【⑮】僕を裏切ったNo.2の真実と彼を許した理由|鳥貴族で泣き崩れた「裏切り者」の告白
すべてを失った「あの朝」から、数年の月日が流れていた。 僕の会社は泥水の中から再び息を吹き返し、数億円でのバイアウト(売却)に向けて、再び力強く進み始めていた。
そんなある日、僕のスマホの画面に、一件のLINE通知が光った。
一瞬、誰からのメッセージか理解できなかった。
『お久しぶりです。お元気ですか?』
送り主は、僕の会社から社員の8割を引き抜き、僕を地獄の底へ突き落とした張本人。あの「裏切り者のNo.2」だった。
怒り狂い、殺意まで抱いた相手からの、あまりにも拍子抜けするほど普通のメッセージ。
だが、不思議なことに、僕の心に沸き起こったのは憎悪ではなく、どこか「昔共に戦った戦友からの連絡」を見た時のような、静かな感情だった。
僕の感情を推し量ろうとするようなその短い文面に、僕はいたって普通に返信した。
「元気やで! お前はどうなんや?」
それがきっかけとなり、僕たちは数年ぶりに再会し、酒を交わすことになった。 場所は、歌舞伎町の「鳥貴族」
さすがに二人きりでは気まずいだろうと、一斉退社のあの日も会社に残り、彼のこともよく知っている創業期からの事務員の子を連れて向かった。
■ 小さく、透き通ってしまった裏切り者
約束の10分前。鳥貴族の騒がしい店内に足を踏み入れると、彼はすでに一人でテーブルの隅に座っていた。
その姿を見た瞬間、僕は言葉を失った。
分厚い辞表の束をデスクに叩きつけ、「今までお世話になりました」と冷徹に言い放ったあの日の、自信に満ち溢れた彼の面影はどこにもなかった。
身体は一回り小さく見え、存在感がなく、まるで身体が透けて見えそうなほど覇気がなかった。
僕と目が合うと、彼は申し訳なさそうに、怯えたような表情で小さく頭を下げた。目には全く光が宿っていない。
「すぐに何かあったな」と直感した僕は、席に着くなり、あれからどうしていたのかを静かに聞いた。
彼が語ったその後の現実は、因果応報と呼ぶにはあまりにも生々しいものだった。
僕の会社から独立した直後、彼の事業は順調に滑り出した。
しかし、「元の会社から社員を全員引き抜いて独立した」という事実は、狭い業界の取引先にあっという間に知れ渡った。
「あいつは信用できない」
「平気で恩を仇で返す人間だ」
信用の失墜とともに、徐々に業績は傾き始めた。
金の切れ目が縁の切れ目。
あんなに彼を慕ってついていった元ホストの社員たちも、一人、また一人と彼のもとを去っていった。
最終的に会社をバイアウトすることもできず、ひっそりと閉業。
かつて月収数百万円を稼ぎ、僕の右腕として豪遊していた彼は今、「派遣社員」として生計を立てているという。
彼の話を静かに聞きながら、僕の心の奥底に封印されていた負の感情は、いつの間にか完全に消え去っていた。
なぜ今になって連絡してきたのか。
最初は分からなかったが、話を聞くうちに理解した。
彼はただ、どうしようもない自分の現状と過去の過ちを、純粋に「僕」に聞いてほしかったのだ。
■ 泣きじゃくる男と、裏切りの本当の理由
「……なんで、あんな完璧な裏切りができたんだ?」
僕はずっと聞きたかった最大の疑問を、まっすぐに彼にぶつけた。
俺への恨みか、金への執着か。
すると彼は、俯いていた顔をクシャクシャに歪ませて、こう言った。
「俺は……俺はただ、ここまでできるってことを、兄貴に証明したかったんです。俺の実力を、兄貴に認めてほしかった……」
その言葉を口にした瞬間、彼は鳥貴族の騒がしい店内にもかかわらず、周りのお客さんがドン引きして振り返るほど、ボロボロと声を上げて泣きじゃくり始めた。
