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〈俺の悲しみはお前の幸せ No.4〉

〈俺の悲しみはお前の幸せ No.4〉
著者 七海 文〈ななみ あや〉

俺には、
子供がいるかもしれない。

〈捌けた女〉は、
俺に似ている子供を、
勝手に、産んで、育てていた……。

突然、連絡が、
途絶えるのは、
気紛れな俺達の関係には、
よくあることだった。

だからこそ、
〈捌けた女〉は、
いつも通り、
平和に淡々とした日々を、
どこかで過ごしていると、
俺は思い込んでいた。

あいつは、
あの可愛い男の子〈俺の子〉を、
私だけの子供と俺に言い放った………。
その言葉が、
やけに、
俺の心に引っ掛かった。

俺を拒絶することが、
なかった筈のあいつだった。
どんなことも、
俺を受け入れてきていた。

あいつが、
俺に愛されたがっていることを、
俺は知っていた。

しかし、あいつが、
求めるようには、
俺はあいつを、
愛してこなかったとは思う。

それでも、
俺なりに、
あいつなりに、
愛し合っていたとは思う。

俺に全てを
黙っていたことが、
悲しい。

あいつをそうさせてしまったのも、
きっと、
不甲斐ない俺のせいだろう。

あいつの強さと優しさに、
俺はずっと甘えてもいたし、
利用さえもしていた。

あいつは、
そんな俺を、
ずっと責めてこなかった。

俺を責めないかわりに、
〈俺の子〉と一緒に、
俺の前から、
いなくなった。

あいつが、
妊娠したら、
俺は、
育てたいなんて、
言わないことも、
あいつは、既に、
わかってしまっていたのだろう。

あいつは、
どんな思いで、
〈俺の子〉を、
産んだのだろう……。

一人で産むのって、
怖くなかったのだろうか……。

全部、
自分でやりきってしまうのが、
あいつらしいけど……。

そんなに、
俺は頼りなかったのか……。

あいつが、容易く、
人に甘えられない性格なのも、
わかっていたけど………。

あいつは、
〈俺の子〉を、
自分だけの子供として、
これからも、
育てていく気なのだろうか………。

俺は、
どうしたいんだろう。
どうするべきか。
そのままにはしておきたくない。

やっぱり、
俺は、
〈捌けた女〉に会いたい……。
話し合いたい。

あいつは、
またしても、
俺を拒絶するのだろうか。

あの頃から、
頑なな、
あいつの心を、
俺は何度も何度も、
解かしてきた。

また、
あいつの心を、
再び、解かしたい。

きっと、
鋭いあいつは、
今更と、
俺を怒るだろうな。

今更だから、
意味がある。
そう、俺は信じたい。

〈捌けた女〉よ、
もう一度、
素直な心を、
俺に見せてくれ。

お前が、
あの頃から、
俺を支えてきたように、
俺も、
お前そのものを支えたい。

不甲斐ない俺の弱さを、
俺も誰よりもわかっている。

俺は、〈捌けた女〉に、
会いに行くことにした。

晴れた日の日曜日、
あいつが、
生まれ育った街を、
尋ねていくことにした。

緊張する……。
しかし、
俺達の関係を、
曖昧にしたくない。

元々ある、
俺達の絆を、
守りたい。

あの可愛いらしい
〈俺の子〉と、
〈捌けた女〉の傍に、
俺はいたい。

俺は、〈捌けた女〉の家に、
向かっていた。

なんとなく、
知っていた街だから、
歩いていて、
懐かしかった。

あいつが、
生まれ育った街………。
素直じゃないけど、
まっすぐな心で、
俺を好きになってくれた、
あの頃のあいつを思い出していた。

この複雑な心を持った、
俺の若さで、
たくさん、あいつを
傷つけてしまっていた。

あいつは、
たくさん、
俺を憎んでもいただろう………。

〈捌けた女〉の家に着いた。

玄関先には、
子供の自転車が、
置かれていた。
子供の遊具が、
あっちこっちに、
散らばっていた。

子供も暮らしている家になっていた………。

玄関先のチャイムのボタンを押す。

