宙を再創造します。
ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』では、審判ののちにサオシュヤントという救世主が処女から生まれます。サオシュヤントは雄牛を生贄に捧げます。
キリスト教との類似は指摘するまでもありません。とにかく春分点の星座が変わると大火災や大洪水などのイベントが起き、救世主があらわれるのです。ストア派の人たちもそのように信じていました。
新プラトン主義者で哲学者のポルピュリオス(二三四年~)は、『ニンフの洞窟』という著書でこのように記しています。
ペルシャ人もまた、神秘主義者(あるいは難解な聖なる儀式に参加する者)を洞窟と呼ぶ場所で入門させる。エウブロスがいうように、ゾロアスターはペルシャの近隣の山々で、万物の創造主であり父であるミトラに敬意を表し、自然発生した洞窟を奉献した最初の人物である。ゾロアスターによれば、洞窟はミトラによって造られた世界に似ているが、洞窟の中に収められているものは、それに見合った間隔で配置されており、俗世の要素や気候の象徴であった。
椀(ボウル)は泉の象徴であり、それゆえ、泉の代わりに椀がミトラの近くに置かれている。
ミトラの神殿は一般的に、泉や小川の近くにあり、水盤が建造物に組み込まれていることが多かったのだそうです。ミトラ教の儀式には新鮮な水が必要だったのです。
(ミトラは)天の赤道近くに置かれ、北の部分を右手に、南の部分を左手に持っている。
松明を持ったミトラのミニチュア版、カウテスとカウトパテスは、マイケル・シュピーデルによると、夏と冬に関連しているのだそうです。
繰り返しになりますが、コップ座に対応する杯、椀、カップ、ボウルは、プラトンが『ティマイオス』で概説した容器で、秘儀における聖なるコップ、キリスト教における聖杯です。コップの中で四大元素が混ぜ合わされ、宇宙が創造されました。
秘儀の入門者は知識を得るため、コップでワイン(神の血)を飲みます。ゾロアスター教でもハオマ、神の酒を飲みます。
プラトンの『エルの神話』には、飲むと記憶を失うレテの川が出てきます。
現在でもある種のエリート少年たちは、少女とセックスし、少年とセックスし、お尻の穴でセックスされ、狂乱状態で少女を引き裂いて貪り食います。そしてその記憶はクスリの力によって失われます。
ギリシャ・ローマ時代の酒といえば、バッカス、ディオニュソスです。信者はワインで狂乱状態になり、乱痴気騒ぎをしていました。バッカスの女性信者ナイアスは、ディオニュソスがされたように素手で雄牛を引き裂きました。いずれもまともではありません。
さまざまな秘儀に使われるカップと神の血、このディオニュソス的象徴は、ユダヤ教のシナゴーグの美術でも存在感を示していました。
「シナゴーグ モザイク」で検索すると、黄道十二宮、季節をあらわす人物四人、四頭の馬に引かれた戦車に乗ったヘリオスが描かれたモザイクが出てきます。

フランツ・キュモンによると、ミトラ教の秘儀の最高の秘密は、ミトラの正体がライオンの頭をした像、レオントセファルス、とのことです。
きみが崇拝していたのは、じつは三位一体の裏にいる邪神、サタンだったんだよ、ということです。
レオントセファルスは、ミトラ、ズルワーン、アーリマン、パネスと同一視されるサトゥルヌスをあらわしています。これらはもともと一つの神でした。
ミトラの秘儀は、太陽との合一によって終わります。
今回は、これまでの集大成といった内容になりました。すべてのオカルトは歴史を遡り、一つの邪神、ニムロデ、またはルシファーに収束するのです。
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