僕に対する憎しみでも、会社への不満でもなかった。
「自分が作り上げた組織だ」という自負
師匠である僕に対する強烈な承認欲求
ただ「俺はこんなにも強いんだ」ということを僕に見せつけたかったがための、あまりにも歪んだ自己証明だったのだ。
泣きじゃくる彼を見ながら、僕はかつてホストクラブでオーナーにこき使われ、「いつか見返してやる」と黒い野心を燃やしていた自分自身を見ているような気がした。
■ 僕を盲目にした「二重洗脳」の手口
だが、僕にはもう一つ聞かなければならないことがあった。
「お前、俺が教えた『人心掌握術』を……俺に対して使ってたよな?」
涙を拭いながら、彼は小さく頷いた。 そして、彼が僕の目を塞ぎ、社員を洗脳するために編み出した「彼なりの応用技術」を語り始めた。
結論から言うと、彼は僕が教えた「身代わりの芝居」を極悪に進化させた『情報の二重ブラックボックス化』を行っていた。
僕に対しては、
「現場の不満は俺が全部泥を被って抑えときます。兄貴はもっと大きな視点で動いてください」と自己犠牲を演じ、僕から現場のリアルな情報を完全に遮断した。
一方で現場の社員には、
「社長は現場を見てないし無茶ばかり言う。でも、俺が社長の盾になってお前らを守るから、俺についてこい」と、僕を『見えない仮想敵』に仕立て上げ、自分を唯一の救世主に仕立てていたのだ。
双方に「あなたのために泥を被っている」と見せかけ、すべての情報の結節点を独占する。
作った本人である僕ですら全く気づかず、気持ちよく盲目にさせられてしまった、恐るべき洗脳のテクニック。
(※この「二重の共犯関係」の恐ろしさと、組織からこのガンを取り除く具体的な方法は、あまりにも長くなるため、後日別記事として詳細にまとめることにする)
■ 許し。そして再び、師弟へ
話をすべて聞き終える頃には、彼に取り憑いていた迷いや不満はすべて落ち、そこにはただの、不器用で真っ直ぐな一人の「No.2」が座っていた。
僕のすべてを奪った男。
だが、その罪と罰を一身に受け、派遣社員としてボロボロになった彼を見た時。 僕の口から出たのは、説教でも嫌味でもなかった。
「……また、一緒にやるか」
純粋に、なんとかしてやりたいと思った。
あの狂騒の時代を共に駆け抜け、地獄を見た僕たちにしか分からない、血よりも濃い「師弟」の絆がそこにはあった。
現在、彼はもう一度奮起し、再び自分の会社を立ち上げて経営者として歩み始めている。
そして僕は、数億円で会社をバイアウトした現在、彼が行っているその事業の「コンサルタント」として、再び二人三脚で仕事をしている。
事実は、どんな映画よりも奇なり、だ。
次回、最終回。 エリートからの転落、極貧、夜職、そして愛弟子の裏切り。 人生のすべての地雷を踏み抜いた僕の『無様な履歴書』が、なぜ数億円の価値を生んだのか。
今、人生のどん底で絶望しているあなたへ、最後のエールを送る。
📖 この先の物語で語ること(全17話)
① 自己紹介記事
② 年収2000万の家庭→7歳で極貧母子家庭に転落した日の記憶
③ 極貧小学生時代
④ 現実を突きつけられる中学時代
⑤ なぜ非行に走らなかったのか?
⑥ 何の根拠もない高校選択
⑦ 16歳で高校中退 / ニートになる
⑧ 偏差値73まで上げたのに、2浪全敗した話
⑨ 金を稼ぐために”ホスト”になる
⑩ 歌舞伎町で極限生活から最高月収1000万円に駆け上がるまで
⑪ 企業→一瞬で貯金を溶かした
⑫ 愛弟子の裏切りで3分で消えた朝:1
⑬ 愛弟子の裏切りで3分で消えた朝:2
⑭ 倒産間近の企業再建
⑮ 裏切った愛弟子との再会
最 数億でのバイアウト
後日談 バイアウトは不正解だった