中から、明るい声が、
聞こえてきた。
〈捌けた女〉の母が、
ドアを開けてくれた。

俺の顔を、
見ても、
動揺はしていなかった。

母親の後で、
明らかに、驚いている、
〈捌けた女〉がいた。

〈捌けた女〉の母親に、
案内される。
俺を、リビングに、
通してくれた。

そして、
俺と〈捌けた女〉は、
2人きりになった……。

〈捌けた女〉は、
あの、いつもの、捌けた笑顔で、
どうしたの?と
聞いてきた………。

また、俺に対して、
感情を、割り切ろうとしている………。

「もう一度、聞きたい、
君の息子、
本当は、俺と君の子供だよね………。」

「……………」

「もし、そうなら、俺は、
君たちの傍にいたい。」

「もし、そうだったら、
どうするの??」

「今更だけど、
ずっと、一人で頑張らせて、ごめん。
君を甘えさせることが出来なくてごめん。頼れなくさせてごめん。」

「本当に今更すぎる!!妊娠した時、一緒に育てようなんて、言ってもらえる未来が、私には見えなかったんだよ。あなたが、逃げていく未来しか見えなかったの!!」

「………………」

「今頃、優しくならないでよ。」

「………………」

 「あなたが、
  ここに来ると思わなかった。」

「君に会いたかったから………。」

「また、あなたは、きっと、
勝手にいなくなるよ………。」

「相変わらず、疑うね……。」

「疑ってないと、あなたと、やってられない。」

「俺はずっとお前を信じてるよ」

「そういうところが狡いの。」

「あの子は、俺達の子供だよね?」

「………そうだよ………。」

「ゆっくり、ゆっくり、君と、
〈俺の子〉と、〈俺〉で、
家族になっていきたい。」

「簡単じゃないと思う………。」

「それは、俺もわかっている。」

「本当に後悔しない??」

「会いたかったから、
もう、後悔していないし、後悔しない。」

俺は、もう、
〈捌けた女〉と〈俺の子〉の未来を、
見つめていく。

何度も、何度も、
〈捌けた女〉に、
疑われながらも、傍にいよう。

もう、しばらくしたら、
外に遊びに行っている、
〈捌けた女〉の父と〈俺の子〉が、
帰ってくるらしい。

そして、帰ってきた、
賢そうな男の子が、
俺を不思議そうに、
見ていた。
俺の顔をずっと、
見ていた。
昔の子供の頃の俺にも、
似ていた。

〈俺の子〉は、
〈捌けた女〉と、
そっくりな、
優しい笑顔をしていた。
まっすぐに育っていた。

俺の目をまっすぐに見ていた。
俺は、その日は、
こんにちはとしか、
言わなかった。
ゆっくり、ゆっくり、
俺の存在に慣れてもらおう。

私の元には、絶対に、
二度と戻ってこないと思っていた、
〈俺〉が、
私のところに来てくれた……。

私と家族になりたいと、
言ってきた………。

〈俺の子〉には、
どう、話したら良いんだろう。

お父さんがいたら良いねと、
何気なく、言ってきた時があった。
ゆっくり、ゆっくり、
〈俺〉の存在を、
受けとめていってほしい…。

私は、最初から、
〈俺〉を愛してはいたけど、
信じ合うことが、
まだ、まだ、難しい………。
俺は私を信じてると、
言ってくれている。

私の母は、
もう、素直に、〈俺〉に、
甘えてしまいなさいと、
笑っていた。

この甘えられない性格だからこそ、
ずっと苦しんできたのだ…。

もう、これからは、
〈俺〉に、甘えていいのかな。
甘えすぎない程度に、
甘えていこう。

そして、
〈俺の子〉を
〈俺〉の手で、
しっかり、抱きしめて、
愛してほしい。

慣れない暮らしのなかで、
〈俺〉と〈俺の子〉が、
無理なく
笑顔で過ごせるようにしていこう。

〈俺の子〉も、
父になった〈俺〉を、
好きになっていけますように。

私と〈俺〉は、
何度も、喧嘩して、
話し合って、
家族になっていくだろう。
〈完〉

七海 文
〈ななみ あや〉


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